2014 年 31 巻 3 号 p. 190-196
内科治療に抵抗する抵抗性の高PTH血症が持続し,高P血症(>6.0mg/dL)または高Ca血症(>10.0mg/dL)が存在する場合は,副甲状腺摘出術(PTx)または経皮的エタノール注入療法(PEIT)などの副甲状腺インターベンションが適応とされる。ここでは,PEITに代表される非手術・選択的局所療法を中心に記載する。
本邦では超音波による責任病巣の検出能向上に伴い,1990年後半より二次性副甲状腺機能亢進症に対して選択的副甲状腺注入療法が積極的に行われ,2004年には副甲状腺への経皮的エタノール注入療法(PEIT)が保険の適用となり,更にビタミンD(VD)製剤の直接注入に関する臨床試験も行われた。対象とする腺のサイズや多腺病変への適応が議論され,またPEIT後の癒着が臨床的に大きな問題となったが,2008年にPTH分泌を抑制するシナカルセット塩酸塩の登場以来,副甲状腺に対するインターベンションは大きくその立場を変えることとなった。
副甲状腺機能亢進症に対するインターベンションとは,包括的には副甲状腺摘出術(PTx)や経皮的エタノール注入療法(PEIT)などが該当するが,PTxに関しては他稿に記載されているため,ここでは,PEITに代表される非手術・選択的局所療法としてのインターベンションに関して述べる。
高分解能超音波やMIBIシンチといった診断方法の導入に伴い,副甲状腺機能亢進症の責任病変に対する検出能は飛躍的に向上し,その治療戦略は大きな変化を迎えた。特に原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)は,術中に全ての副甲状腺を確認,生検する両側頸部検索が推奨された時代から,1970年台には,超音波やCTの登場により,術前に責任病変の局在診断を行い,腫大腺のある片側のみの検索が主張された。その後,USの精度上昇と201Tl-99mTcシンチの開発があり,1990年台に99mTc-MIBIを用いた副甲状腺シンチが登場し,一挙に責任病変のみを摘出するFocused approachが提唱された(図1)。また,術中迅速PTH測定法やradio-guided imagingといった術中支援システムも臨床導入されることで腫大腺のみの摘出を行うFocused Parathyroidectomyが主流となってきた。
上:右副甲状腺腺腫の超音波像
下:201Tl-99mTcシンチ Subtraction像
一方,腎不全に伴う高度二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)に対する治療戦略は,内科的療法と副甲状腺全摘,自家移植を行うPTxが主であったが,前述した画像診断の進歩に伴って非手術・選択的局所治療である副甲状腺経皮的エタノール注入法(percutaneous ethanol injection therapy:PEIT)が1985年イタリアのグループにより最初に報告された[1,2]。本邦でも1990年台に副甲状腺PEIT研究会が立ち上げられ,内科的治療に抵抗し著しく腫大した腺(結節性過形成の腺)を選択的に破壊し,その後にVitamine Dパルス療法などで管理する選択的PEITが提唱された[3,4]。
このように画像診断の進歩につれて,副甲状腺機能亢進症の治療戦略は大きく変貌を遂げている。また後述するシナカルセットに代表される新薬の登場によって更なる変化を遂げることとなった。
従来,副甲状腺腫瘍に対する穿刺吸引細胞診(Fine Needle Aspiration:FNA)は,悪性の場合,がん細胞の播種を招くとして禁忌として扱われていた。現在でも,副甲状腺癌を疑う場合には穿刺術は禁忌であるが,通常の画像診断のみでは副甲状腺腫瘍であるか,甲状腺などの他の病変であるか鑑別に苦慮する場合にはPTHのサンプリング測定と細胞診を目的にFNAの適応とする施設もあり,本邦では未だ議論されている所である。ましてや,PHPTに対するインターベンションに関しては,SHPTと大きく局面を異として,我が国では殆ど実施や報告はされていない。われわれの施設においても,過去に数例PHPTに対するPEIT例は有するが,近年では殆ど施行例はない(図2,3)。しかしながら,欧米では1990年台より症例を選びながらも原発性副甲状腺機能亢進症を呈する副甲状腺腺腫に対するインターベンションが報告されている[5]。PEITのみならず,日本では全く行われていない「超音波ガイド下Laser Ablation」に関しても多くの報告がなされており,特記に値するものと思われる。Karstrup[6],Bennedbaek[7]らのPHPTに対するインターベンションにおける報告に対して,1993年Acta EndocrinologicのInvited Commentarとして「Non-surgical treatment of primary hyperparathyroidism」が掲載されている[8]。超音波によるPHPT責任病巣の検出能を評価しつつも,縦郭内腺腫や穿刺困難な部位も存在し,手術によるPHPTの極めて高い治癒率を考えると,インターベンションに対しては,合併症および長期予後を十分に考慮し規制すべきであるという一文である。しかしながら,その後もLaser Ablationを主として多くの研究がヨーロッパを主体に継続されており[9],高密度焦点式超音波治療法(High Intensity Focused Ultrasound:HIFU)[10]や経皮的ラジオ波焼灼療法(Radiofrequency Ablation:RFA)[11]なのど報告,臨床研究が継続されている。我が国では殆ど施行されてない治療方法であり,今度の推移を慎重に見守るべきものと考える。
PHPTに対するPEIT症例
PHPT症例に対するPEIT(施行時の超音波像)
本邦では超音波による責任病巣の検出能向上に伴い,1990年後半より二次性副甲状腺機能亢進症に対して選択的副甲状腺注入療法が積極的に行われ,1998年度副甲状腺PEIT研究会による全国透析施設宛のアンケート調査によると600例を越す症例に副甲状腺PEITの成績が施行されている。一方では,反回神経麻痺などの合併症も少なからず報告されており,本治療法の適応,限界,手技,などには議論がなされていた[12,13]。そこで,本治療法を合併症の危険を最少限に正しく普及すべく副甲状腺PEIT研究会世話人会より「選択的副甲状腺PEITに関するガイドライン(暫定案)」が発行された[14](表1)。
選択的副甲状腺PEITに関するガイドライン(暫定案)
このガイドライン(暫定案)が1年間,各種研究会,学会でさらされた後,修正が行われ「選択的副甲状腺PEITに関するガイドライン2000」として報告された[15](表2)。修正点の主なものは,PEITの適応であり,3腺以上の腫大症例もPEITにまわってくる施設も多いことから,安全のために「施行前に反回神経麻痺が存在しない症例においても,同時に両側にエタノールを注入することは,両側反回神経麻痺を起こすことがあるので原則として避ける」と脚注に加えられている。暫定案にて,「頸部に結節性過形成を思わせる長径1cm以上,推定重量500mm3以上の大きさの副甲状腺が少なくとも3腺以上存在する場合は,全ての腺を破壊することは困難であり,長期的にはPEITの効果が不十分な場合も存在する。」との警告と相反する現状が認めて取れる。2004年には副甲状腺への経皮的エタノール注入療法(PEIT)が保険の適用となり,一層,透析施設を中心に数多くの副甲状腺PEITが施行されてきた。本法は超音波機器のみがあれば施行可能であり,加療前のパルス療法,PEIT,PTxの十分な説明と理解が得られないままに,「積極的にはPTxを希望したくない透析患者」に対して安易に施行された面も否定できない。反回神経麻痺,疼痛,血腫といった合併症を引き起こし,結果的に不十分な加療成績となり,その後のPTx時に激しい癒着のため,多くの内分泌外科医をも苦しめる結果となった[16,17]。
選択的副甲状腺PEITに関するガイドライン2000
我が国では静注用のビタミンD製剤(Calcitriol静注用,Maxacalcitol)を直接副甲状腺に注入する方法が開発され,臨床試験が行われてきた。エタノールによる疼痛,反回神経麻痺に比べ,ビタミンD注入は複数回の注入を要するものの,痛みもなく反回神経麻痺をきたす可能性は極めて低く,PEITに変わって検討された[18,19]。
3-3:SHPTに対する選択的局所療法の変遷エタノール以外のビタミンD注入療法も選択肢として加わり,副甲状腺PEIT研究会も副甲状腺インターベンション研究会に名称変更がなされ,これまでの副甲状腺インターベンションに対する見直しがなされた。2006年に社団法人日本透析医学会から「透析患者における二次性副甲状腺機能亢進症治療ガイドライン」が発表された[20]。その中に明確にされたことは,副甲状腺PEITの適応は単腺腫大例のみであり,2腺以上の腫大例はPTxを選択すべきと明示されたことである。これによって,保険適応であるからとして安易に行われがちであった副甲状腺PEITに歯止めがかかった状態となった。また,副甲状腺インターベンション研究会においても2007年にガイドラインの改訂がなされ,手技および術後管理に関して一層の注意喚起がなされている[21](表3)。
選択的副甲状腺局所療法に関するガイドライン
・1腺のみが腫大している場合で,穿刺可能な部位に副甲状腺が存在する場合はPEITで長期間副甲状腺機能亢進症の管理が期待できる
・2腺以上腫大している症例ではPTHを低下させることが困難なことが多いのでPTxを選択すべきである
・PEIT後のPTxでは周囲との癒着があり,反回神経の同定が困難であり,損傷の危険が高くなることに留意すべきである
・活性型ビタミンD製剤の副甲状腺直接注入療法は保険外診療であり,また長期的効果についてはエビデンスがなく現時点ではPEITのみに限定すべきである
・PTx,PEITのいずれにせよ,これらの手技に精通した術者に委ねるべきである
シナカルセト塩酸塩(レグパラ®)はcalcium-sensing receptor(CaSR)に作用し,細胞外カルシウムに対する感受性をallostericに増強することによって副甲状腺ホルモン(PTH)分泌を抑制する薬剤であり,副甲状腺機能亢進症治療に対する概念を大きく変貌させる力を有しており,2007年に「維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症」を効能・効果として我が国でも承認された。本薬剤に関しての詳細は,他稿に譲るが,この薬剤の登場によりSHPTの加療戦略は大きく変わり,PTxを含めた副甲状腺インターベンションはこれまでとは全く異なる局面を迎えている[22]。PTx件数の減少のみならず,PEITなどの局所注入療法も殆どその有用性を発揮する局面はなくなり,「副甲状腺インターベンション研究会」自身も自然消滅した形となっている。また,副甲状腺癌およびPHPT加療戦略においても,シナカルセットへの期待は大きく,以下のような症例において適応拡大,承認が望まれていた[23]。
1.手術,全身麻酔の侵襲に耐えられない症例
2.縦隔内など異所性副甲状腺の切除が困難な症例
3.PTH過剰分泌originが同定できない症例
4.副甲状腺癌,parathyromatosisなど全ての病的副甲状腺組織を切除困難な症例
5.再手術により両側反回神経麻痺など重大な合併症を引き起こす可能性がある症例
2014年2月,日本内分泌外科学会,甲状腺外科学会からの要望もあり,「副甲状腺癌ならびに副甲状腺摘出術不能または術後再発の原発性副甲状腺機能亢進症における高カルシウム血症」も効能・効果追加承認となったことは,内分泌外科医にとって治療戦略の幅が広がり,朗報といえる。ただし,シナカルセットも副甲状腺機能亢進症に対する万能の薬ではなく,高頻度に胃腸障害などの副作用も報告されており,また長期的な展望,経済性も考慮すべきである。
副甲状腺機能亢進症に対するインターベンション(選択的局所療法)は,画像診断の発達に伴い,様々に進化してきた。PHPT加療に関しては,本邦では外科的切除が主であるが,様々なインターベンションが海外では導入,試用されており,今後の成果を見守るべきと考える。SHPT加療において,現状ではインターベンション(選択的局所注入療法)の役割は,シナカルセットの導入に伴い,更に少なくなるものと思われる。副作用でシナカルセットが使えない場合や外科的切除も困難な場合にのみ適応となると考える。