日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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ISSN-L : 1340-2242
38 巻, 1 号
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原著
  • 深江 政秀, 大石 純, 乗富 智明, 山下 裕一, 長谷川 傑
    2018 年 38 巻 1 号 p. 023-028
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    [緒言]CTの性能は向上しているが,腸閉塞の治療成績は向上していない。[目的]腸閉塞の診療における造影CTの読影法を検討した。[方法]2011年4月から2015年10月の4年7ヵ月間に入院した腸閉塞162例のうちで造影CTが行われた115例を後ろ向きに検討した。[結果]腸管虚血群39例と腸管非虚血群76例を比較した。腸管虚血の多変量解析では腸管壁造影低下(Odds比4.49,P<0.01)が有意であった。有用性が期待された項目は腹膜刺激症状(Odds比14.9,P=0.05),BE(Odds比30.5,P=0.07),腸間膜浮腫(Odds比0.01,P=0.07)であった。[結語]腸管虚血の診断には腸管壁造影低下がもっとも有用である。腸管虚血の否定には腸間膜浮腫が有用と思われる。

症例報告
  • 瀧川 穣, 松田 圭央, 尾之内 誠基, 戸倉 英之, 平畑 忍, 高橋 孝行, 藤崎 眞人
    2018 年 38 巻 1 号 p. 029-032
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    症例は30歳女性,銃で撃たれ当院救命センターに搬送された。来院時意識は清明で循環動態は安定していた。左右上腕,左前胸部に貫通射創,右側胸部は盲管射創を認めた。CTで横行結腸近傍に銃弾と考えられる金属片が存在し,また右肺,肝臓,脾臓の損傷,消化管穿孔を疑う腹腔内遊離ガス像,腹腔内出血,右血気胸を認めた。緊急開腹術で横隔膜,肝,脾損傷を認め縫合止血,胃壁に挫創を認め穿孔部位と判断した。銃弾を検索したが不明で,術中腹部X線で確認できず,胸部X線を撮影すると下縦隔に銃弾を認めた。食道内の可能性を考慮し,内視鏡を施行すると下部食道に銃弾を確認でき,内視鏡で胃内に押し込み胃壁損傷部位より摘出した。今回われわれは,胸腹部銃創で術前には腹部に存在した銃弾が胸部食道内に移動した症例を経験した。消化管内の銃弾は手術操作などで容易に移動する可能性があり,X線の併用など工夫が必要と考えられた。

  • 寺西 立冴, 酒井 健司, 大澤 日出樹, 野呂 浩史, 山崎 芳郎
    2018 年 38 巻 1 号 p. 033-036
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    症例は,74歳女性。前医で肝細胞癌に対するS4,6,7部分切除術の7ヵ月後に,腹痛,嘔吐で救急搬送された。血液検査は,炎症反応の軽度上昇を認め,胸部X線検査で右胸腔内の腸管ガス像,腹部造影CT検査は小腸の横隔膜上への脱出および造影不良を認めた。以上より横隔膜ヘルニア嵌頓と診断し,緊急手術を施行した。ヘルニア門は2.5横指で,終末回腸が右胸腔内へ脱出しヘルニア門で絞扼されていた。前回手術はS7腫瘤が横隔膜に接しており,一部横隔膜に切り込み剝離後,縫合されていた。ヘルニア門は肝切除術施行時の横隔膜縫合部位に一致し,横隔膜ヘルニアの原因と考えられた。また,絞扼された腸管は術中判断で温存できた。今回,肝切除術後に発症した横隔膜ヘルニアの1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

  • 照田 翔馬, 徳毛 誠樹, 高橋 達也, 池谷 七海, 久保 孝文, 國末 浩範
    2018 年 38 巻 1 号 p. 037-040
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    症例は88歳の女性,右季肋部痛で受診した。腹部CT検査で周囲に低吸収域を伴う虚脱した胆囊を認め,胆囊穿孔による胆汁性腹膜炎と診断,緊急で開腹胆囊摘出術を施行した。手術所見では腹腔内に暗赤色の腹水を認め,胆囊も暗赤色調で底部に母指頭大の硬結を触知した。摘出標本の病理所見では胆囊底部の硬結は血腫であった。明らかな胆囊穿孔や胆囊粘膜の炎症所見は認めなかった。以上から胆囊底部の漿膜下出血を端緒とする胆囊壁内血腫と診断した。患者は冠動脈ステント留置の既往があり,抗血栓薬内服中であった。また患者には認知症があり,外傷の既往の有無は不明であった。近年,本邦では高齢者を中心に抗血栓療法施行中の患者が増加している。また高齢者では身体機能や認知機能が低下していることが多い。このような背景から,自験例のようにまれな病態で,かつ詳細な病歴把握や正確な術前診断が困難な症例に遭遇することがあり,注意が必要であると思われた。

  • 川崎 圭史, 野島 広之, 久保木 知, 西野 仁恵, 高屋敷 吏, 古川 勝規, 吉富 秀幸, 清水 宏明, 宮崎 勝, 大塚 将之
    2018 年 38 巻 1 号 p. 041-044
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    症例は23歳女性。乗用車を運転中,対向車との正面衝突で受傷。腹部鈍的外傷,肝前区域から肝S4にかけての複雑深在性肝損傷(Ⅲb型)と診断され,肝止血,S4部分切除術が施行された。術後胆汁漏を認めるも保存的に軽快した。術後半年より腹部鈍痛と肝胆道系酵素の上昇を認め,術後1年,CTで左側優位の肝内胆管拡張を認めた。遅発性胆道狭窄の診断となり当科紹介受診となった。IVR治療で内瘻化は困難であり,手術適応と考え,肝切除を回避し胆道再建により肝温存する術式を選択した。肝門部での胆道再建は困難であったため,Transhepatic Approachによる肝内胆管空腸吻合術を施行した。合併症を認めず,術後21日目に退院となった。当院術後2年の現在,肝機能は正常,左肝内肝管拡張は認めず,経過良好である。

  • 佐藤 健太郎, 木村 憲央, 石戸 圭之輔, 工藤 大輔, 脇屋 太一, 三橋 佑人, 山村 仁, 袴田 健一
    2018 年 38 巻 1 号 p. 045-048
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    非常にまれな外傷性副脾損傷による腹腔内出血を経カテーテル的動脈塞栓術(以下,TAE)で止血した1例を経験したので報告する。症例は15歳,男性。サッカーの試合中に相手選手と交錯した後より腹痛を自覚し,近医で施行した腹部造影CTで脾損傷による腹腔内出血が疑われ当院搬送となった。腹部造影CTでは脾臓の尾側の副脾周囲に造影剤の漏出を認め,副脾損傷を疑い血管造影を行った。脾動脈から副脾への分枝から造影剤漏出を認め,n-butyl-2-cyanoacrylate-lipiodol混和液で同血管を塞栓し止血した。TAE後は経過良好で塞栓術後6日目に紹介医へ転院した。外傷性副脾損傷の報告は非常に少なく,治療のコンセンサスも得られていない。過去の報告ではほとんどが開腹術を行っているが,自験例ではTAEを選択した。低侵襲かつ迅速に止血が得られ,有用な治療法と考えられた。

  • 橋本 幸枝, 坂本 喜彦, 村山 良太, 黒田 宏昭, 佐古 達彦, 永田 直幹
    2018 年 38 巻 1 号 p. 049-052
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    過去に1例しか報告のない極めてまれな形態異常を呈した症例を経験したため報告する。症例は92歳男性。前日昼からの腹痛と嘔吐を主訴に近医を受診し,イレウスの疑いで当院救急外来を紹介受診した。腹部は膨満しており板状硬であった。腹部単純CT検査では下行結腸からS状結腸に多量の便塊が貯留しており,CT値の高い腹水を少量認めた。汎発性腹膜炎の診断で緊急手術を行ったところ,S状結腸の漿膜筋層が約15cmにわたり裂け,便塊で充満した粘膜が穿孔することなく管腔構造を保ったまま脱出していた。裂傷の肛門側端に2/3周性の2型腫瘍を認め,宿便による癌部口側の内圧上昇と何らかの器質的要因により漿膜筋層裂傷が生じ,粘膜下層の循環不全による浮腫・出血から粘膜―筋層間に解離を生じて粘膜が脱出したと推察された。

  • 鳥居 康二, 武内 大
    2018 年 38 巻 1 号 p. 053-055
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    症例:68歳,男性。既往歴:慢性腎不全で3年間の腹膜透析の後,1年前より血液透析に移行。現病歴:腹痛で近医で加療を受けるも改善せず,当院受診。腹部CTでは膀胱直腸窩に腫瘤様に一塊となった小腸を認めた。炎症性変化による腸閉塞と診断しイレウス管を留置,保存的治療を試みたが改善が悪く,手術を施行した。開腹所見は,回盲部より20cm口側に腸管壁が全周性にわたり炎症性に肥厚し一塊となった回腸を認め,小腸部分切除を施行した。病理組織学的検索で筋層を共有する2本の管腔を認め,重複腸管と診断した。原因の明らかでない腸閉塞に対し本疾患の可能性も考慮すべきと考えられた。

  • 安藤 文彦, 松谷 毅, 萩原 信敏, 野村 務, 内田 英二
    2018 年 38 巻 1 号 p. 057-061
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    症例は79歳男性。早朝空腹時に上腹部痛を主訴に来院した。左腎癌に対し腹腔鏡補助下左腎摘除術を施行した既往がある。腸閉塞の診断で緊急入院し,ロングインテスティナルチューブを挿入した。ロングインテスティナルチューブ造影では,左腎摘除時の背部12mmポートサイトに小腸が嵌頓していた。3D-CTでは,小腸が左結腸間膜を貫いて後腹膜腔に入り,背部ポートサイトに嵌頓後に再度左結腸間膜を貫いて腹腔内に戻る所見が得られた。以上から内ヘルニアと後腹膜ポートサイトヘルニアによる腸閉塞と診断し,緊急手術を施行した。術中所見では,小腸が左結腸間膜裂孔を経て後腹膜腔に陥入した内ヘルニアを認め,さらにその小腸が左腎摘除時の背部ポートサイト孔の腹壁欠損部にRichter型に嵌頓していた。左結腸間膜裂孔ヘルニアとその嵌頓小腸の後腹膜ポートサイトRichter型ヘルニアを同時に認めた報告はまれであり文献的考察を加えて報告する。

  • 鳥谷 建一郎, 馬場 裕之, 藤原 大樹, 杉田 光隆
    2018 年 38 巻 1 号 p. 063-065
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    症例は45歳男性。バイク運転中にトラックと衝突して救急搬送された。Primary Surveyでは循環評価の異常としてFocused assessment with sonography for trauma(以下,FAST)陽性であったが,vital異常は認めなかった。Secondary Surveyでは腹部に汎発性腹膜炎所見と心窩部,左側腹部に打撲痕を認めた。血液検査所見はCre 1.77mg/dLと高値であった。腹部CT検査所見で遊離ガス像を認め,Morrison窩,直腸膀胱窩に腹水の貯留を認めた。外傷性上部消化管穿孔を疑い同日緊急手術を行った。直腸Raの穿孔と腹腔内膀胱破裂を認め,Hartmann手術と膀胱縫合閉鎖術を行った。交通外傷は損傷の部位の特定が困難であり,複数臓器損傷を伴う症例が多く,予期せぬ腹腔内損傷の可能性も念頭に診療を行う必要がある。

  • 村田 竜平, 大渕 佳祐, 財津 雅昭, 今 裕史
    2018 年 38 巻 1 号 p. 067-070
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    症例は85歳女性。朝食後に発症した腹痛を主訴に近医を受診した。造影CT検査では,広範囲な小腸の拡張像,骨盤内小腸にbeak signと造影効果不良な領域を認め,絞扼性腸閉塞の疑いで当院へ救急搬送された。来院時も腹痛が持続し,緊急審査腹腔鏡を実施した。術中所見では,S状結腸間膜右葉が約5cm欠損し,Treitz靭帯より155cm肛門側の部位から約30cmにわたる小腸が同部位へ嵌頓していた。欠損孔を一部切開して嵌頓した小腸を引き抜くと,嵌頓小腸の黒色調変化を認めた。小開腹をして同部位を含む小腸を約50cm切除したところ,切除標本の一部に壊死を認めた。残存小腸を機能的端々吻合で再建し,ヘルニア門は切開を加えて解放とした。経過良好のため,術後10日で退院となった。S状結腸間膜内ヘルニアはまれな疾患であり,一般に術前診断は困難だといわれているが,腹腔鏡手術は診断・治療の両方に対して有用である。

  • 好中 久晶, 佐藤 太一, 松本 直基
    2018 年 38 巻 1 号 p. 071-074
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    29歳の男性が下腹部痛を主訴に当院を受診した。来院時のCTでは,内部に石灰化を伴い回腸と連続性のある3cm大の囊胞性病変と,その周囲にfree airを認めた。腸石によるMeckel憩室の穿孔と診断し,緊急開腹術を施行した。回腸末端から約50cmの腸間膜側にMeckel憩室を認め,その頂部が穿孔していた。基部の炎症は軽度であり,かつ憩室が長く基部が細かったため憩室切除を施行した。摘出標本では,憩室基部に腸石を認め,憩室頂部の一部が穿孔していた。腸石の憩室基部への嵌頓により,憩室内圧が上昇して穿孔したと判断した。腸石はシュウ酸カルシウムからなる真性腸石であり,憩室内に異所性粘膜は認めなかった。術後創感染を合併したが術後10日目で退院した。今回われわれは,比較的まれな真性腸石によるMeckel憩室穿孔の1例を経験した。術式の選択は,憩室の形状や炎症の範囲を十分考慮し,慎重に判断されるべきである。

  • 近藤 優, 森 美樹, 石川 衛, 宮本 康二
    2018 年 38 巻 1 号 p. 075-079
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    消化管疾患の内視鏡治療の適応は拡大されているが,十二指腸腫瘍の内視鏡治療は胃・大腸と比較し対象となる疾患が少ないため適応基準や安全性の確立がされておらず短期および長期成績は出ていない。とくに非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection:以下,ESD)は十二指腸の解剖学的特徴とそれによるスコープの操作性の困難さから偶発症が起きやすい。今回われわれはESD後に発症した十二指腸穿孔に対して緊急開腹手術を施行した2例を経験したので報告する。1症例目はESD後2日目に確認された下行部穿孔に対し十二指腸空腸吻合を行った。2症例目はESD後1日目に穿孔が確認され穿孔部縫合閉鎖・大網被覆術を行った。穿孔修復部は胆汁や膵液が暴露するため縫合不全などの合併症が多くみられるが,本症例でも術後合併症で難渋した。

  • 三輪 武史, 坂東 正, 奥村 知之, 長田 拓哉, 清水 哲朗
    2018 年 38 巻 1 号 p. 081-087
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    門脈ガス血症は消化器疾患に伴うことが多く,静脈ガス血症は外傷や医原性で発症するとされるが両者の合併はまれである。今回われわれは膀胱憩室穿孔による敗血症性ショックの経過中に短時間に門脈ガスおよび静脈ガスの出現を認めた症例を経験したので報告する。症例は80歳,男性。前立腺肥大症による尿閉のため自己導尿管理であった。食思不振,呼吸困難を主訴に当院へ救急搬送された。腹部は膨満し硬く,腹部CT検査で膀胱憩室穿孔を疑い,膀胱カテーテル挿入と膀胱洗浄を施行した。しかし血圧低下,ショックに移行し,110分後に再検したCT検査で門脈内ガス,両側大腿静脈ガス,腹腔内遊離ガスを認めた。緊急開腹手術で膀胱憩室穿孔と膿性腹水を認め,穿孔閉鎖術,ドレナージ術を行ったが,多臓器不全を合併し手術から40時間後に死亡した。本症例は腹膜炎,敗血症性ショックにより門脈ガスを形成し,静脈系へ流入した可能性が考えられた。

  • 川島 到真, 西村 隆一, 山下 洋, 小山田 尚
    2018 年 38 巻 1 号 p. 089-092
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    症例は58歳女性で心窩部痛と嘔吐,意識障害で近医へ救急搬送され,精査加療目的に当院紹介となった。著明な脱水と腎機能障害を認めCT検査で十二指腸下行脚の狭窄と水平脚を形成せずに空腸に移行する腸回転異常を認めた。経鼻胃管挿入で腹部所見改善し,腸管虚血や壊死を疑う所見もなかったため保存的入院とした。翌日の内視鏡検査で十二指腸狭窄を認め肛門側への造影剤流出障害を認めた。スコープは狭窄部を通過したが狭窄部口側への造影剤の逆流はなかった。器質的狭窄と考え同日手術を施行した。十二指腸は水平脚を形成せずに下行し,その腹側に右側結腸が走行する腸回転異常を認めた。十二指腸は回腸末端部の腸間膜と癒着しており,狭窄および緩やかな捻転を呈していた。癒着剝離し狭窄を解除し,腸管固定は行わなかった。術後経過良好で第6病日に退院した。まれではあるが手術既往のない十二指腸狭窄の原因として本症例も念頭に置く必要があると考えられた。

  • 牧野 曉嗣, 藤田 晃司, 菊永 裕行, 三浦 弘志, 三上 修治, 熊井 浩一郎
    2018 年 38 巻 1 号 p. 093-096
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    症例は55歳,男性。早朝より自覚する腹痛を主訴に当院外来を受診した。腹部造影CT検査でS状結腸から直腸に便塊の貯留を認め,便秘の診断で帰宅となった。同日午後,疼痛増強のため,再来院し,発熱,腹部全体の圧痛,筋性防御を認めたため入院となった。腹部造影CT検査でS状結腸から直腸まで便の貯留および虫垂の軽度腫大と腹水貯留を認めたが,腹腔内遊離ガスは認めなかった。同日,急性虫垂炎の診断で緊急手術を施行した。血性腹水を認めたため,用手的に腹腔内を検索すると,S状結腸に不整な壁を触知したため,下腹部正中切開を追加した。S状結腸の漿膜・筋層の断裂を認め,切迫性特発性大腸穿孔と診断し,S状結腸部分切除術およびS状結腸単孔式人工肛門造設術を施行した。術後経過良好のため術後7日目に退院となった。

  • 山下 健太郎, 門野 潤, 中薗 俊博, 中村 好宏, 井本 浩
    2018 年 38 巻 1 号 p. 097-100
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    胃石を合併した特発性食道破裂を報告する。症例は77歳の男性で,内視鏡検査で胃石を指摘されていた。嘔吐した直後に胸背部痛が出現し,CTで食道破裂と診断された。食道透視で胸部下部食道に陰影欠損を認めた。左第7肋間開胸を行ったが,胸膜癒着が高度で胸膜外経路を追加し食道に到達した。胸部下部食道左側壁の穿孔部とその口側に結石を認めた。結石摘出,一期的縫合閉鎖,大網被覆と胸腔ドレナージ術を行った。空腸にも胃石と思われる固形物を認めた。食道破裂の機序は,①胃石による上部消化管閉塞,②嘔吐した際に胃石の一部が食道に嵌頓,③食道内圧が上昇し,食道が破裂した,と考えた。第15病日に初回穿孔部より口側の食道が穿孔し,ドレナージと胸膜開窓術を施行したが,第52病日に大動脈が破裂し,死亡した。胃石は食道穿孔の原因となり得るため,内視鏡的摘出や破砕が必要と考えられた。

  • 中川 陽史, 高野 学, 小川 敦司, 山下 浩正
    2018 年 38 巻 1 号 p. 101-104
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    今回われわれは高齢者3例の盲腸捻転症を経験した。症例は79歳,84歳および86歳の男性で,嘔吐,経口摂取不良を主訴に来院した。CTで症例1では横行結腸捻転を,症例2,3では盲腸軸捻転を疑われ緊急手術が行われた。3例とも盲腸近傍の後腹膜への固定は不良で回盲部が捻転しており,同部位の壊死または腸管壁の脆弱化を認め腸切除が行われた。術後経過はいずれも良好であった。盲腸捻転症は比較的遭遇する機会の少ない疾患であるが高齢者で長期臥床を必要とする患者に多い。認知症のある高齢者や意識障害または精神疾患のある患者は腸管虚血に陥っても腹部所見が乏しい場合があることを十分考慮したうえで診断治療に臨まないといけない。

  • 鈴木 優美, 佐伯 悟三, 松島 正哉, 平松 聖史, 新井 利幸
    2018 年 38 巻 1 号 p. 105-108
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    症例は72歳,女性。近医より後腹膜大量出血による出血性ショックの状態で転院搬送された。緊急血管造影検査で下膵十二指腸動脈からの持続的な出血を認め,塞栓術を施行しすみやかに循環動態は安定した。塞栓術後腹部コンパートメント症候群(abdominal compartment syndrome:以下,ACS) を発症したため緊急開腹血腫除去術を行い,全身状態は改善した。動脈性の大量出血による出血性ショックに対して,血管塞栓術は低侵襲で迅速に止血が得られるため効果的な治療法である。一方,大量の血腫が後腹膜または腹腔内に残存しACS発症のリスクが高いため,大量出血に対する塞栓術後にはACSを念頭に置き,診療にあたることが重要である。

  • 深堀 晋, 前島 拓, 向井 信貴, 河野 透
    2018 年 38 巻 1 号 p. 109-112
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    症例は57歳男性。突然の腹痛を主訴に救急搬送された。絞扼性イレウスを疑い試験開腹を行ったところ,小腸全体が軸捻転を起こしていた。原因となる癒着,炎症を伴わなかったことから原発性小腸軸捻転症と診断された。単純捻転整復のみで終了し退院されたが,1年1ヵ月後,同様の症状で救急搬送された。原発性小腸軸捻転症の再発と診断し試験開腹を行ったところ,小腸のほぼ全体が時計回転方向へ約1回転半軸捻転を起こしていた。腸切除は要せず,単純整復後に再発予防のために後腹膜への固定を行った。本邦での原発性小腸軸捻転の再発症例は非常にまれであるが,自験例を含め4例の再発症例が報告されている。再発予防のために後腹膜固定が行われている。

  • 安川 大貴, 松原 慕慶
    2018 年 38 巻 1 号 p. 113-116
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    症例は37歳,女性。腹痛を主訴に当院救急外来を受診した。血液検査で炎症反応の上昇を認め,腹部造影CT検査で中等量の腹水と,虫垂や左付属器周囲の炎症性変化を認めた。穿孔性虫垂炎または骨盤内炎症性疾患を疑い,全身麻酔下に診断的腹腔鏡を行う方針とした。術中所見では,左卵管留水腫が約720度捻転し,黒色に変色,壊死していた。近接する虫垂にも炎症の波及がみられたため,腹腔鏡下に左卵管切除と虫垂切除を施行した。一般に卵管留水腫茎捻転は比較的まれな疾患で,術前診断が困難である。一方,子宮付属器疾患は鏡視下手術で安全に治療し得ることが多く,また開腹手術と比較し低侵襲で整容性も高い。成人女性の非典型的な急性腹症に対する診断的腹腔鏡は,躊躇せずに施行することでまれな疾患の迅速な診断を可能にし,さらには引き続き低侵襲な治療が実施できる点で有用であることが示唆された。

  • 萩 隆臣, 石川 慧, 金沢 景文, 溝尻 岳, 李 喬遠, 岡 博史
    2018 年 38 巻 1 号 p. 117-121
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    壊死型虚血性大腸炎の中でも全大腸型の報告は過去にほとんどなく,非常にまれである。症例は高血圧症の既往がある73歳,男性。前日より腹痛,全身倦怠感を認めていた。その後症状の増悪を認め,当院救急搬送となった。来院時,ショック状態であり,著明な代謝性アシドーシスを認めた。腹部CT検査で腹水貯留,門脈ガス像,広範な大腸壁の菲薄化,周囲の脂肪織濃度上昇を認め,広範腸管壊死の術前診断で緊急開腹手術を施行した。手術所見では,回腸末端から200cm口側の回腸から腹膜反転部の上部直腸にかけて,腸管は散在性に壊死しており,さらに下部直腸の粘膜の虚血性変化を認めた。手術としては大腸全摘術,回腸人工肛門造設術を施行した。壊死型虚血性大腸炎および非閉塞性腸管虚血に対する手術としては壊死腸管の切除が原則である。自験例では下部直腸の粘膜にまで壊死が及んでおり,大腸全摘術を行った。文献的考察を加え報告する。

  • 佐藤 拓也, 梁 英樹, 吉田 一成, 山下 由紀, 白井 雄史
    2018 年 38 巻 1 号 p. 123-127
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,女性。2週間ほど持続する発熱・腹痛を主訴に受診。腹部造影CTで骨盤内右側に膿瘍を疑う所見を認め,精査加療目的で入院した。まず絶食,抗生剤による加療を行った。入院後に施行したMRI,単純CTで膿瘍の部位として小腸間膜が疑われた。症状はやや改善し食事を開始したが,毎食後に腹痛が発生した。膿瘍も残存しており入院後第12日目に腹腔鏡補助下手術を施行した。腹腔鏡の所見で,回盲弁より15cmほど口側の回腸腸間膜内に膿瘍を疑う所見を認めた。腹腔鏡下で回盲部を授動して,右側腹部のおよそ4cmの皮膚切開で回盲部切除術を施行した。術後経過は良好で術後第11日目に退院した。病理検索において膿瘍の原因は特定できなかった。術前検査で部位の特定が困難な骨盤内膿瘍に対して腹腔鏡補助下手術は診断・治療において有用であった。

  • 村上 耕一郎, 龍田 健, 跡地 春仁, 板垣 成彦, 貝田 佐知子, 植木 智之, 村尾 佳則, 小玉 正智
    2018 年 38 巻 1 号 p. 129-132
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    症例は35歳男性,4,5日前からの便秘,左下腹部痛を主訴に救急受診した。来院時左下腹部に硬結と圧痛を認めた。単純CTを施行し腹部条件(window width(以下,WW)=270,window level(以下,WL)=10)でS状結腸に鉛管状所見と口側の拡張を認め,20cm×7cm大の腸管内異物の存在が疑われた。肺野条件(WW/WL=1,800/−700)において明瞭に描出される平均CT値−200HU(Hounsfield Unit)の石油製品と診断し,破砕による人体毒性が否定できないため内視鏡下での摘出にこだわらず開腹し筒状性玩具を摘出した。術後経過は良好であった。一般に腸管内異物の検索にはCT検査が有効であるが,今回のようにウィンドウ幅の大きな条件でなければ描出できないCT値を示す材質のものも念頭に置く必要があることが示唆された。

  • 島津 将, 中村 隆俊, 森瀬 昌樹, 渡邊 昌彦
    2018 年 38 巻 1 号 p. 133-136
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    症例は50歳,男性。2週間ほど前より腹部の不快感を認め,腹痛が増強したため当院を受診した。腹部は膨満し,右下腹部から上腹部にかけて圧痛および軽度の反跳痛を認めた。造影CTでは造影効果を伴う類円形の腫瘤を先進部にtarget signを呈しており腸重積と診断した。腹膜刺激症状を認めていたため,緊急手術の方針とした。術中所見は,盲腸内にやや硬い腫瘤を触知し,悪性も否定できないためリンパ節郭清を伴う回盲部切除術を施行した。切除標本の肉眼像では,腫瘤は約4cm大の有茎性病変であり,粘膜下腫瘍の形態を呈していた。病理組織学的に成熟脂肪組織と毛細血管の増生を認め,血管脂肪腫と診断した。小腸原発の血管脂肪腫はまれな疾患であるが,小腸腸重積の原因疾患として考慮する必要があると考えられた。

  • 加藤 奈月, 山口 哲司, 神山 公希, 真鍋 高宏, 山下 巌
    2018 年 38 巻 1 号 p. 137-141
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    症例は42歳,男性。急激に発症した下腹部痛を主訴に当院を受診した。38℃台の発熱と左下腹部に軽度の圧痛を認めた。血液検査で炎症反応の上昇があり,腹部CT検査でS状結腸腸間膜にair density,および周囲脂肪織濃度の上昇を認めた。S状結腸憩室の腸間膜穿通と診断したが,腹部症状が軽度であったため,絶食と抗生剤による保存的加療を開始した。徐々に炎症所見は改善していたが,第4病日に再び38℃台の発熱と,腹部CT検査で膿瘍の拡大を認めたため,緊急手術を行った。開腹するとS状結腸間膜内に柔らかい膿瘍を触知したが,腹水の汚染は認めず,膿瘍を穿破することなくS状結腸切除術を施行した。摘出標本で結腸憩室の腸間膜穿通が確認された。合併症なく経過し,術後12日目に退院した。結腸憩室穿通による腸間膜膿瘍形成は比較的まれな疾患であるが,炎症が限局するため,早期に適切な治療を行えば予後良好と考えられた。

  • 太田 勝也, 池永 雅一, 板倉 弘明, 上田 正射, 津田 雄二郎, 中島 慎介, 足立 真一, 遠藤 俊治, 李 京美, 市川 稔, 木 ...
    2018 年 38 巻 1 号 p. 143-147
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    症例は78歳男性。上行結腸癌と診断され,術前精査を行っていた。就寝中に突然胸痛が出現し,救急外来を受診した。心電図でV1~V4のST上昇を認め,冠動脈造影検査を施行した。狭心症状を発症するような有意狭窄は認めなかった。主腫瘍からの下血により5日間で血中Hb値が10.0g/dLから7.7g/dLへ低下し,貧血により心筋虚血が誘発されたと判断した。濃厚赤血球輸血を行い,緊急手術の方針とした。腹部正中切開で開腹し,結腸切除術を行った。術後胸痛発作や心電図上でST変化は認めなかった。主腫瘍はpStageⅢbであった。術後7週間よりバイアスピリン内服をしながら術後補助化学療法を行った。Oncologic Emergencyは癌自体あるいは癌治療に関連した原因により生命危機が切迫し救急処置が必要とされる状態である。今回,腫瘍出血を契機に相対的心筋虚血を発症した上行結腸癌の1例を経験したので報告する。

  • 三宅 亨, 園田 寛道, 清水 智治, 植木 智之, 竹林 克士, 貝田 佐知子, 山口 剛, 谷 眞至
    2018 年 38 巻 1 号 p. 149-152
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    【症例1】40歳代,女性。左側腹部痛で当院受診となった。腹部CTで空腸に約25mmの高CT値の線状陰影と周囲腸管の浮腫を認めた。魚骨穿通による限局性腹膜炎と診断し,抗菌薬で保存的加療を行った。入院後4日目の腹部CTで線状陰影の消失を確認した。翌日食事を開始し,12日目に退院となった。【症例2】80歳代,男性。腹痛,粘血便を認め,翌日当院受診した。下腹部に限局した圧痛を認めたが,腹膜刺激症状は認めなかった。血液検査でCRPの上昇を認めた。腹部CTで回腸の限局性壁肥厚と32mmの高CT値の線状陰影を認めた。明らかな膿瘍形成,腹腔内遊離ガス像は認めなかった。魚骨穿通による限局性腹膜炎と診断し,抗菌薬で保存的加療を行った。入院6日後のCT検査で線状陰影の上行結腸への移動を確認した。翌日食事を開始し,12日目に退院となった。本症例において,CT検査による経時的な魚骨の追跡が保存的加療に有用であった。

  • 山口 拓朗, 坂部 龍太郎
    2018 年 38 巻 1 号 p. 153-157
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    成人腸重積は90%以上で器質的疾患が成因とされる。Crohn病は非連続性に分布する全層性肉芽腫性炎症や瘻孔を特徴とする原因不明の慢性炎症性疾患であるが,Crohn病が腸重積の原因となることはまれである。今回,術前画像所見で腸重積と診断し緊急手術を施行後,術後病理診断でCrohn病の確定診断に至った1例を経験した。症例は37歳,女性。腹痛,嘔気,下痢を主訴に当院を受診。腹部超音波検査,CT検査で回盲部にtarget signを認め,腸重積の診断のもと緊急で腹腔鏡補助下回盲部切除術を施行した。術中所見で回腸末端が上行結腸に重積していた。切除標本で回腸末端からBauhin弁にかけて内腔の狭窄を認め,同部が先進部であった。病理組織学的検査で狭窄部には多数の非乾酪性肉芽腫,多核巨細胞,裂溝を認め,Crohn病と診断した。Crohn病の狭窄病変が先進部となり腸重積をきたした,まれな病態であった。

  • 沢津橋 佑典, 中山 善文, 秋山 正樹, 永田 淳, 平田 敬治
    2018 年 38 巻 1 号 p. 159-163
    発行日: 2018/01/31
    公開日: 2018/09/21
    ジャーナル フリー

    今回われわれは,子宮・膀胱全摘術後に経膣小腸脱をきたした1例を経験したので報告する。症例は84歳女性,既往として4年前に子宮浸潤を伴う膀胱癌に対し,開腹膀胱全摘,両側尿管皮膚瘻造設および子宮全摘術を施行され,3年前に小腸膣瘻に対して小腸部分切除,膣壁瘻孔部閉鎖術を施行された。今回,排便時にいきんだ際に膣からの腸管脱出と腹痛が出現したため当院を受診した。来院時,膣から腸管が脱出し嵌頓しており,還納困難であったため,緊急で小腸部分切除,膣閉鎖術を施行した。術後経過は良好で,術後1年経過した現在,健在である。子宮・膀胱全摘術後の経膣小腸脱は非常にまれな疾患であり,治療には婦人科,外科を含めた多診療科的な連携が必要と思われた。

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