抄録
市民が政府を信頼しているほど,政府によるCOVID-19対策の効果が大きくなるという研究が国内外で増えている。ただし,日本では政府への信頼が相対的に低いにもかかわらず,感染防止行動が遵守される傾向にあった。本稿はこのパラドクスについて,政府に助言や提言を行う医療分野の専門家や医療システムへの信頼が重要であることを主張する。その検証のために,本稿は2021年2~3月に実施された3つの調査を利用する。本稿で取り上げる感染リスク認知,緊急事態宣言が求める外出自粛の遵守,ニューノーマルの一例である結婚式参加,ワクチン接種選択といった認知・行動選択についての4つの経験的分析から,本稿の主張はある程度まで支持される。本稿の知見からは,先行研究が論じてきた政府への信頼では,日本におけるCOVID-19対策の有効性の規定因を適切に理解できない可能性が示された。