現在の乳腺診療において,FDG-PET/CTは乳癌転移の検出について高い診断能を有している。リンパ節転移診断の特異度の高いことや,網羅的に全身を検査できる点での意義は高い。現状では,乳腺腫瘍の良悪性判別や乳癌の検出においての限界があるが,局所の評価においても有用性が示されてきている。乳癌サブタイプや組織型ごとにFDG集積に特徴があり,ホルモン陽性乳癌ではFDG集積は弱く,トリプルネガティブ乳癌やHER2陽性乳癌において高いSUVを示すことが報告されている。また組織学的グレードや予後との関連も報告されている。術前や術後の薬物療法の効果判定においてもPETが用いられ,PETを用いた早期の効果判定の試みが行われている。現状では小さな乳癌や非浸潤性乳管癌などの病変検出能は低いものの,PEM(Positron Emission Mammography)やPET/MRIといった新しい装置が導入されることやPET/CTの進歩によって,あるいは新しいトレーサーの導入によって,さらに乳腺診療にPETが寄与できると思われる。
乳腺は乳汁を産生する外分泌組織であるとともに,エストロゲン・プロゲステロンの作用によって増殖・発達するといった内分泌作用が関わる組織でもある。乳腺疾患の中で最も問題となるのが乳癌であるが,前述のようなホルモンによる生理的作用や過剰反応が乳腺組織に及ぼす変化や良性乳腺疾患によって,癌の検出や診断・鑑別が難しいことがしばしばある。また,乳癌の中にはエストロゲンの作用によって増殖するものがあり,これらは内分泌療法の対象となりえる。このような,内分泌関連組織の一つとしての乳腺疾患におけるPETの役割について,現状と今後の展望をあわせて述べる。
現在,保険診療で施行可能なFDG-PETについては多くがPET/CTとして施行されている。PETのみで乳癌が発見されるようなケースもしばしばあるものの,乳腺病変では経皮的穿刺を行って病理診断を行うことが比較的容易であるため,PET単独での良悪判別の必要性は乏しい。PETでは全身を包括的に評価することができることから,全身への転移検索においては有用と考えられる。乳癌の転移の多い部位としては骨,肺,肝臓,リンパ節,などがあるが,この他あらゆる臓器に転移することがある。一連の臓器を一度に検査できる点でPET(とくにPET/CT)の有用性はとても高い[1](図1)。

乳癌術後3年,多発転移
a)MIP像にて,多発する転移への集積を認める。
b)右鎖骨上リンパ節転移(SUVmax=3.0)
c)多発縦隔リンパ節転移(SUVmax=6.1)
d)肝転移(SUVmax3.0)および肝門部リンパ節転移(SUVmax=4.7)
遠隔転移を疑わせる症状や所見のないStageⅠ,Ⅱの初発乳癌患者においては,転移の存在する割合はそれぞれ0.2%,1.2%と非常に低く,FDG-PETを施行しても転移が見つかる可能性は少ないとされている[2]。しかし,40歳未満の若年初発乳癌患者においては,FDG-PET/CTでの遠隔転移検出率がやや高い(5~17%)という報告があることや[3],乳癌のサブタイプによってはStageⅠ,Ⅱでも転移が検出されることが多いという報告もあり[4],一概に低い病期の場合にはPETが無用とまでは言えない。転移を強く疑う臨床所見の乏しい場合には,細心の注意の上での検査を行う必要がある[5]。
最近では乳房専用のPET撮像装置であるPEM(Positron Emission Mammography)について[6],全身検査とあわせて撮像することについて保険適用となっている。空間分解能が1.5~2mm程度と,全身のPETに対して圧倒的に高く,これまでPETで描出できなかった病変の検出や,マンモグラフィ検査では乳腺濃度に埋もれてしまうような病変の検出に期待されている。また,最近ではPETとMRIを複合させたPET/MRIも登場している[7]。乳房造影MRIは乳癌の検出感度が最も高い検査とされており,組み合わせることによってPETのみだけでは検出が困難な小病変を描出させることに期待される。
乳癌は病理組織学的に多様に分類されるとともに,遺伝学的にも異なる疾患の複合体ととらえられている。乳癌を遺伝子解析によりintrinsic subtype(固有のサブタイプ)に分類した結果をベースとして,代替的にエストロゲン受容体(ER),プロゲステロン受容体(PR),ERBB2(HER2又はHER2/neu)受容体,およびKi-67 indexの免疫組織化学的な定義を使用して5つのサブタイプに分類している[8](表1)。これらのサブタイプそれぞれに分類してのリスク評価が行われ,個別に効果のある薬物療法が行われる。最近では,遺伝子解析の結果自体によって分類が行われ,治療に反映されるケースも出てきている。

乳癌intrinsic subtypeの代替定義と推奨治療方針[8]
これらのサブタイプごとに,腫瘍の形態や画像所見にも一定の傾向があることが知られている。FDG-PETにおける集積パターンについても,最近ではFDG-PETでの集積,すなわち腫瘍のSUV(Standardized uptake value)に違いがあるとされている。ホルモン受容体陽性乳癌においてはSUVが低く,一方でHER2陽性乳癌やトリプルネガティブ乳癌においてはSUVが高いとされている(図2)。また,ホルモン受容体陽性乳癌の中でも,より増殖活性の強いluminal Bサブタイプの方がluminal Aサブタイプよりも集積が高いという報告もある。また,腫瘍の組織学的グレードによっても,悪性度の高いgrade 3の方がgrade 1およびgrade 2よりもSUVが高いと報告されている。SUVが高いことが,予後不良因子となるといった報告もある[9]。乳癌にはheterogeneity(不均一性)があり,術前に針生検で得られた腫瘍の一部における免疫染色の結果がかならずしも病変の全体を反映しているかはわからない。従って,画像診断での悪性度評価やサブタイプ予測を行うことについては一定の意義があると考えられる。

トリプルネガティブ乳癌(a.Fusion像,b.PET)およびホルモン受容体陽性乳癌(Luminal A型)(c.Fusion像,d.PET)
トリプルネガティブ乳癌(a.b.)では腫瘤に一致した均一な高度のFDG集積を呈していた(SUVmax=10.8)。
一方,ホルモン受容体陽性のLuminal A乳癌(c.d.↓)では集積は低く,背景乳腺よりごくわずか高い程度であった(SUVmax=1.3)。
NSABP(National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project)B-18試験などの大規模ランダム化比較試験により,乳癌の化学療法を術前と術後のどちらで行っても無病生存期間(disease free survival)および全生存期間(overall survival;OS)に差がないことが判明している[10]。術前化学療法(Neoadjuvant chemotherapy:NAC)を行うことによって,腫瘍縮小によって乳房温存率が向上することや,抗腫瘍効果を直接判定できるといった意義があり,またNACの効果が高いほど予後良好であるとされている。最近ではホルモン受容体陽性乳癌においては術前内分泌療法も行われるようになってきた。効果判定の際にFDG-PETは分解能の点でMRIよりも劣り,腫瘍残存があっても異常集積が検出できなくなることがある。しかし,形態(サイズ)の変化や血流の変化よりも代謝の変化は先行しておこることから,FDG-PET/CTによるNACの早期効果判定の有用性が国内外から報告されている。FDG-PETでのベースラインと1または2サイクル後の比較を行うことで,代謝活性の変化を示唆するSUVの低下が有意にみられる場合には最終的な治療効果が良好と予測される。代謝活性の変化が得られていない場合にはその治療を継続しても治療効果が乏しいとされ,早期に治療効果のない薬物療法を変更することに期待されている[11]。
転移・再発乳癌においても,FDG-PET/CTは治療効果判定における有用性が高い。全身の転移巣について包括的に検査をすることが可能であり,病変のサイズの変化をとらえるとともに,集積の程度やSUVの変化率を測定することが可能である。とくに,転移の頻度が比較的高い骨病変においては,CTやMRIなどのみでは病変のサイズや信号強度などでの病勢を評価することが困難であるが,PETにおいてはSUV計測を行うことによってある程度客観的な治療効果の判定を行うことが可能となる(図3)。また転移・再発乳癌治療においても薬物療法における早期効果判定を行う試みが多数報告されており,その有用性が示唆されている。

多発骨転移の治療中
CT(a)ではびまん性な不均一な硬化性変化を認め,viableな骨転移と治療に伴う骨硬化性変化を区別できない。
PET(b,c)では異常集積部位と集積のない部位が判別でき,viableな病変を区別することが可能となる。
原発巣の診断においては,1cm以下の小さな乳癌や非浸潤性乳管癌は集積が低いことが多く,また線維化の強い小葉癌や硬癌,粘液癌など組織型によって低集積を呈することがある。一方で,線維腺腫,乳管内乳頭腫,乳腺症,乳腺炎などの良性病変でもFDG集積をきたすことも知られている[12]。したがって,良悪性の鑑別や乳房内の病変の広がり,対側を含めた副病変の検出には限界があり,現時点では他のモダリティを組み合わせて診断する必要がある。術後や放射線治療後の局所において炎症に伴ったFDG集積をきたすことがあり,再発と紛らわしい場合もある。
リンパ節転移の評価においてはCooperらの26論文のレビューにて,感度は63%,特異度は94%と報告されている[13]。最近ではセンチネルリンパ節生検が重視される傾向にあるが,PETでの高い特異度は特筆できる。ただし,乳房生検後には炎症による反応性のFDG集積をきたすことや,一定の基準でリンパ節集積の程度を評価することが難しいこともあり,一概にPETだけで転移陽性の診断をつけることは難しいこともある。一方で,PETのリンパ節転移における感度は低く,FDG集積が陰性であっても転移を否定することはできない。また,原発巣が小さい場合には転移の頻度は低く,原発巣が大きい場合や原発巣へのFDG集積が高い場合には転移のリスクが高いことも知られている。
PET/CTにおいては,腋窩level Ⅱ(胸筋下・胸筋間)やlevel Ⅲ(鎖骨下),胸骨傍,鎖骨上,といったリンパ節についても包括的に評価することができるという特徴もある。これらのリンパ節には,病期が進んだ場合に腋窩リンパ節level Ⅰの転移に引き続いて転移することが多いが,胸骨傍リンパ節については単独での転移をきたすことも稀にみられる。これらのリンパ節転移を同定することはステージング上重要であり,PET/CTによる診断的価値は高い。
遠隔転移の診断においては,前述のようにPET/CTでは全身を網羅的に検査でき,肺,肝や他の臓器転移について他の検査で見つけにくい病変を容易に検出できることがしばしばある。遠隔部位に集積をきたす場合の特異度は高く,病勢を集積の程度で評価できる意義もある。ただし,PETでの小さな病変の評価には制限があることや,脳や尿路などにおいては生理的集積に病変が紛れることがある。
骨転移の診断能については,RongらのメタアナリシスにおいてFDG-PET/CTの感度が93%,特異度が99%とされ,有用性が示されている[14]。乳癌の骨転移は溶骨性転移,造骨性転移,および骨梁間型転移のいずれのパターンも取りえる。当初,造骨性転移の検出能が骨シンチグラフィに劣るとされていたものの,PET/CTでのCTの情報をあわせることで骨シンチグラフィと同等の感度をもつことが示されている[15]骨梁間型転移は網目状の構造をした骨梁間に腫瘍細胞がびまん性に広がるものであり,CTや骨シンチグラフィで検出できず,PETのみで指摘できることも少なくない。一方で,PETでは炎症,急性期の骨折・圧迫骨折などでも集積をきたすことがあるため,鑑別には追加のMRI検査やCTやエックス線撮影でのフォローでの確認が必用となることがある。
PETでは種々のトレーサーを利用した分子イメージング(Molecular Imaging)が可能であり,乳腺疾患で実用化されつつあるその一部を紹介する。18Fナトリウムは骨転移の診断能に有用であり,欧米ではすでに広く臨床使用されている。18F-fluorothmidine(FLT)は腫瘍細胞増殖能のマーカーとして期待され,効果判定における多数の報告がある。18F-fluoroestradiol(FES)はエストラジオールの誘導体であり,乳癌の診断やホルモン治療への有用性が示唆されている[16]。64Cu-DOTA-TrastuzumabはHER2陽性細胞に結合するトレーサーであり,HER2陽性乳癌およびその転移巣への集積が報告されており,今後の分子標的治療薬を用いた治療におけるターゲットの描出に期待される[17]。この他にも複数の薬剤が開発されており,使用が可能となれば,様々な代謝情報を用いての診断が可能となるであろう。
乳腺診療におけるPETの重要性は増加している。現在は主に乳癌転移の検出に使われているものの,今後は局所評価や効果判定の用途にも影響を与えていくものと思われる。さらに,今後の装置の発展や新しいトレーサーの普及によって,ますます臨床に寄与していくことができるだろう。