首相の権力は議院内閣制下において何によって規定されるのであろうか。戦後日本の首相については,首相のもつ公的権力資源,官僚制の強さ,国会議員を選出する選挙制度,政権党の執行部がもつ権力資源などさまざまな要因が指摘されてきた。これに対し,本稿は,首相に対する政権党の拘束力に注目する。本稿は,プリンシパル・エージェント・モデルを援用し,特にプリンシパルとしての政権党という視座に焦点を当てる。プリンシパルとしての政権党は複数のメンバーから構成されており,意見集約の困難さを意味する「複数のプリンシパル問題」を抱えている。この問題の本質は集合行為問題である。集合行為問題を克服できる政権党は首相を強く拘束でき,克服できない政権党は首相を拘束することができない。政権党が集合行為問題を克服できるか否かはその政党の組織構造次第である。本稿は,自民党政権下の首相の権力の変化を,集合行為問題に着目しつつ,結党から今日に至るまでの自民党組織の変遷を通して考察する。