2012 年 29 巻 3 号 p. 198-200
原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT),二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT),三次性副甲状腺機能亢進症(THPT)の治療法の1つとして手術療法が挙げられる。これらの手術の難しさは,反回神経などの解剖学的な点とともに,病的副甲状腺をいかに同定して,さらに確実に摘出する必要がある点である。これらを可能にしたのが,画像診断技術の進歩とともに,術中intact PTH(IOPTH)モニタリングである。IOPTHモニタリングにより,より確実に病的副甲状腺の摘出ができるようになったばかりか,PHPTではminimally invasiveな手術が可能となった。しかし,SHPTでは,現在までのところ適切なcriteriaを認められていない。
今回は,IOPTHモニタリングの意義,方法,評価などについて,PHPTとSHPTに分けて述べる。
副甲状腺機能亢進症は,一次性(PHPT),二次性(SHPT),三次性(THPT)に分類される。PHPTの根本的治療法は副甲状腺摘出術(PTx)であり,内科的治療に抵抗する高度なSHPTもPTxの適応となる。また,腎移植でも改善を認めないTHPTも最終的にはPTxが必要となる。
どの手術療法においても,病的副甲状腺をもれなく摘出することが必須である。近年では,画像診断技術の進歩により,99mTcMIBIシンチグラフィー,CT,エコーなどにより腫大腺の存在部位診断が可能となったが,それでもすべての病的腺を描出することは困難である。PHPTの場合,以前は,全例でbilateral explorationを行ってきたが,近年では,画像上明らかに1腺腫大である場合はminimally invasiveなfocused explorationが主流となってきている。focused exploration を可能にしたのは先に述べたように画像診断の進歩であるが,それでもまだなおdouble adenoma,過形成の可能性を完全に画像診断のみで否定することは困難である。そのため,病的腫大腺をすべて摘出したことを迅速に確認する手段としてIOPTHモニタリングが用いられている。IOPTHモニタリングは当初,Irvinらにより,PTx施行時にquick parathyroid hormone assay (QPTH)を用いることで良好な切除成績をえることができたことがきっかけとなり,現在のIOPTHモニタリングに至っている[1]。当初,Quick PTHを用いて測定していたが,現在では,1-84 PTHとともに7-84 PTHを測定するintact PTHが一般的に用いられている。
SHPTの場合は,すべての副甲状腺を摘出してその一部を自家移植する術式が一般的である。しかし,副甲状腺の発生学的な理由により通常の位置以外に5腺目,6腺目が存在する可能性もあるため,さらに難易度が高くなる。そのため,4腺を摘出しても,やはり残存腺があるかもしれないと不安が募るが,少しでもその不安を確信へと変えるためにもIOPTHモニタリングは有用である。
手術施行前に,採血を行い,コントロールとなるintact PTH値測定を行う。さらに,病的腫大腺摘出後に採血を行いintact PTH値の下がり具合を確認する。intact PTH自体の半減期は一般に3~5分とされているが,PHPTに関しては摘出10分後に採血することが一般的になっている。SHPTの場合は,15分後などを推奨する文献が認められるがいまだ確定ではない。さらに,全身麻酔に使用する(セボフルレン,プロポフォールなど)麻酔薬の種類,濃度によりintact PTH値は影響を受けることが少ないとの報告があり,それらを考慮する必要はないと考えられる[2,3]。
intact PTH値のcut off値について,PHPTでは,Miami, Vienna, Rome criteriaがある。Miami criteriaでは,摘出10分後のintact PTH値が手術開始前のintact PTH値の50%以下にまで低下をしていることを確認する[4]。Vienna criteriaでは,摘出後10分以内のintact PTH値が術前の50%以下にまで低下をしていることを確認する[5]。 Rome criteriaでは,摘出20分後のintact PTH値が術前の50%以下もしくは,正常範囲内にまで低下することを確認することとなっている[6]。Barczynskiらは,術翌日のintact PTH値が,正常範囲内にまで低下を認めた場合に,全病的腺が切除されたと定義すると,診断率はMiami criteriaでは97.3%,Vienna criteriaでは92.3%,Rome criteriaでは83.8%のaccuracyであったと報告している[7]。これらのデータからMiami criteriaが最も精度が高く,さらに摘出後のintact PTH測定のための採血までの時間のlossが少ないため有用と考えられている。
いずれのcriteriaにおいても摘出10分後のintact PTH値が規定範囲まで低下を認めない場合は,病的腺が残存していると考えられる。そのため,focused explorationであればbilateral explorationに切り替え,その他の腫大腺を検索し,追加切除する必要がある。その場合は,追加切除後のintact PTH値が手術前の50%以下にまで,低下していることを再度確認することが望ましい。
SHPTの場合intact PTH値のcut off値についてSHPTに関しては,いまだ諸説あり確定的な規定範囲が存在しない。そのため,文献と当院での基準を紹介することとする。
Seehoferらは,全腺摘出15分後の採血で,intact PTH値が150pg/ml以下もしくは,150pg/ml以下にまで低下を認めない場合には,摘出前値の30%以下となった場合に,術翌日のintact PTH値が,正常範囲内にまで低下を認めた際に,全副甲状腺が切除されたと定義すると,診断率は94.8%のaccuracyであったとしている[8]。当院では,全腺摘出10分後の採血で,摘出前の30%以下にまで低下を認めれば,全腺摘出したと考えて手術を終了している。その結果,術翌日のintact PTH値が60pg/ml以下にまで低下を認めた場合を全副甲状腺摘出の目安とすると,診断率は93.5%のaccuracyであった。
いずれの方法にしても,摘出後に十分に低下を認めない場合は,遺残腺の可能性があるため,検索を追加する必要がある。追加切除後は,再度同様にして,intact PTH値を再検することが望ましい。また,逆に近年では塩酸シナカルセットの導入により,副甲状腺を全腺検出して摘出することが困難となる傾向にあり,また,検出不能であった副甲状腺が実際は同時に摘出した胸腺や脂肪組織に紛れている場合も認められる。そのため,検索困難時に,IOPTHモニタリングを施行して,基準値まで低下していれば手術を終了する根拠ともなりうる。
PHPTであれ,SHPTであれ,やはりIOPTHモニタリングが100%信用できるわけでないことは明白である。IOPTH値が基準値まで低下していても,翌日のintact PTH値では再上昇を認める症例,逆に,IOPTH値が基準値まで低下していなくても,翌日には正常範囲まで低下を認める症例も少ないが認められる。そのため,PTxを終了する根拠として,IOPTHモニタリングは大いに役立つ手段であるが,術中所見,画像所見などすべてを考慮してPTxの終了を決定することが最も大切だと考えられる。