2022 年 42 巻 1 号 p. 41-45
症例は72 歳の男性。吐血を主訴に前医に救急搬送され,上部消化管内視鏡検査で胃体上部小弯の潰瘍性病変から出血を認めた。当院に紹介搬送となり,内視鏡的止血術が計画されたが,観察時点で穿孔が疑われたためただちにCT 検査を施行した。CT 検査でupside down stomach を呈した胃の大部分が食道裂孔ヘルニア囊内に陥入しており,ヘルニア囊内に遊離ガス,液体貯留を認めた。縦隔から頸部にかけても遊離ガスを認め,食道裂孔ヘルニア囊内胃穿孔の診断で外科に紹介され,緊急手術を施行した。手術は腹腔鏡下で行い,穿孔部縫合閉鎖と小網被覆,胃前壁と腹壁の固定を行い終了した。術後経過は良好であり術後19 日目に自宅退院した。食道裂孔ヘルニア囊内での消化管穿孔は重度の縦隔炎や胸腔内感染を引き起こせば重篤で致死的な病態であるが,今回のように全身状態が良好で胸腔・縦隔への穿破がない症例では腹腔鏡下手術も選択しうると考えられ,文献的考察を交え報告する。