本稿は選挙研究における因果推論の方法を概観する。まず因果関係とは何を意味するのかについて日本の社会科学研究における代表的な知見をまとめ,その応用における問題点を指摘する。次に近年主流となりつつある潜在的結果にもとづいた因果的効果の定義を紹介し,その枠組みの中で観察データを用いた回帰分析の問題点を指摘する。次に厳密な因果推論を行うために必要となる方法とその応用例を紹介する。第一に,サーベイ実験やフィールド実験などの実験アプローチ,第二にイベントを利用した自然実験などの疑似実験アプローチ,第三にマッチングを用いた統計学的アプローチの特徴とその応用研究についてまとめる。