多数代表制か少数代表制かという観点を中心に,現在でも選挙区に関する議論は多くの関心を集めているが,第二次世界大戦以前の日本でも選挙区制度は重大な関心事であり,実際に1890年から1925年までの僅か35年間で,小選挙区→大選挙区→小選挙区→中選挙区とめまぐるしく改正された。ただし,当時の選挙区制度を巡る議論は,どのような代議士が選出されるべきか,ということが最重要争点であった。そこで本稿は,戦前期すべての選挙区制度改正ごとに,制度採用の目的→実際の代議士選出結果→結果に対する評価 →新たな制度改正論の台頭,を概略的にトレースする。考察の結果,制度の改正は,(1)制度に託された国家・社会の理想像,(2)制定者側の権力欲,(3)制度が現実社会に適用されることによって起こる変質,の三者を軸とするダイナミズムの中で展開されていった点が判明した。