2014 年 34 巻 1 号 p. 173-176
症例は71歳,男性。左鼠径部痛にて近医を受診した。左鼠径ヘルニア嵌頓の診断で徒手整復後に根治手術を目的に当院へ転送となった。来院時には下腹部の腹膜刺激症状を伴う圧痛が著名であり,腹部造影CTにて腹腔内遊離ガス像がみられたため消化管穿孔の診断で緊急手術を行った。S状結腸に腫瘤性病変を触知し口側腸管壁の虚血性変化と周囲のやや混濁した腹水を認めた。穿孔部ははっきりしなかったがS状結腸癌のヘルニア嵌頓後の穿孔と考え,Hartmann手術を実施した。病理組織学的診断において中分化型腺癌の診断が得られ,嵌頓を示唆する腫瘍口側壁の菲薄化を認めた。術後経過は良好で術後17日目に退院した。S状結腸癌が鼠径ヘルニア嵌頓後に穿孔をきたした1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。