2014 年 31 巻 3 号 p. 184-188
近年,画像検査機器の進歩に加え,内分泌腫瘍に対するガイドラインが策定され,今後,副腎腫瘍の発見頻度が増加するものと予想される。現状では内分泌専門医が常勤してない医療施設も多く,画像検査で偶発的に発見された副腎皮質癌(ACC)を疑われる症例が,われわれ外科医へコンサルトされる場面が想定される。その際は,内分泌学的検査をする必要があり,外科医にもある程度の内分泌学的知識が要求される。しかし,術前,術後のミトタンなどによる補助療法に関しては,副腎不全などの特異的な副作用があり,施行に際しては内分泌専門医による対応が必要と考える。low stageのACCのうちWeiss criteriaにてscoreの高い症例では術後再発のリスクが大きく,外科医としては,再発時には常に外科的切除の可能性を念頭に,個々の症例に注意深い経過観察と慎重な対応が求められる。
副腎皮質癌(ACC)は,100万人当たり0.72人程度と非常に稀な腫瘍である[1]。ACCの多くは成人に発症するが,小児に発症することもある。診断時の年齢の中央値は46歳であり,副腎に限局しているのは30~40%とされ,多くは進行癌として診断されてきた[2~4]。
ACCの病理組織像では多彩な形態所見を呈することが知られ,病理医が診断に苦慮することも少なくない。近年,画像検査機器の進歩に加え,我が国でも内分泌腫瘍に対するガイドライン[5,6]が策定された。副腎腫瘍の発見頻度が増加し,今後,初期の段階で診断されるACC症例も増えてくるものと予想される。
しかし,現状では内分泌専門医が常勤してない医療施設も多く,画像検査で偶発的にACCが疑われる症例が,われわれ外科医へコンサルトされる場面が少なからず想定される。
本稿では,文献をもとにしたACCの概要に加え,ACCを疑う症例に外科医(内分泌外科医および泌尿器科医)が遭遇した際の対応について概説する。さらに,2000年以降に当院にて病理組織学的にACCと診断された症例の臨床的特徴と外科的治療を中心に考察する。
機能性腫瘍と非機能性腫瘍に分類される。ACC症例の60%~70%にホルモンの過剰分泌が認められ,これに関連する症状のために医療機関を受診する契機となっている。また,ホルモンの過剰分泌に起因しない症状として,腹部膨満感や腹痛などの非特異的腹部症状があるが,内分泌学的精査の過程で発見されるACCが多数を占めている。
一般に副腎皮質ではステロイド合成酵素が系統的に発現し,効率よくホルモン産生がなされているが,ACCではその統一性が失われ,ホルモン合成が非効率となり,中間産物の尿中17-ケトステロイド(17-KS)や腺腫では発現の少ないdehydroepiandrosterone sulfate(DHEAS)などの分泌が多くなる。
なお,ACCのホルモン過剰分泌を反映する病態として,クッシング症候群,原発性アルドステロン症,多毛症,男性化もしくは女性化(副腎性器症候群),思春期早発症などが挙げられる。
臨床病期の診断は他の悪性腫瘍と同様に,原発腫瘍の大きさ,局所浸潤の有無と範囲,所属リンパ節および遠隔転移の有無によって決定する。画像検査はCTを用い,MRIの併用にて高い精度での診断が可能となる[7]。MRIのT1強調画像(特に,ケミカルシフト法)は副腎腫瘍の良悪を鑑別するための有効な手法であり,被膜外浸潤や大静脈への伸展を評価できる[8]。また,PET/CTにおいて,腫瘍部のstandardized uptake values(SUV)maxおよびtumor/liver SUV max ratioの高値が悪性度の判定に有用とされる。しかし,それらのカットオフ値は定められておらず,再発や予後との相関はないとされる[9]。表1にstage分類およびTNM分類を示す。
副腎皮質癌の病期分類
先述の通り,副腎皮質腫瘍は一般的に用いられる核異型や脈管侵襲といった指標では良悪の診断が困難な場合が多い。よって,ACCの診断には複数の指標を組み合わせたスコアリングシステムが用いられており,Weiss criteriaは最も一般的に用いられている[10,11]。表2にWeiss criteriaを示す。なお,Weiss criteriaは副腎腫瘍取扱い規約(改訂第2版)にも記載され[12],9項目中3項目を満たすときACCと診断される。この指標は予後と相関のあった病理組織学的所見を解析することにより作成された。簡便かつ病理所見のみによりACCを診断することが可能であるため非常に優れている。他には,診断補助的な免疫組織学的マーカーとしてKi-67やtopoisomeraze Ⅱaが用いられ,Ki-67の陽性率が5%を超える場合はACCである可能性が極めて高いとされる[13]。
Weiss criteria
切除の完全性が予後規定因子となるため[14],外科医は可能な限りで切除を目指すこととなる。StageⅠ,ⅡさらにはstageⅢ以上の症例も手術療法の対象となりうる。ステージⅠおよびⅡにおいては臨床的に腫脹のあるリンパ節の切除は必要ではないが,ステージⅢにおいては腫脹のある所属リンパ節郭清を伴う完全切除が必要となる。
ステージⅡおよびⅢにおいてはミトタンの補助化学療法としての有用性が報告されているが,全生存期間に関する優位性は確立されていない[15~17]。ミトタンなどによる補助療法を外科医が試みるか否かについては,化学療法の項で述べる。術後管理は,外科医および内分泌専門(内科)医が合同で行うことが理想的である。外科医は術中に判明することができなかった副腎周囲の隣接臓器損傷に留意し,ドレーンからの出血や循環動態に注意を払いつつ,疼痛管理を行うこととなる。循環動態や意識状態が安定しない際は,副腎不全を念頭に,内分泌学的検査も施行し,電解質の補正やステロイドの補充が必要となる。内分泌専門医が常勤していない場合は,この作業を外科医が行う必要があり,副腎不全の対応にも習熟しておく必要がある。
イ)放射線治療切除不能な腫瘍を有する症例に施行され,50~60Gy程度の姑息照射が57%の症例で有効性が認められ,術後の補助照射においても局所再発の予防効果が認められている[16]。
ウ)化学療法切除不能症例では血中濃度が14~20μg/Lを達成するように,ミトタンの投与が検討される(本邦の保険診療では,血中濃度測定は認められておらず殆ど実施されていない)。寛解例は稀であるが,全症例の20~30%にホルモンの過剰分泌に起因すると考えらえる症状の緩和が認められる。
ミトタンは副腎皮質,とくに束状層,網状層に萎縮や壊死性変化をもたらすことがしられる。また,ステロイド合成阻害作用がありその分泌量は低下する。化学療法に精通した外科医によるミトタンの使用は,可能かもしれないが,下垂体からのACTHの過剰分泌,肝機能障害,長期投与による脳機能障害,副腎不全などの特異的な副作用に加え,併用禁忌薬の留意など一般的な抗がん剤とは一線を画す。よって,ミトタンの使用に際しては,内分泌専門医もしくは腫瘍内科の常勤する施設への紹介もしくはコンサルトが必要と考えられる。また,ミトタンに加えストレプトゾシン,エトポシド,ドキソルビシンおよびシスプラチンなど各種抗がん剤の臨床試験も欧米を中心に進行中である。しかしわれわれ外科医がその試験への積極的に関与できる機会は少ないと思われる。
全stageのACCの5年生存率は38~46%とされ[1],stageⅠ,Ⅱ,ⅢおよびⅣの生存期間の中央値はそれぞれ,24.1,6.08,3.47および0.89年と報告される[4]。
2000年1月から2014年6月までを対象期間とし,当院にて初回手術が施行された症例,もしくは初回手術が関連病院で施行され当院にて残存腫瘍および再発腫瘍に対して外科的治療が施行された症例,かつ,当院にて病理学的にACCと診断された症例を集計した。17例が該当し,うち2例が小児例であった。表3にACCと診断された成人症例の15例の詳細を提示する。
東北大学病院にて病理学的にACCと診断された成人症例(2000年~)
診断時年齢の中央値は56歳,男性6例女性9例,右側7例左側8例であった。当院もしくは関連病院での初回手術時のstageはⅠおよびⅡが11例と早期発見例が多いのが特徴であり,Weiss criteriaのscoreの中央値は5であった。また,12例でホルモンの分泌過剰が認められ,5例が術前評価で良性腫瘍として手術され術後病理学的にACCと診断されていた。
この他,対象期間に初発時より手術切除困難な多発肝転移を認め手術適応がないと判断され,腎高血圧内分泌科および腫瘍内科にて化学療法が施行されたACC症例が2例存在した。
ACCにおいて,どのstageまでを手術適応とするかの線引きをすることは困難であり,StageⅣにおいて何らかの手術がなされた場合の1年生存率は54%であったが,手術が行われなかった場合は16%と極めて悪く[18],進行ACCであっても常に可能な限りの手術療法を検討すべきである。
早期ACCに対して,開放手術か腹腔鏡下手術,どちらを選択すべきかについては,十分なコンセンサスは得られていない[19]。腹腔鏡下手術において,腫瘍径が6cm前後で議論している文献が散見される[20,21]。即ち,腫瘍径が6cmを超えたところで優位な手術時間の延長,術中出血の増加およびopen conversionへの移行が報告される[21]。泌尿器腹腔鏡手術ガイドラインでは,良性腫瘍でも腫瘍径が12cm以下を適応としている[19]。悪性腫瘍にも腹腔鏡下手術の適応は拡大される傾向にあるが,局所浸潤およびリンパ節転移症例には禁忌とされる[19]。当院では,pT1症例の2例と腫瘍径6cmを超えるpT2症例の2例の計4例に腹腔鏡下手術が施行されていた。腫瘍径が6cm超える2例の観察期間は65カ月程度ではあるが,いずれの症例も再発を認めていない。長期予後に関しては不明な点が多いものの,6cmを超える腫瘍径のACCであっても,大きな合併症は少なく,適切な症例の選択と術者の習熟度により選択できる術式である。
対象期間に当院にて600例を超える副腎手術がなされている。その多くは副腎皮質腺腫および褐色細胞腫であり,手術が施行されたACCの頻度は全副腎手術の2.5%程度に過ぎない。したがって,遭遇する症例に個別に治療法を吟味し,high stageであっても可能な限りの外科的切除を考慮する必要がある。また,Weiss criteriaにてscoreの高い症例ではlow stageであっても注意深い経過観察が必要であり,再発時には外科的切除のタイミングを逸してはならないと考える。稿を終えるにあたり,チーム医療としてご指導ご協力を頂いている東北大学移植再建内視鏡外科,放射線科,腫瘍内科,病理診断学および腎高血圧内分泌科の諸先生方に心より御礼申し上げる。