2006 年 26 巻 3 号 p. 469-472
腹側腹膜下出血により腹部膨満症状を呈した骨盤骨折症例を経験した. 63歳男性, 交通外傷による骨盤骨折にて入院. ショックおよび増悪する腹部症状から腹腔内臓器損傷を考え緊急開腹するも, 出血源の特定できず, 凝血塊の貯留していた腹側腹膜下にガーゼパッキングを行い閉腹. 一旦全身状態落ち着くも, 第4病日再びショックとなる. 造影CTにて右恥骨裏面に動脈瘤を認め, TAEを行った. 循環動態は安定したが, 第8病日造影CTにて同じ動脈瘤が造影されたため, 血管造影を行い外腸骨動脈からの側副血行路も塞栓した. 以降は順調に経過し独歩退院に至った. 本症例は安定型骨盤骨折にもかかわらず, 腹側腹膜下出血によるショックと腹部膨満症状を呈し, 診断に難渋した. 骨盤骨折に伴う腹側腹膜下出血および腹部膨満症状の報告例は非常にまれであった. 骨盤骨折に伴う出血において, 本症例のように, 腹部膨満を主症状とする腹側腹膜下出血も考慮するべきである.