戦前・戦後を通して広く利用されてきた中選挙区制は,政党による候補者擁立戦略と有権者による戦略投票をユニークな均衡へと導く。定数Mより1多いM+1人の有力な候補者によって議席が争われるというM+1法則はその理論的な予測である。この理論によると,当選者間の得票は均等化し,デュベルジェ均衡においては落選者間で得票が次点候補者に集中する。この検証には有効候補者数が指標として用いられてきたが,本研究ではその問題点を指摘する。そして,これに替わる新たな指標を提案し,選挙競争の歴史的変化を検討する。その結果,当選者間の得票の均等化が一度進行した後に不安定であった一方で,落選者間における得票の次点候補者への集中は一時的な揺れ戻しを経験しつつ進んでいったことが明らかになった。この結果からは,M+1法則が文脈とアクターの戦略的対応に影響されながら競争を規定していることが示唆される。