2016 年 36 巻 6 号 p. 1089-1092
症例は64歳,女性。自宅前で転倒,腹部を打撲し,腹痛を主訴に救急外来受診。腹部全体に圧痛,筋性防御を認めた。腹部造影CTでは,左上腹部から骨盤内に境界明瞭で,内部はやや不均一な濃度を示す径24cm程の腫瘤が描出された。腫瘤上部に内容液の被膜外漏出を疑う所見があり,外傷を契機とした成熟囊胞奇形腫破裂に伴う汎発性腹膜炎と診断し,緊急手術を施行した。開腹所見で巨大な右卵巣腫瘍を認め,腹腔内には脂肪成分に富む腫瘍内容物が流出しており, 術前診断通り外傷性右卵巣成熟囊胞奇形腫破裂であった。左卵巣にも4cm大の同様の腫瘍を認めたため,両側付属器切除術とドレナージを施行した。病理組織所見では,卵巣成熟囊胞奇形腫を背景として偶発的に微小な扁平上皮癌の病巣を認めた。軽快退院後は,婦人科で経過観察中である。術前診断が可能であった外傷性卵巣成熟囊胞奇形腫破裂の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。