2019 年 39 巻 7 号 p. 1255-1258
既往に認知症を認める91歳女性が,嘔吐と腹痛を主訴に救急搬送された。バイタルサインは安定し,腹部診察と血液検査では重篤な腹腔内感染症を示唆する所見に乏しかった。腹部CTでは著明な門脈内ガスを認め,胃から十二指腸下行部および近位空腸には泡状壁内気腫像を認めた。CTでは気腫性胃炎に特徴的な気泡像を認めたが,臨床所見から嘔吐に伴う胃壁内気腫症を疑い抗生剤投与による保存的治療を開始した。翌日の腹部CTでは門脈内および腸管壁ガス像の改善と同腸管の壁肥厚を認めた。入院時の血性胃液の培養では,数種類のガス産生腸内菌が検出された。細菌検査や第7病日の上部消化管内視鏡検査の所見および家人の情報から,最終的に認知症に伴う不潔行動を起因とする気腫性胃炎と診断した。保存的治療で症状は改善した。自験例は,気腫性胃炎の起炎菌であるガス産生菌の感染経路において興味ある症例と考えられた。