日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
特集1
原発性アルドステロン症
内海 孝信加賀 麻祐子川村 幸治神谷 直人今本 敬鈴木 啓悦市川 智彦
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2014 年 31 巻 3 号 p. 166-170

詳細
抄録

原発性アルドステロン症(primary aldosteronism:PA)は外科的に治癒が期待できる二次性高血圧であり,患側の副腎腫瘍に対する腹腔鏡下副腎摘除術が標準術式である。PAは適切な診断・治療が遅れると高血圧の重症化だけではなく,高アルドステロン血症による心・脳血管障害の発生や腎機能障害の進行など不可逆的な臓器障害に至る可能性がある。スクリーニング検査の発展・普及に伴い早期発見が可能となり,現在では高血圧患者の3~10%程度を占めると報告されている。推定患者数は非常に多くcommon diseaseとも考えられるが,PA診断に必要な検査を行う内分泌内科医や放射線科医が必ずしも各施設に在籍しているとは限らない。本稿ではPA診療ガイドラインに沿いつつ,手術療法の対象となるPA患者の診断・治療および術後のフォローアップに関して,われわれ外科医が診療可能な範囲を意識して述べる。

はじめに

原発性アルドステロン症(primary aldosteronism:PA)では,副腎皮質腺腫または過形成病変からの自律的なアルドステロン過剰分泌により様々な病態が引き起こされる疾患である。アルドステロン過剰分泌により,ナトリウム貯留とそれに伴う体液増加のため高血圧が生じ,同時にカリウム排泄増加による低カリウム血症,HCO3 -増加による代謝性アルカローシス,アルドステロン自体の臓器障害性により心・脳血管障害,腎機能障害などが生じる[]。

PAは外科的に治癒が可能な二次性高血圧の代表的疾患である。以前は高血圧の中で比較的稀な疾患と考えられていたが,血漿アルドステロン濃度(plasma aldosterone concentration:PAC)/血漿レニン活性比(plasma renin activity:PRA)(aldosterone-renin ratio:ARR)によるスクリーニング検査や画像診断技術の発展・普及に伴い,高血圧患者の3~10%程度を占めるとされ推定患者数はわが国では100万人を超えると考えられている[]。

PAの病型は主にアルドステロン産生腺腫(aldosterone-producing adenoma:APA)と特発性アルドステロン症(idiopathic hyperaldosteronism:IHA)からなり,それぞれPAの約70%,約20%を占めると報告されている[]。一般的にAPAは片側性に多く,IHAは両側性過形成病変であり,一側性の副腎腺腫(または副腎過形成)によるPAは患側の腹腔鏡下副腎摘除術が第一選択となる[]。われわれ外科医が診療するのは既に局在診断が確定して手術適応となるAPAがほとんどである。

1.PA診療のガイドライン

⑴ スクリーニング検査

日本内分泌学会のガイドラインではARR>200(PACの単位がpg/mlのとき)を基準としており,日本高血圧学会のガイドラインでは,特にPAC>150pg/mlであることを追記している[,]。スクリーニング対象としてはどちらのガイドラインでも基本的に高血圧患者全例としており,そのほとんどは一般内科医が診療する。高血圧診療の中でPAを積極的に疑うことが早期発見の契機になるが,日本高血圧学会ではPA高リスク群(①低K血症,②中等度以上の高血圧,③治療抵抗性高血圧,④副腎偶発腫瘍,⑤40歳以下で脳血管合併症,⑥若年者の高血圧)をスクリーニングの推奨としているので検査対象を絞り込む参考になる[]。

⑵ 機能確認検査

スクリーニング検査陽性症例では,機能確認検査(①カプトプリル負荷試験,②フロセミド立位試験,③生食負荷試験)が推奨されており,内分泌内科医が担当する施設がほとんどである[,]。日本高血圧学会では少なくとも一種類を実施し陽性の場合に局在診断へ移行することになっており,日本内分泌学会では二つ以上の検査が陽性の場合に確定診断としている[,]。また,NanbaらはARR>1,000(PACの単位がpg/mlのとき)またはレニン抑制下でPAC>250pg/mlの場合は機能確認検査を省略できる可能性を指摘している[]。

⑶ 局在・病型診断

患者の手術希望や適応を考慮して,副腎CTおよび副腎静脈サンプリング(adrenal venous sampling:AVS)を局在診断として施行する[,]。CTとAVSの局在診断が乖離することもあり,KempersらはAVSで局在診断をした症例でCT・MRIでは37.8%で局在が一致しなかったと報告している[]。ガイドラインでもAVSがgolden standardとなっている一方で,AVSはIVR専門放射線科医が行うことが多いが,技術的・費用的な問題や判定基準の施設間格差などもあり,どの施設でも施行可能とは言えないのが現状である[]。Youngらは40歳以下で明らかな片側のPA症例はAVSをせずに手術するフローチャートも示しているが,CT所見のみでは不必要な手術が行われる可能性がありAVSの重要性も指摘している[]。

⑷ 治療

一側性と診断のついたPAでは,患側の腹腔鏡下副腎摘除術を行う[]。手術を受けるPA患者は内科でも一通りの説明を受けているとは言え,執刀医は術前説明で自科の治療成績や術後経過を改めて説明することになる。術後経過の中でも,特に高血圧の治療成績と腎機能障害の顕在化に関して詳述する。

2.術後高血圧の治療成績

患側の腹腔鏡下副腎摘除術によって高アルドステロン血症が解除されると,高血圧は74~100%の症例で改善・治癒し,収縮期血圧は20~40mmHg程度低下し,降圧薬内服は1~2種類程度減少できると報告されている[11]。

Steichenらは,PA術後の高血圧の治癒(術後血圧140/90mmHg未満かつ降圧薬内服をしていない状態)に関する文献を解析して,術後高血圧が治癒する症例は42%と報告しており[],われわれの検討でも42.4%と同程度であった(表1)。高血圧の治癒や降圧薬内服の減量だけが手術の目的ではないが,高血圧の治癒は手術を受けるPA患者が最も期待し実感できる効果であり,術前には高血圧の治療成績に関して説明が求められる。

高血圧の治癒に関する予測因子は多くの文献で報告されているが,Amarらは蓄積された血管障害を反映するnon-specificな因子(高齢や長期の高血圧罹患,肥満,男性,術前高血圧,多数の降圧薬内服など)は術後血圧の予後不良因子であり,aldosterone-dependentな因子(尿中の高アルドステロン濃度,低レニン活性,低カリウム血症など)は予後良好因子と報告している[10]。われわれの検討でも,non-specificな因子が術後高血圧の治癒に関する予測因子になっている(表1)。

PA術後高血圧の治癒を予測するモデルとして,現在までにZarnegarらが米国人のデータを基に開発したAldosteronoma Resolution Score(ARS)[12]とわれわれが日本人のデータを基に開発したCure of Hypertension By Adrenalectomy(CHiBA)Nomogramが存在する[13]。どちらも術後6カ月後の時点での高血圧の治癒を予測するモデルで,一般的な臨床項目から構成されており術前説明の際に活用できる[1415]。

ARSは4項目(降圧薬内服の種類,BMI,高血圧罹患期間,性別)から構成され,合計のPointが4~5点の場合は高率に術後降圧薬内服を中止できるが,0~1点の場合は中止できない可能性が高くなる(表2)[12]。

CHiBA Nomogramは4項目(降圧薬内服の種類,高血圧罹患期間,年齢,性別)から構成され,各項目のPointを合計したPointから直接高血圧の治癒の可能性(%)が判る(図1)[13]。例えば,45歳女性で5年間の高血圧罹患があり,術前に2種類の降圧薬内服をしていた症例は,合計Pointが200点となり80%の可能性で術後高血圧が治癒すると予測できる。内部検証においてCHiBA NomogramはARSと比較しても有意に予測精度は高く(AUC 0.83 vs 0.68,P<0.01)非常に有用であると考えられ,今後は他施設(日本人または外国人)での外部検証が期待される[13]。

表1.

高血圧の治癒に関する予測因子(単変量解析)

BMI, body mass index; PAC, plasma aldosterone concentration; PRA, plasma renin activity; eGFR, estimated glomerular filtration rate.

表2.

Aldosteronoma Resolution Score(文献12より日本語に翻訳して引用)

BMI, body mass index.

図1.

CHiBA Nomogram(文献13より日本語に翻訳して引用)

3.術後腎機能障害の顕在化

PA診療において,高アルドステロン血症による臓器障害の中でも腎機能障害が近年注目されている[16]。PAは高アルドステロン血症と糸球体高血圧のため腎機能障害が進行しているが,早期の段階では糸球体過剰濾過のため見かけ上推定糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate:eGFR)は高値となり腎機能障害がマスクされてしまう[17]。そのため術後にeGFRが低下し慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)が顕在化する症例もあり,術後は腎機能の変化に注意が必要である[16]。

われわれは,手術を受けた78症例を術前eGFRで3群(eGFR≧90,eGFR60~89,eGFR<60)に分けて術後腎機能の変化を検討した[16]。各群とも術後に腎機能障害が進行(顕在化)したが,特に術前eGFR≧60の患者群は有意に術後eGFRが低下した(表3)。術前eGFR<60の患者群では有意なeGFRの低下ではなかったが,これは糸球体硬化が進行しており糸球体過剰濾過がほぼ消失した状態であると考えられた[16]。また,術前eGFR60~89の患者群では52%の症例で術後CKDが顕在化しており,術前eGFRおよび年齢,脂質異常症の合併,拡張期血圧が術後CKDの顕在化を予測する因子であった(表4)。Tanase-Nakaoらは,術前eGFR≦80およびARR≧300(PACの単位がng/dlのとき)から構成される術後CKDの顕在化を予測するモデルを報告している[18]。

さらにFischerらは,腎機能障害が重篤な場合は術後に著しい高K血症が遷延することを報告している[19]。また,濾過量の減少による腎機能障害は脂質異常症の増悪(HDLコレステロール値の低下・LDLコレステロール値の上昇など)や尿酸値の上昇も起こすため総合的な観点でフォローアップが必要になる。

表3.

術前後におけるeGFRの推移

eGFR, estimated glomerular filtration rate.

表4.

CKD顕在化に関する予測因子(単変量解析)

CKD, chronic kidney disease; BMI, body mass index; PAC, plasma aldosterone concentration; PRA, plasma renin activity; eGFR, estimated glomerular filtration rate.

おわりに

PA診療において,早期発見・早期治療は腹腔鏡下副腎摘除術により患者が受ける利益を最大限にし,高アルドステロン血症による臓器障害を最小限に抑える。今後も手術を受ける患者数は増加することが予想されており,手術と術後フォローアップを担当する外科医は各診療科と緊密に連携して適時かつ適切な治療を提供することが求められる。

謝辞

東邦大学医療センター佐倉病院糖尿病・代謝・内分泌センター教授龍野一郎先生並びに千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学准教授田中知明先生をはじめ,内分泌内科の先生方のご協力に深く感謝申し上げます。

【文 献】
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top