日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
副甲状腺機能亢進症:特殊な病態と治療
横井 忠郎森 祐輔橘 正剛佐藤 伸也山下 弘幸
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2014 年 31 巻 3 号 p. 197-201

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抄録

古典的な原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)を日常診療で診ることは相対的に少なくなっており,むしろ無症候性で発見されることが増えている。さらには正カルシウム血症であることもしばしば認められる。これらの病態はPHPTの前駆あるいは初期像と考えられているが,結論は出ていない。正確な診断についてはPTH不適合分泌を見逃さないことや,ビタミンD不足を初めとする二次性副甲状腺機能亢進症の合併を除外することが大切である。治療に当たってはNIHガイドラインを参考にする施設が多いと思われるが,ガイドライン自体にも問題点が多い。ガイドライン上の手術適応に固執すると,適切な治療時期を逸することもあり,注意が必要である。

はじめに

原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism:PHPT)の臨床像は医学の進歩に伴い様変わりしており,診断・治療について留意すべき点も多い。特に近年は血清Caの上昇を伴わないPHPTも多く発見されるようになり,注目すべき病態であるが,広く認識されているとは言いがたい。これらの病態を詳述するとともに,ガイドラインや本邦特有の問題点についても考察する。

1.無症候性原発性副甲状腺機能亢進症を見逃さないためには

検査機器の発達に伴い,古典的な合併症を伴ったPHPTを日常診療で見る割合は少なくなっている。一方でintact PTH,whole PTHなど副甲状腺ホルモン(PTH)の測定が精密になり,また近年の超音波機器の高解像度化,ならびに動脈硬化疾患のスクリーニングとして頸動脈超音波検査が普及するに伴い,以前には指摘されていなかった無症候性原発性副甲状腺機能亢進症(asymptomatic PHPT)が比較的容易に見つかる様になっている。このためAsymptomatic PHPTはむしろ稀ではなくなっている[]。その治療戦略についてはNIHが主体となり作成されたガイドライン(NIHガイドライン)[]があるが,後述するように問題点も多い。

多くの文献は骨折を伴う骨病変,膵炎,尿路結石などの古典的な合併症を伴わないPHPTを無症候性としているが,ガイドライン上も明確には定義されていない。文献上は骨密度測定検査で骨粗鬆症と診断されても無症候性に分類されることが多いが,定義がないため混乱しやすい。また軽度の高カルシウム(Ca)血症に伴う自覚症状は非特異的である。無症候性と診断しても,本当に無症状かどうかの判断は容易ではない[]。診断に際しては,無症候性PHPTでは血清CaならびにPTHが必ずしも異常高値を示さないことに注意が必要である。血清Ca値のごくわずかな上昇を認めるにもかかわらず,PTH分泌が抑制されていない,PTHの不適正分泌(inappropriate PTH secretion)を見逃さないことが重要ある(図1)。このため血清CaとPTHを同時に測定し,総合的に判断しなければならない。ただし日常診療においては全ての患者で血清CaとPTHをスクリーニングするのは現実的ではない。ごくわずかな血清Ca値の上昇,血清P値の低下,超音波検査で副甲状腺腫の存在に注意を払い,PHPTの可能性を常に考えることが大切である。またAsymptomatic PTHにおいては古典的なPHPTと異なり尿中Ca排泄は相対的に低く,FECaも典型的な数値(2%以上)にはならないこともある。

図1.

PTH不適正分泌(inappropriate PTH secretion)

2.正カルシウム血症性原発性副甲状腺機能亢進症

Asymptomatic PTHの中には血中PTHのみ高値で,血中Ca値は正常範囲内に推移する正カルシウム血症性原発性副甲状腺機能亢進症(Normocalcemic Primary Hyperparathyroidism:NCHPT)が稀に認められる。NCHPTの診断は基本的にはPHPTと同様であるが,血清Ca値が正常であり,そもそも本疾患を疑うことも難しい。Bilezikianらは骨代謝専門施設においては骨密度の低下した患者の精査で紹介されてきた全員にPTH測定を含めたスクリーニングを施行しており,それを契機としての発見が多いとしている[]。一方で当院でのNCHPTの発見契機は健診などの超音波検査や,甲状腺疾患の経過観察中に副甲状腺腫などの頸部腫瘤性病変を指摘された症例が殆どである。中には超音波検査上も明らかな腫大副甲状腺を認めても,甲状腺の結節として紹介されてくる症例も多く,日常診療において見過ごされている頻度は高いと思われる。また診断に当たっては,表1にあげた二次性副甲状腺機能亢進症(Secondary hyperparathyroidism:SHPT)が合併していないことを確認する必要性がある[]。VD不足については後述するが,血清Ca低下をきたす病態の合併を除外する。

表1.

二次性副甲状腺機能亢進症の主な原因

NCHPTは1960年代から報告があるが,その病態はいまだ確立されていない。疾患概念としても広く認識されているとは言いがたく,厳密にVD不足を否定した報告が少ない。SilverbergらはNCHPTをPHPTの初期像として提唱しており,NCHPT37人を対象とした約3年間の観察研究で,15名(41%)に骨密度低下を初めとする増悪を認め,7名(19%)が高Ca血症をきたしたと報告し,早期に発見,治療することで骨密度減少を予防できるとしている[]。一方でTordjmanらはNCHPT32人のうち,12名を手術,残り20名を約4年間観察し,高Ca血症をきたした患者はなかったと報告している[]。いずれも症例も少なく,観察期間も短いため,症例の蓄積が待たれる。

3.ビタミンD不足の合併

SHPTの原因は多岐にわたるが,PHPTに合併していることは決して少なくない。このためNCHPTに限らずPHPTの診断に当たっては,常にSHPTの可能性,ならびにSHPTが合併していないかに注意を払う必要性がある。特にVD不足・欠乏は先進国全般に広く認められ,本邦においても頻度が高い。VD不足・欠乏の診断は血中25(OH)VDの測定が必要である。VD不足・欠乏の基準値については,米国内分泌学会のガイドライン[10]は,20ng/ml未満をVD欠乏,30ng/ml未満をVD不足としている。本邦の報告では10ng/ml未満をVD欠乏,20ng/ml未満をVD不足としているが,20ng/ml未満,30ng/ml未満に該当する割合はそれぞれ約50%,90%以上になり[11],これらの基準が妥当かどうかについては議論が残る。

前述のNCHPTではまずVD不足を除外する必要性がある。表2に示したように,VD不足では,血中Ca正常~正常下限,高PTH血症を呈する。さらにPHPTにVD不足があれば,高Ca血症を呈せず,あたかもNCHPTに見えてしまう(mimic NCHPT[12])ことがある。またVD不足の合併は,骨密度の低下,骨代謝マーカーの上昇,ALP高値に関連し[13],腺腫重量,線維性骨炎などPHPTの重症化に直接影響する[1415]。さらには術後の低カルシウム血症,Hungry bone症候群のリスクを高くする。このためNIHガイドラインでは,PHPTにVD不足が合併している場合は,天然型VDを投与し,血中25(OH)VDを20ng/ml以上を保つ様に推奨している[12]。臨床上は重要な病態であるが,血中25(OH)VDの測定は本邦では保険収載されておらず,VD不足を疑っても,現状では診断・治療は難しい。また天然型VD製剤も医師が処方可能な薬剤は,デノスマブに対する低Ca血症予防にしか適応がなく,しかもCaとの合剤である。活性型VDにも副甲状腺からのPTH分泌を抑制するネガティブフィードバックがあるため,筆者はVD不足が疑われる際には,やむを得ず活性型VDを投与して,血清Ca,PTHの反応を確認することがある。これでVD不足を疑うことはできるが,確定診断にはならない。臨床上重要と思われるときは,現状では施設負担での25(OH)VD測定を行うしかないので,25(OH)VDの検査,天然型VD製剤の保険収載が望まれる。

表2.

各病態における検査所見

4.治療戦略~NIHガイドラインや本邦の問題点を踏まえた上で

Asymptomatic PHPTの明確な定義がないのは問題であるが,そもそもNIHガイドラインは専門家によるコンセンサスガイドラインであり,エビデンスレベル,推奨度も記載されていない。辛うじてガイドラインと同号の会議録に引用文献のエビデンスレベルが記されているだけである。Asymptomatic PTHを手術すべきかどうかについて,結論は出ていない。このためガイドライン上も手術適応について具体的な指標(表3)が提唱されているが,その根拠は必ずしも明確ではない。また経過観察が不可能,あるいは望まない場合は手術適応となる旨が注釈にあり,絶対的な手術の指標ではない。にもかかわらず,あたかもNIHガイドラインを金科玉条のごとく遵守しなければならないと考えている臨床医は少なくないように思われる。一方でHigh volume centerほど積極的に手術を行っており,一般医と内分泌外科専門医との間には温度差を感じることが多い。実際の臨床では施設の方針,医師の裁量で治療方針が決定されているのが現状と思われる。またVD不足についても,本邦では殆どの場合は検証もされておらず,海外とはそもそも25(OH)VDの平均血中濃度も乖離している。こうした背景を考慮せずにガイドラインに沿って治療方針を決めるのは乱暴と思われる。われわれの施設ではAsymptomatic PTHであっても原則として手術の適応としている。手技に習熟すれば合併症なく病的腺を摘出でき,治療成績は極めて良好である。長期的には患者の負担も少なく,医療経済的にもメリットは大きいと考える。

表3.

NIH Guidelineにおける無症候性原発性副甲状腺機能亢進症の手術適応

NCHPTについてはAsymptomatic PHPTよりも慎重な対応が必要である。われわれも基本的にはまずは経過観察を行っている。ただし前述の通りNCHPTにおいても骨密度減少などの悪化を認めることがあり,十分な説明,同意の上で早期に手術を行うことも選択肢の一つである。ただしNCHPTにおいては病的腺の切除に至らなかった症例が多いとする報告もあり[16],手術適応はより慎重に選択する必要がある。いずれも手術を希望されない場合は,長期にわたり経過観察が必要であることは十分に説明しておかなくてはならない。

また注意すべき病態として腎機能障害がある場合は,尿中Ca排泄量が低くなるため,PHPTでもFECaが低値となることがある。手術を検討する際にも,厳密には家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)の否定は困難なことが多い。ただし腎機能障害とFHHの有病率は大きく乖離しているため,FECa以外の検査結果がPHPTと矛盾しないことや,家族歴を十分に確認することで,治療方針を決定すべきである。もちろん家族歴のない散発性のFHHもあるが,それ以上に個々の患者の状態を考慮しなくてはならない。慢性糸球体腎炎などの器質的な腎疾患があり,将来血液透析が必要と予想される症例にもPHPTが合併していることがある。FECa低値を根拠に安易にPHPTを否定すると,適切な手術時期を逸することになり,非常に不幸な転帰となる。このような特殊な病態についてはNIHガイドラインも対応を答えておらず,ガイドラインの手術適応にとらわれてしまうのはナンセンスである。

5.なぜ原発性副甲状腺機能亢進症は閉経後女性に好発するのか?

PHPTは閉経後の女性に好発するが,閉経との関係について言及されることは少ない。この点について,われわれは閉経に伴うエストロゲン分泌低下により骨吸収が増加するためではないか,と仮説を立てている[17]。エストロゲンには骨吸収抑制作用があり,閉経によるエストロゲン減少から骨塩減少をきたすことは良く知られている。Silverbergらの報告では,Asymptomatic PHPT 52症例中14例が経過観察中に増悪しているが,増悪した症例は,増悪しなかった群と比較するとより若年で,14例中6例が閉経後に増悪している[18]。またエストロゲン補充療法を施行した閉経後PHPTの患者で血中Ca値が軽度低下した報告も散見される[1922]。これらは閉経前女性においてエストロゲンの骨吸収抑制作用が,NCHPT患者の血中Ca値上昇を抑制していることを示唆し,NCHPTが閉経後に症候化する傍証ともとれる。今後はさらなる知見の蓄積が望まれる。

6.遺伝性疾患について

NCHPTにおいては多腺病変の頻度が高いとする報告もあり[16],MEN1を初めとする遺伝性疾患については常に可能性を考えておかなくてはならない。

おわりに

社会情勢の変化や医療の発展に伴い,PHPTの臨床像も様変わりし,今後は新規薬剤の登場により治療戦略も大きく変わってくる可能性がある。しかしながら,病的腺の摘出がPHPTの唯一の根治療法であることに変わりはない。内分泌外科医は十分な知識と手術修練を積んでおくことが肝要と考える。

【文 献】
 

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