2019 年 39 巻 7 号 p. 1297-1301
症例は68歳,女性。1週間前から咳嗽を認め,前日から持続する左側腹部痛を主訴に当院受診した。腹壁瘢痕ヘルニア手術歴があり,降圧薬のみ内服していた。左側腹部に可動性不良な圧痛を伴う弾性硬の腫瘤を認め,血液検査所見ではCRP 0.58mg/dLと軽度上昇,Hb 11.5g/dLと軽度低下するも凝固系の異常は認めなかった。腹部造影CT検査では左側腹壁に約4cm大の血腫を認め,内部に血管外漏出を伴う所見を認めた。以上から非外傷性の腹直筋血腫と診断した。バイタル安定しており経過観察目的に入院とした。入院後,徐々に自覚症状は改善し,血腫の増大も認めなかったため第4病日に退院とした。腹直筋血腫は急激な腹直筋の収縮による上下腹壁動静脈の破綻により腹直筋鞘内に血腫を生じる比較的まれな疾患である。今回われわれは咳嗽を契機に発症した非外傷性腹直筋血腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を踏まえて報告する。