日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
シナカルセトの適応拡大後の原発性副甲状腺機能亢進症,副甲状腺癌に対する治療戦略
山本 貴之冨永 芳博
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2014 年 31 巻 3 号 p. 205-209

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抄録

原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)はその大部分が副甲状腺の1腺腫大の腺腫で,多腺腫大の過形成,稀な副甲状腺癌も原因となる。いずれの病態においても病的副甲状腺の摘出術(PTX)が第一選択となるが,血液検査の普及に伴い,線維性骨炎や腎結石を繰り返す症候性PHPTは減少し無症候性PHPTの頻度が増加してきている。無症候性PHPTの手術適応については議論の余地があるが,米国NIHガイドライン2008に準じることが多い。本年2月シナカルセトが外科的切除不能なPHPT,副甲状腺癌による高カルシウム血症に対して適応拡大となった。これらの疾患は比較的稀であるが,現在他に有効な治療法がないためこれらの患者にとっては福音となる。但しPHPTの治療の第一選択はあくまでPTXであり手術可能な症例に対してむやみにシナカルセトを使用することは厳に慎むべきである。

はじめに

原発性副甲状腺機能亢進症(Primary hyperparathyroidism:PHPT)は一般成人の約1%に発症し,中高年の女性に好発する疾患である[]。PHPTにおける原因の大部分(80~85%)が副甲状腺の1腺腫大(腺腫)であり,15~20%は多腺腫大(過形成またはdouble adenoma)であり過形成の多くは多発性内分泌腫瘍症候群(multiple endocrine neoplasia:MEN)などの家族性副甲状腺機能亢進症(hyper parathyroidism:HPT)が原因で,1%未満は副甲状腺癌が原因とされている[,]。臨床病型としては骨病変(線維性骨炎)をきたす骨型,繰り返す尿路結石をきたす腎型,血液検査の異常のみで診断される無症候性の化学型があるが,近年の血液検査の進歩により約80%が無症候性の化学型であるといわれている[]。PHPTに対する治療としては外科的治療(parathyroidectomy:PTX)に勝る治療法はないものの,その手術適応に関しては様々な意見がある中で米国NIH(National Institutes of Health)カンファランスのガイドライン(1,正常上限から1mg/dl以上の血清Ca 2,クレアチニンクリアランス60ml/min未満 3,T-score2.5未満(どの部位でも),病的骨折既往 4,年齢50歳未満)に準じることが多い。同ガイドラインの適応基準に一つでも該当すれば無症候性であってもPTXが推奨される[]。ハイリスクで全身麻酔下の手術が困難で高カルシウム(Ca)血症が高度の症例では改善させる手段としてシナカルセトを使用することも考慮されるが,高Ca血症が改善し,手術が可能と判断されればPTXの適応を再度考慮すべきである。一方,PTXでHPTを改善させることができない症例(PTX後も遷延するHPTや部位を特定できない症例),副甲状腺癌の局所再発・遠隔転移,副甲状腺細胞の播種(parathyromatosis)の症例,再手術により両側反回神経麻痺などの重大な合併症を引き起こす可能性がある症例などの手術困難症例に対する高Ca血症に対しては保存的治療が選択される。PHPTによる高Ca血症に対する保存的治療のオプションとしては,生理食塩水による大量輸液,フロセミドによる利尿,カルシトニン製剤,ビスフォスフォネートなどがあるが作用は一過性である。一方,カルシウム擬似様作動薬(calcimimetics)に関してはCa値を持続的に低下させることができると報告されている[,, ]。現在使用可能なcalcimeticsはシナカルセト塩酸塩(シナカルセト)で副甲状腺の細胞膜上に存在するCa感知受容体の膜貫通領域に結合し,受容体を構成する蛋白質の立体構造を変化させることにより蛋白質のカルシウムイオン(Ca2+)が結合する部位の構造も変化させる(アロステリック効果)ことによってCa感知受容体とCa2+の結合性を増大させ,たとえCa濃度が等しくてもPTH産生・分泌を強力に抑制する[]。シナカルセトは欧米はもとより本邦においても2008年より維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症(secondary hyperparathyroidism:SHPT)に対する治療薬として保険収載され広く使用されているが,PHPTに対する有効性は欧米諸国を中心にいくつかの報告例がある[,]ものの本邦においては保険収載されていなかった。2014年2月よりこのシナカルセトは副甲状腺癌ならびに副甲状腺摘出術不能または術後再発のPHPTにおける高Ca血症に対する治療薬として適応拡大され使用可能となった。SHPTにおけるシナカルセトのPTH抑制効果は劇的でSHPTに対するPTXは激減している。しかし手術可能なPHPT,保存期腎不全のSHPT,三次性副甲状腺機能亢進症に関しては欧米においても認可されていない。これは尿中へのCaの排泄が増加しcalciphylaxisの恐れがあることや保存期腎不全ではシナカルセト投与により血清リン値が上昇し異所性石灰化,生命予後の悪化をきたす可能性があるためである。そのため病的副甲状腺が切除可能な症例ではまずPTXを選択すべきで安易にシナカルセトを使用することは慎むべきである。シナカルセトは高価であり,また50%近くに消化器症状(嘔気,嘔吐)をきたし,高用量の内服が困難である症例が稀ではない。こうしたシナカルセトの持つ利点と欠点を踏まえPHPTに対するシナカルセト適応拡大後の治療戦略につき概説する。

今日のPHPTに対する治療戦略

1.外科的治療

PHPTに対するPTXでは,いかに全ての病的副甲状腺のみを摘出するかがkeyとなる。PHPTでは約85%が1腺腫大(腺腫)で,残り約15%が多腺腫大(過形成またはdouble adenoma)であり,過形成の多くは家族性であることから両者の鑑別が家族歴からある程度推測可能であること,99mTcMIBIシンチグラムや頸部CT,超音波検査によりかなり正確に術前に病的副甲状腺の部位を診断することが可能になってきたことから,画像診断で確認した部位に小切開を加え腺腫のみを切除する方法(focused PTX)が主流となってきている[,]。更に術中PTHモニタリングによりすべての病的副甲状腺が切除できたか否かを確認する方法の有用性も広く報告されており[],当科においても腺腫に対する術式はfocused PTXを行い,術中PTHモニタリングにより腫瘍切除後10分のintact PTH(iPTH)が術前iPTHの50%以上に低下することによって病的副甲状腺摘出成功の指標[]とし良好な成績を得ている。もちろん,MEN type1,type2を含めた家族性PHPTの疑いのある症例,画像診断で2個以上の副甲状腺腫大が疑われる症例,あるいは腫大した副甲状腺が確認できなった症例ではbilateral neck explorationが必要となる[]。PHPTに対するPTXにより90%以上の症例が迅速に血清Ca,iPTHともに正常化し,手術合併症は1~2%と報告されている[,10]。また骨回転に関しては手術後半年以内に正常化すると報告されている[11]。骨密度に関してもPTX後1年で10~12%と改善し,更に腎結石のリスクが90%近く減少すると報告されている[1012]。

一方,発症率がPHPTの1%未満の副甲状腺癌に対するPTXでは初回手術で責任病巣側の甲状腺葉切除,胸骨甲状筋・傍気管リンパ組織切除も含めen blocに切除することと播種を避けることが重要である。胸鎖乳突筋,反回神経に関しても癌に近接し巻き込まれていれば同様にen blocに切除することが必要となる。もし術前評価も含め臨床的に側方リンパ節腫大がなければ側方リンパ節の郭清は行う必要はない。先述したようにがん細胞の播種させることが再発の主要因となるので術中は副甲状腺癌の被膜をraptureさせないよう細心の注意が必要である。術中PTHモニタリングは十分に原発巣を摘出できたか否かの確認に有用であるが良性の副甲状腺病変と比較しPTHの減少速度は緩やかであるとされている[13]。但し病変のen blocな切除にも関わらず術中PTHレベルが明らかに上昇した時は,潜在性の転移病変と同様に局所の軟部組織への浸潤の可能性を考慮すべきである。系統だった報告では副甲状腺癌の平均長径は3cmで重量は6.7gと報告されている[14]。副甲状腺癌の最も鋭敏な再発の指標となるのは高Ca血症とiPTHが上昇することである。十分なen bloc切除にも関わらずその再発率はおよそ50%におよぶとされ,初回手術から2~3年目が好発時期である[13]。局所再発の好発部位としては甲状腺床と傍気管領域であるが,摘出可能であれば再発部位のen blocな切除が高Ca血症を回避させ予後を改善させると報告されている[15]。遠隔転移の好発部位としては肺,肝臓,骨がありこれらも切除可能であれば切除することにより同様に高Ca血症を回避し予後を改善させると報告されている[13]。ちなみに副甲状腺癌はslow growingな癌であるが,その死因の大部分が副甲状腺癌による高Ca血症である。こうした背景から外科的治療困難な副甲状腺癌に対する内科的治療に対して後述する。

2.内科的治療

PHPTに対する治療のgold standardはPTXであるが,様々な理由により手術が困難な症例やPTXを施行したにも関わらず持続性HPTあるいはHPTの再発をきたす症例が存在し,こうした症例に対しては内科的治療が適応となる。米国の10年間の前向き研究において軽症PHPTにおける血清Ca値,P値,PTH値,Cre値,尿中Ca値は年余にわたって変化がなく骨密度の有意な変動も認められていない[16]。骨密度減少例や骨代謝マーカー異常症例についてはエストロゲン,ラロキシフェン,ビスフォスフォネート,シナカルセトによる治療が報告されている[]が,手術不能なPHPTや副甲状腺癌において生命予後に大きく関わるのは続発する高Ca血症である。この手術不能なPHPTに対する高Ca血症の治療を中心に以下それぞれについて概説する。

エストロゲンおよびラロキシフェンに関しては閉経後女性に関して少数の報告[1721]がありいずれも骨塩量の改善効果はあるものの高Ca血症には無効でありPHPTに対する内科的治療のオプションとしては否定的である。ビスフォスフォネートはNIHガイドラインのPTX適応外の無症候性PHPTやPTXの拒否症例に用いられており,アレンドロネートを使用した報告が多い。アレンドロネート経口投与により骨代謝マーカーの低下と海綿骨優位の骨密度増強効果が示されているが,血清Ca,PTHに対する効果はまちまちである。血清Caに関しては変化しないとする報告[22]低下するも一過性とする報告[23]があるが,いずれにしてアレンドロネート経口投与では高Ca血症の長期的な是正は期待できないと考えられる。血清PTHに関しては横ばい若しくは増加すると報告[2223]されている。また,強力な骨吸収抑制薬である静注用ビスフォスフォネート製剤は高Ca血症クリーゼ時に緊急処置として有用であるが,この効果は一過性であり,症候性のPHPTの再発や副甲状腺癌に対する高Ca血症に対する治療薬としては限定的である。シナカルセトの治療効果に関しては様々な小規模な文献的報告がある[,,]が,本薬剤が保険収載されるもとになった海外第Ⅱ相試験[2425]のdataについて述べる。対象は副甲状腺癌29例,難治性PHPT(PTX禁忌またはPTX後再発,かつ血清Ca>12.5mg/dL)17例の46例でシナカルセト30mg1日2回の経口投与から開始し,血清Ca≦10mg/dLへ低下または有害事象により増量が不可能になるまで2週ごとに増量した試験である。副甲状腺癌症例の血清Caはベースラインの14.1+/-0.4mg/dLから投与3週後には12.7+/-0.3mg/dLまで徐々に低下し,14週後には11.5mg+/-0.4mg/dLまで低下した。一方,難治性PHPT症例の血清Caはベースラインの12.7+/-0.2mg/dLから投与4週後には10.3+/-0.2mg/dLまで低下し,10週後には大きな変動なく10.8+/-0.5mg/dLでありいずれにおいても高Ca血症に対して改善を認め,特に高Ca血症が死因となる副甲状腺癌の再発に関しては有用な治療optionの一つであると考えられる。手術不能PHPT,副甲状腺癌における高Ca血症に対する本邦でのシナカルセトの具体的な使用法は開始用量として1回25mg1日2回から開始し,血清Ca値をみながら1回の増量幅を25mgとし,2週間以上の間隔をあけて1回25~75mgの間で適宜調整し1日2回投与を原則とするが,最大用量としては1回75mgを1日3回または4回まで増量できる。iPTHに関してはシナカルセト使用により有意に低下するという報告[,]が散見されるがBMDに関しては変化しないという報告[26]や腰椎に関しては有意に改善するが大腿骨頸部に関しては変化しないという報告[27]などがある。但し,どれも小規模な試験での報告しか存在せず,PHPTによる病的骨折や腎結石症などに関する長期的なデータは存在せず今後の報告が待たれる。

このようにシナカルセトは内科的治療の中では現時点で最も期待できる治療法であるがPTXと比較しての治療効果はどうであろうか?この問いに関しては一報小規模な報告[27]がある。17例のPHPTに対してPTXを行わずシナカルセト治療のみで行い,この17例と背景が同等のPTX群17例を後ろ向きに検討し,治療前・1年後の血清Ca,PTH,大腿骨と腰椎のBMDを比較したものである。血清CaはPTX群で100%正常化したのに対しシナカルセト群では70.6%が正常化し有意に(P=0.026)PTX群でCaの正常化が得られ,PTHの正常化においてもPTX群76%に対しシナカルセト群では35%であり有意に(P=0.036)PTX群でPTH正常化が得られた。BMDに関しては大腿骨に関してはシナカルセト群で18.8%に改善がみられたのに対しPTX群では58.8%と有意に(P=0.032)改善がみられが,腰椎においてはシナカルセト群で70.6%に改善がみられたのに対しPTX群では82.4%に改善がみられたものの有意差はなかった。こうした背景からもやはり手術可能なPHPTに対する治療の第一選択はPTXであり,手術不能と判断した症例もシナカルセトが保険収載された今日,われわれ内分泌外科医は果たして本当に手術が不能なのかをシナカルセトを含めた内科的治療により高Ca血症を是正している間に再考すべきである。

おわりに

今回本邦でもシナカルセトが使用可能となったが,その対象はあくまでも外科的切除不能なPHPTおよび副甲状腺癌による高Ca血症に対してであり,外科的切除の判断に迷うPHPTや副甲状腺癌そのものに対してではないことをわれわれ内分泌外科医は認識する必要がある。またシナルセトによる治療効果は前述してきたようにPTXに勝るものではなくあくまでもPHPTによる高Ca血症に対する治療において現時点でPTXを凌駕するものはない。

【文 献】
 

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