日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
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42 巻, 1 号
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原著
  • 中尾 詠一, 本多 通孝, 宮川 哲平, 小林 拓史, 高野 祥直
    原稿種別: 原著
    2022 年 42 巻 1 号 p. 23-27
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    【背景】小児の膿瘍形成性虫垂炎は,保存的加療後に待機的虫垂切除を行う,interval appendectomy(以下,IA)が推奨されているが,高齢者では報告は少ない。【方法】2011 年から2021 年に手術が実施された膿瘍形成性虫垂炎症例のうち,65 歳以上を対象とした。患者背景,IA の実施割合,IA 成功割合,IA 成功例における総入院日数,総医療費について記述統計量を評価した。また安全性評価として,緊急手術施行例(EO 群)とIA 成功例(IA-S 群)について,術式,術後合併症発生割合を比較した。【結果】対象は36 例(EO 群23 例,IA 群13 例)。IA 成功例は10 例(76.9%)であった。EO 群とIA 群に患者背景の大きな差はなかった。EO 群:IA-S 群で,術後合併症は9 例:1 例(P=0.27),開腹手術は17 例:1 例,拡大手術は16 例:2 例であった。合併症では,EO 群で術後麻痺性イレウスが多かった。総入院日数は13 日:17.5 日(P=0.02),総入院費は両群で有意差はなかった。【結語】高齢者においても膿瘍形成性虫垂炎に対するIA は有用な治療になり得る。

症例報告
  • 長田 祥子, 世古口 英, 井上 昌也, 加藤 健宏
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 1 号 p. 29-32
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    魚骨穿通による肝膿瘍はまれである。今回われわれは,胃から肝臓への魚骨穿通により発症した肝膿瘍の1 例を経験した。症例は66 歳,女性。心窩部痛を主訴に外来を受診した。CT で胃から肝左葉へ穿通する線状構造物を認め,魚骨穿通と診断した。上部内視鏡検査では胃内腔に魚骨は認めなかった。緊急で腹腔鏡下手術を施行した。術中所見では胃壁から外側区域に穿通する魚骨を認め,これを抜去した。肝膿瘍は単発で異物除去により膿瘍腔が開放されたため肝臓を穿刺ドレナージする必要はないと判断した。腹腔内洗浄後,肝下面にドレーンを留置して手術を終了した。術後経過良好で,術後第13 病日に退院となった。魚骨穿通による肝膿瘍に対しては抗生剤,経皮経肝膿瘍ドレナージ(percutaneous transhepatic abscess drainage:PTAD)などの前治療後に異物除去が行われることが多い。今回われわれはすみやかに腹腔鏡手術を施行し,魚骨除去とドレーン留置のみで良好な結果が得られた。文献的考察を加え報告する。

  • 北見 智恵, 河内 保之
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 1 号 p. 33-36
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    腫瘍内出血による貧血症状をきたした後腹膜脱分化型脂肪肉腫の1 例を報告する。症例は75 歳,女性で,13cm 大の左腎頭側の後腹膜腫瘍と診断された。手術待機中にHb 7.6g/dL と貧血の進行を認め,CT で腫瘍内出血が疑われた。循環動態が安定しており,輸血を施行し,待機手術とした。結腸間膜,左副腎,Gerota 筋膜,左腎被膜を合併切除し,腫瘍摘出を行った。組織学的に孤立性線維性腫瘍と類似した所見であったが,免疫組織学的検査でCD34,MDM2,CDK4 陽性で,脱分化型脂肪肉腫と診断された。血腫近傍で組織学的切除断端陽性であった。局所再発,肺転移のため術後23 ヵ月で永眠された。腫瘍内出血を伴う脱分化型脂肪肉腫はまれな病態で術前診断は困難であるが,本症を念頭に置き,surgical margin を十分に確保した切除が重要である。

  • 渡部 和玄, 東園 和哉, 徳田 智史, 田口 祐輔, 大端 考, 大場 範行
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 1 号 p. 37-39
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    74 歳,男性。X 月,S 状結腸癌に対して腹腔鏡下S 状結腸切除術を施行した。術後7 日目,S 状結腸切除術後の腸間膜欠損部における内ヘルニアの診断で緊急で腹腔鏡下内ヘルニア整復術を施行した。10cm 以上と大きい腹膜欠損部にもかかわらず術後内ヘルニアを引き起こしたまれな症例を経験したので,成因や修復方法について若干の考察を加えて報告する。

  • 藤瀬 悠太, 西牟田 雅人, 荒木 政人, 若田 幸樹, 濱田 聖暁, 渋谷 亜矢子, 橋本 慎太郎, 大関 圭祐
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 1 号 p. 41-45
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    症例は72 歳の男性。吐血を主訴に前医に救急搬送され,上部消化管内視鏡検査で胃体上部小弯の潰瘍性病変から出血を認めた。当院に紹介搬送となり,内視鏡的止血術が計画されたが,観察時点で穿孔が疑われたためただちにCT 検査を施行した。CT 検査でupside down stomach を呈した胃の大部分が食道裂孔ヘルニア囊内に陥入しており,ヘルニア囊内に遊離ガス,液体貯留を認めた。縦隔から頸部にかけても遊離ガスを認め,食道裂孔ヘルニア囊内胃穿孔の診断で外科に紹介され,緊急手術を施行した。手術は腹腔鏡下で行い,穿孔部縫合閉鎖と小網被覆,胃前壁と腹壁の固定を行い終了した。術後経過は良好であり術後19 日目に自宅退院した。食道裂孔ヘルニア囊内での消化管穿孔は重度の縦隔炎や胸腔内感染を引き起こせば重篤で致死的な病態であるが,今回のように全身状態が良好で胸腔・縦隔への穿破がない症例では腹腔鏡下手術も選択しうると考えられ,文献的考察を交え報告する。

  • 山田 正法, 瀧井 麻美子, 真弓 勝志, 竹村 雅至
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 1 号 p. 47-49
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    症例は61 歳女性,1 型糖尿病で加療中。X 年11 月X −1 日に嘔吐・下痢を主訴に近医受診,糖尿病性ケトアシドーシスの診断のもと11 月X 日当院に搬送された。10 時間後(前医受診時から)に血便と腹部全体の筋性防御を認め,腹部単純CT では横行結腸に壁内気腫,腸管の全層性浮腫と門脈気腫を認めた。腸管虚血を疑い腹腔鏡検査を施行したところ,混濁した黄色腹水と横行結腸の漿膜面に壊死巣を認めたため開腹手術に移行した。壊死巣を認めた横行結腸から下行結腸まで切除したが,残存腸管は浮腫を呈していた。切除腸管内腔を確認したところ粘膜の壊死を切除腸管全体に認めた。さらなる切除範囲を考慮するため下部消化管内視鏡検査を施行し,最終的に結腸の全摘・回腸人工肛門を造設した。病理組織学検査では粘膜固有層に著明な線維性浮腫と粘膜下層の浮腫および好中球浸潤を呈し,グラム陰性桿菌の増殖と粘膜腺管の脱落を認めており,短時間に腸管虚血および壁内気腫を発症したと推測された。本症は急速に病状が悪化し広範囲に及ぶこともあり,診断が迅速に行われること,また切除範囲考慮のため術中下部消化管内視鏡検査が有用と考えられた。

  • 日野 孝彬, 大島 靖広, 杉山 宏, 坂下 文夫
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 1 号 p. 51-55
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    症例は40 歳台,女性。血便を主訴に当科を受診した。直腸診で鮮血便の付着を認めた。造影CT 検査では盲腸,上行結腸から直腸にかけて連続性に液体貯留を認めた以外に著変はなかった。大腸憩室出血の可能性が高いと診断し,同日洗腸後に内視鏡検査を施行したところ,盲腸,上行結腸に大量の鮮紅色の血液貯留を認めた。再度,造影CT 検査を読影し直し,虫垂遠位側に造影剤の血管外漏出像を認めた。盲腸を中心に洗浄していたところ,虫垂開口部から湧出性出血を認めたため虫垂出血と診断した。虫垂開口部をクリッピングで縫縮し,一時止血に成功したが,再出血のリスクが高いと診断し,同日単孔式腹腔鏡下虫垂切除術を施行した。病理組織学的所見では虫垂遠位側に肉芽組織を認めたのみで,特発性虫垂出血と最終診断した。【結語】虫垂出血の診断には,すみやかに造影CT 検査,内視鏡検査を施行し,活動性出血の所見を捉えることが必要であると考えられた。

  • 野手 洋雅, 貝沼 修, 小林 照宗, 小寺 輝, 夏目 俊之, 丸山 尚嗣
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 1 号 p. 57-60
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    症例は65 歳男性,肝門部領域胆管癌,十二指腸癌に対し肝左三区域切除術,胆管切除術,胆管空腸吻合術,十二指腸粘膜切除術を施行した。第19 病日に肝断端ドレーンより胆汁の流出を認め胆管空腸吻合部からの胆汁漏と診断,約6 週間,保存的に治療したがドレーンから100 〜300mL/ 日の胆汁流出が続き改善を認めなかった。挙上空腸断端で空腸瘻を作成,そこから内視鏡的に胆管空腸吻合部に胆管ステントを2 本留置したところ,ドレーンからの胆汁量はすみやかに減少し,治療から9 日目にドレーンを抜去できた。退院4 ヵ月後に再入院し,内視鏡下に胆管ステントを抜去,空腸瘻閉鎖術を施行した。術後2 年現在,胆汁漏の再燃はなく,無再発生存中である。

  • 長﨑 高也, 武藤 昌裕, 上原 崇平, 中屋 誠一, 坪井 謙, 原田 幸志朗, 三井 章, 瀧口 修司
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 1 号 p. 61-65
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    動脈腸管瘻は,消化管出血の原因としてはまれな病態であるが,大量出血から容易に致死的となりうる腹部救急疾患である。大動脈十二指腸瘻の報告が散見されるが,動脈下部消化管瘻の報告はまれであり,早期診断が難しいことなどから予後不良とされる。今回われわれは,大量下血からショックに陥った内腸骨動脈直腸瘻の患者に対し,IVR および腸管内のガーゼによる圧迫で救命した1 例を経験したため報告する。症例は56 歳男性。切除不能直腸癌に対し,化学放射線療法を施行後に化学療法中であった。下血を主訴に来院され,下部消化管内視鏡検査を施行中に大量出血をきたしショックに陥った。左内腸骨動脈直腸瘻と診断し塞栓術を行った。豊富な血流および側副血行路のため,塞栓術単独での完全止血は困難であった。肛門と双孔式人工肛門の肛門側よりガーゼを挿入しタンポンとすることにより止血を得,救命することができた。17 病日で退院し22 ヵ月後に原病死された。

  • 松本 尚也, 谷口 厚樹, 浅野 博昭, 久保 雅俊, 宇高 徹総
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 1 号 p. 67-71
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    症例は40 歳台の男性,シートベルトを着用し軽自動車を運転中にトラックと正面衝突し受傷,当院に搬送となった。右大腿骨開放骨折に伴う出血性ショックでdamage control resuscitation とdamage control orthopedics を施行した。シートベルト外傷であったため小腸損傷を疑い来院から6 時間後にCT を再検するも腹腔内遊離ガス(以下,free air)は認めず,腹膜刺激症状も認めなかった。18 時間後のCT でfree air を認め開腹術を施行したところ,小腸損傷を認めた。小腸損傷は来院時に診断できないことがあるといわれているが,とくに意識障害を伴う症例において小腸損傷を疑う場合には腹部所見の有無にかかわらず経時的にCT を行う必要がある。また,出血性ショックを合併する場合には損傷が明らかとなった際にすみやかに手術ができるよう,凝固能を含めた蘇生が重要である。

  • 田中 保平, 猪瀬 悟史, 加賀谷 丈紘, 利府 数馬, 田原 真紀子, 栗原 克己
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 1 号 p. 73-76
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    症例は54 歳,男性。小児期に詳細不明の下腹部手術歴あり。嘔吐を主訴に受診され,精査のCT で盲腸外側で小腸のcaliber change を認めた。腸管壁の造影効果は保たれていた。癒着性腸閉塞と盲腸周囲ヘルニアを鑑別にあげ,イレウス管による保存的治療を行った。減圧は良好であったが,通過障害が改善しなかったため腹腔鏡下手術を行った。外側型盲腸周囲ヘルニアと診断し,ヘルニア門を開放して小腸の嵌頓を解除した。腸管の虚血は認めなかった。術後経過は良好で術後4 日目に退院した。術後約1 年4 ヵ月の現在,再発を認めていない。腹腔鏡下手術は,十分な減圧のもとで腹腔内を詳細に観察可能であり,本症例のように癒着性腸閉塞と内ヘルニアとの鑑別が困難で術前に確定診断できない症例にはとくに有用である。今回われわれは腹腔鏡下に診断,治療し得た外側型盲腸周囲ヘルニアの1 例を経験したので報告する。

  • 長尾 美奈, 三木 明寛, 石川 順英
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 1 号 p. 77-80
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    症例は66 歳,女性。発熱,腹痛,嘔吐を主訴に近医を受診し血液検査で炎症反応の上昇と肝腎機能異常を認め当院へ紹介された。CT 検査で肝外側区に境界不明瞭な低吸収域を認め,腹部エコー検査で同部位に約70mm 大の不整な多房性囊胞を認めた。敗血症,DIC を併発した肝膿瘍と診断したが,膿瘍は多房性で液体成分に乏しくドレナージ困難と判断し抗菌薬治療を開始した。治療開始5 日目に腹膜刺激症状が出現し,肝膿瘍破裂による腹膜炎の診断で同日緊急手術を行った。多量の血性腹水と肝表面には血腫を認め,肝S3 に手拳大の腫瘤と肝被膜の裂傷あり,肝外側区域切除術を行った。病理組織検査では肝膿瘍破裂として矛盾しない所見であった。術後18 日目に軽快退院した。本症例のように,ドレナージ困難と思われる肝膿瘍に対して肝切除は有効な治療手段の1 つであると考えられた。

  • 吉原 悠貴, 長谷部 達也, 吉原 秀一
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 1 号 p. 81-84
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    症例は58 歳男性。胆囊結石,慢性胆囊炎の診断で待機的に手術の予定となっていたが,頻回の嘔吐が出現し当院救急外来を受診した。腹部造影CT 検査で胆囊十二指腸瘻と,小腸に嵌頓した胆囊結石を認め,胆石イレウスとして当科に入院となった。入院時に胆管炎を認めていなかったことから,イレウス解除術のみ行い,胆囊十二指腸瘻は保存的に治療する方針とした。第5 病日に手術を行い,胆囊炎・胆管炎症状やイレウスの再発はなく術後8 日目で退院した。退院後4 ヵ月の上部消化管造影検査では,胆囊十二指腸瘻は残存しているものの,縮小を認めた。胆石イレウスに対して小腸切石術のみを行い,胆囊十二指腸瘻を保存的に治療した1 例を経験したので報告する。

  • 稲田 亘佑, 井上 昌也, 世古口 英, 加藤 健宏
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 1 号 p. 85-89
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    結腸憩室炎に伴う門脈または上腸間膜静脈(superior mesenteric vein:以下,SMV)血栓症を4 例経験した。【症例1】59 歳,男性。SMV 血栓症を伴う上行結腸憩室炎と診断し右半結腸切除術を行った。ワルファリンの内服を行い,SMV の狭小化を認めた。【症例2】58 歳,男性。門脈およびSMV 血栓症を伴う横行結腸憩室炎と診断し右半結腸切除術を行った。ワルファリンの内服を行い,血栓症は改善傾向にはあったが,側副血行路の形成を認めた。【症例3】56 歳,男性。門脈およびSMV 血栓症を伴う上行結腸憩室炎と診断し保存的治療を行った。エドキサバンの内服を行い,門脈血栓の消失を認めた。【症例4】45 歳,男性。門脈およびSMV 血栓症を伴う上行結腸憩室炎と診断し保存的治療を行った。アピキサバンの内服を行い,門脈血栓は改善したがSMV 血栓の残存を認めた。

  • 森 千浩, 稲村 幸雄, 穐山 竣, 寺田 剛, 外川 雄輝, 武澤 衛, 森川 彰貴
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 1 号 p. 91-94
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    急性虫垂炎は,妊婦の急性腹症のなかでもっとも発症率が高い外科的緊急疾患で,早産や胎児死亡の懸念もあり,手術適応判断が重要である。術式は腹腔鏡下虫垂切除術が一般的だが,依然として報告数は少ない。われわれは2017 年3 月〜2021 年2 月に急性虫垂炎を発症した妊婦4 例に対し腹腔鏡下虫垂切除術を施行し,既報例も含めて文献的考察を行った。自験例の年齢は平均29.8(18 〜39)歳で,主訴は全例下腹部痛であった。妊娠週数は平均16.8(12 〜21)週であった。確定診断に1 例で超音波検査,1 例でMRI 検査,2 例でCT 検査を用いた。他科との連携および,妊娠週数ごとのポート配置で安全に手術を施行できた。手術時間は平均64 分(50〜83 分)で,3 例は術後3 〜5 日で退院し,1 例は切迫早産で術後59 日間入院した。全例が正期産であった。腹腔鏡下虫垂切除術は妊婦の急性虫垂炎に対して有用な治療法である。

  • 是川 海, 國光 敦
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 1 号 p. 95-100
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    症例は37 歳,男性。201X −1 年,アルコール性非代償性肝硬変の診断となり当科へ通院していた。201X 年に数日間黒色便が持続するため受診したところ,ショックバイタルであり消化管静脈瘤破裂による出血性ショックが疑われた。大量補液および循環作動薬を開始し,緊急EGD を行った。EGD から十二指腸静脈瘤破裂と診断し,緊急で内視鏡的硬化療法(endoscopic injection sclerotherapy:以下,EIS)を行った。N-butyl-2-cyanoacrylate(NBCA)によるCA-EIS 単回の治療で止血に成功した。全身管理により容態は改善し第10 病日に自宅退院となった。本症例のようにChild-Pugh C と肝予備能が低い例も,EIS による緊急止血は有用と考えられた。

  • 中村 俊太, 田端 正己, 中邑 信一朗, 瀬木 祐樹, 藤村 侑, 小林 基之, 岩田 真
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 1 号 p. 101-104
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    症例は63 歳女性。6 ヵ月前,当科で肝外側区域の18cm 大の囊胞に対し,腹腔鏡下囊胞天蓋切除術を施行した。開窓し,内容液を吸引した後,左横隔膜と癒着した囊胞壁を可及的に切除した。術後6 ヵ月に,下痢,発熱を主訴に当院消化器内科を受診した。偽膜性腸炎の疑いで入院加療となったが,嘔気・嘔吐をきたすようになった。入院4 日目に施行されたCT では左横隔膜断裂および胃の大部分の左胸腔内への脱出が認められ,腹腔鏡下肝囊胞天蓋切除後に発生した横隔膜へルニアと診断した。同日,開腹下に横隔膜ヘルニア修復術を施行した。左横隔膜に直径3cm ほどのヘルニア門が認められ,胃を腹腔内に還納後,ヘルニア門を非吸収糸で縫合閉鎖した。腹腔鏡下肝囊胞手術後の遅発性横隔膜ヘルニアはまれな合併症であるが,横隔膜と癒着した肝囊胞手術後には遅発性横隔膜ヘルニアの発生を念頭に置いた経過観察が必要であると考えられる。

  • 増田 哲之, 井田 圭亮, 小泉 哲, 木村 紗衣, 澤田 真裕, 西澤 一, 土橋 篤仁, 小林 慎二郎, 大坪 毅人
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 42 巻 1 号 p. 105-108
    発行日: 2022/01/31
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    症例は70 歳台,男性。約2 年前に他院で膀胱癌に対して膀胱全摘・回腸導管造設術を受けている。腹痛のため前医を受診しCT 検査で消化管穿孔が疑われ当院へ紹介となり,緊急開腹術を施行した。空腸に穿孔部を認め,小腸部分切除術を行った。術後全身状態はすみやかに改善したが,術後第4 病日に尿量の低下と血清クレアチニン値の上昇を認めた。腹腔内に留置したドレーンの排液も2,300mL/ 日超と急激な増加を認め,腹水クレアチニン値は36.1mg/dL と高値であった。CT urography と回腸導管造影で回腸導管からの造影剤の漏出を確認し,導管損傷と診断した。バルーンカテーテルを留置し保存的加療とし,その後は尿量と血清クレアチニンは改善し,Douglas 窩ドレーンの排液も減少した。腹腔内に流出した尿中のクレアチニンなどが腹膜を介して再吸収され,血清中で高値を示す病態を偽性腎不全(pseudo-renal failure)とよぶ。しばしば,急性腎不全と混同されるが,早期に鑑別にあげ,治療を進めていく必要がある。

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