2018 年 38 巻 1 号 p. 037-040
症例は88歳の女性,右季肋部痛で受診した。腹部CT検査で周囲に低吸収域を伴う虚脱した胆囊を認め,胆囊穿孔による胆汁性腹膜炎と診断,緊急で開腹胆囊摘出術を施行した。手術所見では腹腔内に暗赤色の腹水を認め,胆囊も暗赤色調で底部に母指頭大の硬結を触知した。摘出標本の病理所見では胆囊底部の硬結は血腫であった。明らかな胆囊穿孔や胆囊粘膜の炎症所見は認めなかった。以上から胆囊底部の漿膜下出血を端緒とする胆囊壁内血腫と診断した。患者は冠動脈ステント留置の既往があり,抗血栓薬内服中であった。また患者には認知症があり,外傷の既往の有無は不明であった。近年,本邦では高齢者を中心に抗血栓療法施行中の患者が増加している。また高齢者では身体機能や認知機能が低下していることが多い。このような背景から,自験例のようにまれな病態で,かつ詳細な病歴把握や正確な術前診断が困難な症例に遭遇することがあり,注意が必要であると思われた。