2016 年 33 巻 3 号 p. 139
甲状腺癌の治療ラインは長い間,変化がなかった。分化癌は手術,放射性ヨウ素を用いたアイソトープ治療および甲状腺刺激ホルモン抑制,髄様癌は手術のみ,そして未分化癌は手術,外照射および殺細胞薬による化学療法(これは手術に先駆けて行われることも多い)が通常の治療戦略であり,長年にわたって新しいラインは登場しなかった。しかし最近になってこれらの癌に対し,分子標的薬剤によるがん薬物療法という新たなラインが加わった。現時点で我が国では放射性ヨウ素抵抗性の進行再発分化癌に対するSorafenibおよびLenvatinib,進行再発髄様癌に対するVandetanibおよびLenvatinib,Sorafenib,そして未分化癌に対するLenvatinibが保険収載されている。
しかしここで問題がある。多くの甲状腺外科医は上記のような背景があるため,がん薬物療法に習熟してない。また,その一方でがん薬物療法の専門医(腫瘍内科医)の多くは甲状腺癌のbiologyについて知識が十分とは言えず,投薬そのものはできても,その前にどういう症例にどういうタイミングで使用すべきかについては手探り状態になりがちである。また,甲状腺外科医と腫瘍内科医とは今まで極めて縁が薄く,接点は全くといっていいほどなかった。現在は診療連携プログラムが充実してきており,患者の紹介も比較的スムーズにできるようになっては来ているが,まだまだ甲状腺癌のがん薬物療法を然るべき症例にきちんと行うという根本的な点については改善の余地がある。
今回の特集はその一助となればということで,企画されたものである。外科医の立場からみた分子標的薬剤を用いたがん薬物療法を不肖,私が担当し,それに続いて分化癌,髄様癌,未分化癌における分子標的薬剤による治療のノウハウや注意点をその道の専門家に述べていただいた。この特集が甲状腺癌を扱う臨床諸家にとって,有意義なものとなることを心から願ってやまない。