神経内分泌腫瘍の肝転移の治療は,手術適応,薬物療法,機能性腫瘍の症状緩和の3種類からなる。ガイドラインの基本的なスタンスは手術が可能であれば手術,非切除であれば抗腫瘍薬,機能性腫瘍であれば症状緩和療法ということである。外科切除は腫瘍をゼロにすることができる唯一の治療法であり,非常にslow glowingで再発しない可能性が高い腫瘍や再発しても切除しやすい腫瘍は良い適応である。一般的には肝機能を配慮し,90%以上の減量切除を行うことができれば,その後,RFA,TACE,抗腫瘍薬,症状緩和療法で遺残腫瘍を制御する。膵NETの抗腫瘍薬にはエベロリムス,スニチニブ,ストレプトゾシンがあり,消化管NETに対してはソマトスタチンアナログとストレプトゾシンが推奨されている。機能性腫瘍の症状緩和においては減量手術,ソマトスタチンアナログを中心に,それぞれのホルモン症状に対する対症療法を行う。近年の薬物療法の進歩に伴い,肝切除適応はますます重要な位置を担うことになることが予想される。
神経内分泌腫瘍(neuroendocrine neoplasm:NEN)は近年増加傾向にあるが[1,2],当科においても2011年以降急増している(図1)。膵原発の場合,発症年齢が50代と若いが,術後5年生存率は60~80%で,肝転移再発率は30~85%と報告されており,大腸癌相当と考えられる。本邦の報告では機能性NENと非機能性のG1/G2では初診時転移症例の割合は13~17%であるが,非機能性NECでは52%と高い。当科288例の経験では,同時性肝転移がある場合の5年生存率は52%であり,予後不良である。ガイドラインでは肝転移の集学的治療の一環として,外科切除,内科的治療,放射線治療のClinical Question(CQ)が紹介されている。本稿では,これらのCQを駆使しどこまで進行NETをコントロールできるのか,そして集学的治療における外科切除の意義について述べたい。

当科GEP-NET初診患者数の推移と紹介元の分布
肝転移の治療を行う上で,診療ガイドラインに記載されてあることを以下に列挙する。アルゴリズム16:局所進行と転移病巣に対する治療,アルゴリズム17:抗腫瘍薬,アルゴリズム18:症状緩和である。ここには「手術が可能であれば手術,非切除であれば抗腫瘍薬,非切除の機能性腫瘍であれば症状緩和療法」という極めて自然な特筆すべきことはないが,NETに特徴的な部分について解説を行う。アルゴリズムにNECに対する記述はない。
① アルゴリズム16:NET肝転移の切除適応で特徴的なのは「90%以上の減量」という記載である。この場合,遺残腫瘍が問題となるが,これらに対してはTACE,RFA,坑腫瘍薬,内分泌症状緩和療法などから適切な手段を選択する。CQ4-9はTACE,RFAについて解説している(グレードC1)。CQ4-10は消化管切除,バイパス,人工肛門,減黄などを含む姑息療法について解説している。
② アルゴリズム17:膵NETに対する抗腫瘍薬として,近年,エベロリムス(グレードB),スニチニブ(グレードB),ストレプトゾシン(グレードC1)が保険適応となった(CQ4-5)。消化管NETG1/G2に対する抗腫瘍薬としてオクトレオチド(グレードB),ストレプトゾシン(グレードC1)が紹介されている(CQ4-7)。
③ アルゴリズム18:内分泌症状は他の癌ではみられないNETの特色である。特に進行症例では,その症状緩和は非常に重要なMissionと言える。概してソマトスタチンアナログが第一選択とCQ4-4に記載されている(グレードA)。インスリノーマの低血糖に対してはジアゾキシド,エベロリムス,ガストリノーマの潰瘍,下痢にはPPI,VIPオーマの下痢,脱水には電解質の補正,グルカゴノーマの遊走性紅斑に対してはアミノ酸・脂肪酸の輸液投与となっている。
【解説】
近年様々な薬物療法が出現したが,腫瘍を根治するには至らない。分子標的療法は無増悪生存期間を延長したが,生命予後を延長しなかった(CQ4-5)。ストレプトゾシンは1990年代初頭の研究で臨床試験のクオリティが保証できない。依然として外科切除は腫瘍をゼロにすることができる唯一の治療法であり,非常にslow glowingで再発しない可能性が高い腫瘍や再発しても切除しやすい腫瘍は良い適応である(図2)。逆に,切除後30日以内に再発する場合や,次々と広範な遠隔転移をきたすような腫瘍は薬物療法の適応である。一番の課題は,個々の症例における全治療過程の中で,いつどのタイミングで手術を計画するかである。仮にある程度効果がある場合でも,数々の有害事象に耐えながら,高額な薬物療法を継続することはしばしば困難であり,しばらく薬物療法を休憩する時間が提供されるなら,たとえ減量手術であっても一定の条件を満たせば施行する意義は高い。まして切除不能の機能性腫瘍は患者のQOLを大きく損なうため,薬物療法に限界があるならやはり一定の条件下で減量手術を試す価値はある。

P-NETの腫瘍局在と進行速度に応じた当科における治療選択のイメージ
アルゴリズムに載っていないが,CQ3-16(膵NET),CQ3-17(GI-NET),CQ3-18(膵NETの再発病巣),CQ3-19(GI-NETの再発病巣)に肝転移の手術適応についての記載がある。基本的には,すべての治療方法の中で推奨されるのは切除であるから(グレードB),制御可能な肝転移であれば減量切除を含む肝切除を行い(グレードC1),条件によって原発切除を行うという内容である。問題は「制御可能性」と「条件」の定義である。
制御可能性の定義については記載がない。条件の定義は,原発巣からの胆道,消化管出血,閉塞,腹痛があり,これを切除で解決できる場合,減量切除を含む切除により予後が見込める場合,肝臓の治療に標的を絞りたい場合,肝予備能が十分な場合,機能性腫瘍で減量切除により症状緩和が見込める場合などとあるが,原発切除の意義については結論が出ていないと解説されている。
【解説】
① 一般に,肝転移のR0手術は7~15%にしか期待できないが[3],腫瘍がほぼ切除できていればR0手術と予後に差が認められなかったという報告もある[4~6]。肝切後の5年生存率は61~81%,ホルモン症候を含む症状の改善率は90~100%と報告されている[4~15]。転移性GEP-NECの肝部分切除後の予後は6~15カ月であるが,手術を含む局所療法で長期生存した症例報告も存在する。
② WHO2010年分類はKi67と核分裂像を用いてG1/G2/NECに腫瘍の悪性度を分類するが,G1でも切除不能な同時性肝転移は日常臨床で散見する。たとえば,サンドスタチンLARの第3相試験は「切除不能のG1症例」が対象症例の95%を占める。逆にTNM分類Stage Ⅳにおける肝切除基準はない。ガイドラインでもこれらを使用した肝切除適応については触れていない。
③ NCCNと日本のガイドラインでは遠隔転移があっても原発と転移巣のR0切除,症例によっては減量切除を推奨している。European Neuroendocrine Tumor Society(ENETS)のガイドラインは,非機能性でR0切除が目指せる場合,腹腔外病変がなくKi67が20%以下でPeptide receptor radionuclide therapy(PRRT)が無効な場合は肝切除を推奨し,転移が両葉あるいは肝の75%以上に進展する場合,肝生検で低分化型と診断された場合は非切除を推奨している[16]。
④ 近年ヨーロッパを中心に肝転移形式が提唱され始め(図3),この形式に基づく治療適応が今後考えられていく可能性はあるが[17,18],この転移形式による分類による治療選択をする際に3つの問題点がある。第一に,modalityによって肝転移の分布の診断が異なる点である。CTで転移が見つからなくてもEOB-MRIで数10個見つかることはある。第二に,予後は原発部位によって異なるため切除可能性が変化する。たとえば直腸NETは膵-NETに比べて予後が良く,腫瘍の成長速度が遅いため,積極的な肝切除が計画可能である。第三に機能性腫瘍の肝外遠隔転移を有する症例の手術適応である。すべての転移巣がホルモンを産生しているわけではないので切除範囲を決める際には,肝SASIテストなどで減量切除の精度を上げる必要がある。

肝転移Type別の治療
薬物療法におけるガイドラインの項目は,CQ4-4(内分泌症状に対する薬物療法),CQ4-5(G1/G2に対するエベロリムス,スニチニブ,ストレプトゾシン),CQ4-6(NECに対する白金製剤ベースの化学療法)の3項目である。
【解説】
① CQ4-4(内分泌症状に対する薬物療法):機能性NETの内分泌症状の緩和にはソマトスタチンアナログなどが推奨されているが(グレードA),ソマトスタチンアナログは微力で十分に症状を緩和できない印象がある。当院はソマトスタチンアナログをこれまで58例に使用したが,単独の使用は少なく他の薬物療法との併用が多い。インスリノーマによる低血糖の治療においては,血小板減少症をきたすジアゾキサイド,高度肥満化をきたすグルコース過剰摂取,ガストリノーマに対しては高用量のPPI,グルカゴノーマによる遊走性壊死性紅斑にアミノ酸と脂肪酸の定期的輸注,カルチノイド症候群の下痢にロペラミドなどの止痢薬,VIPオーマによるWDHA症候群に電解質液の大量の補液が解説されている。ソマトスタチンアナログでWDHA症候群が抑えられないこともあり,分子標的療法や肝SASIテストを用いた局所療法(手術,TACE)を併用することが多い。
② CQ4-5(G1/G2に対して推奨される抗腫瘍薬):G1/G2に対して推奨される抗腫瘍薬にエベロリムス,スニチニブがグレードBで推奨されているが,エベロリムスはWHO2010年分類におけるG1/G2,スニチニブはWHO2004年分類における高分化腫瘍(10 mitoses /10 HPF未満)を対象として第3相試験が組まれた。エベロリムスとスニチニブの第3相試験では,Progression free survivalの延長が示されており,overall survival(OS),PFSにおいて両薬剤の効果に有意差はないという報告もある[19]。エベロリムスはPR10人(5%),SD151人(73%),PD29人(14%),不明17例(8%)であり,腫瘍を縮小させて切除に持ち込むことは難しい印象である。注意すべき副作用は間質性肺炎,感染,血小板減少である。スニチニブの国内第2相試験では最高縮小効果が2~4カ月に現れ,登録12症例中PR6例(50%),SD5例(42%),PD1例(8%)という結果であったが,PRを得るには最低3カ月の治療期間が必要であるといえる[20]。当院では47例にスニチニブを投与し,PR35%,SD53%,PD12%を得た。スニチニブ投与で十分な効果を認めた場合には,投与中止から2週程度で切除やTAEを施行している。副作用はQT延長症候群,高血圧,好中球減少などがあるが,体重増加がみられた場合は,甲状腺機能の測定を行った方が良い。ストレプトゾシン+ドキソルビシンは臨床試験のクオリティに関する懸念が指摘されている。ストレプトゾシンの推奨度はグレードCである。5-FUとドキソルビシン,ストレプトゾシンの併用治療でresponse rateが39~69%を得たという報告や,ダカルバジン,インターフェロン,ソマトスタチンアナログなども一定の抗腫瘍効果が報告されている[21~23]。
③ CQ4-6(NECに対する白金製剤ベースの化学療法):膵NEC(G3)に対して推奨される抗腫瘍薬は小細胞肺癌に準じ白金製剤ベースの併用療法が推奨されている(グレードC1)。NORDIC studyは,消化管NECに対する白金製剤ベースの抗癌剤治療の大規模な後方視的研究である[24]。組織学的に診断がついた305症例は治療レジメンに依存せず,CR/PR31%,SD33%,PD36%が示された。Ki67<55%に対する奏効率はKi67≧55%に比べて15%対42%と明らかに低かった(P<0.001)。この結果を根拠に,NET-G3(Ki-67<50%)とNEC(Ki-67>50%)を区別し,プラチナベースの化学療法の適応を決めるべきという意見がある(表1)。2016年3月までの当院におけるG3は55例中,NET-G3,NEC-G3はそれぞれ42例,13例である。同時性肝転移23例は異時性肝転移あるいは転移なしの32例に比べて有意に予後が悪かった(P=0.001)が,NET-G3群とNEC-G3群の予後は変わらなかった(P=0.525)。プラチナベースの化学療法は予後を延長しなかった(P=0.296)。プラチナベースの化学療法を施行した場合でもNET-G3とNEC-G3に予後の差はなかった。また,切除不能が14例,R0切除が26例,R1切除が3例,R2切除が12例であったが,R0切除群は非切除群に比べて明らかに予後が良好であった(P=0.019)。R0切除施行群でNEC-G3とNET-G3に差は認められなかった。当科の症例をみる限りNET-G3とNEC-G3で切除を含む治療法が変わるかどうかを議論できないが,Ki67>20%であっても少なくともR0切除が出来た症例は予後良好である可能性が示唆されている。

Modified WHO 2010年分類(ASCO2013)
TAEおよびTACEがグレードC1で推奨されている。TAE後の5年生存率は約50%,生存期間の中央値は20~80カ月である。一方,NECのTAE後の生存期間は15カ月で,TACE後の5年生存率は40~80%,生存期間中央値は32~50カ月と報告されている[25~27]。TACEにおいてもNETとNECの生存率に大きな差がない印象がある。当院における成績は原発性肝癌取扱い規約5th editionにおけるTE4(腫瘍壊死効果100%または腫瘍縮小率100%)が17%,TE3が25%であった。平均治療回数は3回(1~9回)であった。
近年,P-NET肝転移に対する新しい薬物療法が開発されており,外科切除の役割は変化していくことが予想される。しかしながら,治療方針を決定するバイオマーカーは未だになく,予後を決定する因子の検討も含め,多面的に研究を進めていく必要がある。