日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
甲状腺未分化癌の化学療法
神森 眞
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2016 年 33 巻 3 号 p. 166-169

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抄録

甲状腺未分化癌は,極めて悪性度が高く病状の急速な悪化を伴うためその多くは診断後半年以内に不幸な転帰をとることが知られている。標準的な治療法は,未確立であり探索的な集学的治療が行われるも科学的なエビデンスは存在していないが,全身療法が必要であることは明白である。本稿では,わが国の甲状腺未分化癌化学療法の歴史的背景と甲状腺未分化癌コンソーシアムを中心に施行された全国規模の医師主導多施設共同研究「甲状腺未分化癌に対するweekly paclitaxelによる化学療法の容認性,安全性に関する前向き研究」(ATTCJ-PTX-P2,UMIN ID 000008574)の成果と合わせて今後の甲状腺未分化癌の化学療法の位置づけと展望について論じることとする。

はじめに

甲状腺未分化癌は,甲状腺分化癌(乳頭癌と濾胞癌)や低分化癌を先行病変として発症(未分化転化)[]し,発症頻度は低いが極めて悪性度が高く,局所進展,遠隔転移などによる病態の急速な進行によりそのほとんどが診断後半年以内に不幸な転帰を示す。手術,化学療法(chemotherapy),放射線療法,分子標的薬などを用いた集学的治療が行われているが,標準的治療法は確立されておらず,近年まで探索的な治療が担当医ごとに経験と個々の症例の状態に応じて行われてきた[,]。われわれは,2009年に未分化癌コンソーシアム(ATCCJ)を設立し,2012年4月より2015年3月まで医師主導多施設共同研究「甲状腺未分化癌に対するweekly paclitaxelによる化学療法の容認性,安全性に関する前向き研究」(ATTCJ-PTX-P2,UMIN ID 000008574)を施行した。本稿では,ATTCJ-PTX-P2以前の未分化癌に対する化学療法の歴史とATTCJ-PTX-P2の結果および今後の展望について概説する。

化学療法の歴史

1970年代以降,doxorubicine(ADM)とcisplatn(CDDP)を中心に甲状腺未分化癌に化学療法が行われた。Shimaokaらは,1980年にADMとADM+CDDPの比較試験を行った。結果は,2剤併用の方が奏効率は高かったが,いずれも生存率の向上は認められなかった[,]。以後,etoposide, carboplatin, methotrexate, bleomycin, vincristineといった薬が単剤もしくは多剤併用で施行されたが標準化学療法の確立には至らなかった。Ahujaらは,1987年にADMの単剤の奏効率は22.1%でCDDPの上乗せ効果はなかったと報告している[]。

1990年代に入ると我が国では,肺癌治療のレジメンから転用されたEAP療法(etoposide+ADM+CDDP)が未分化癌に対して使用されるようになり,高い奏効率を示すと報告された。しかし,EAP療法は血液毒性が極めて強かったためこのレジメンからADMを除いたEP療法が主流となった。筒井らの報告によるとEAPとEAP療法の奏効率は69.0%であり,未分化癌治療の標準療法の地位を占めるようになった[]。しかし,EPとEAP療法については,国際的報告がほとんど存在せず,本邦以外では認識されていない治療法である。

1990年後半になるとタキサン系といわれる新しい化学療法薬が登場した。タキサン系薬剤は,細胞の微小管のβ-tubulinサブユニットと結合し細胞の安定化を惹起させることで細胞分裂を阻害する。これは,ADMなどのアンスラサイクリン系薬剤が,細胞分裂時のDNAに入り込んで細胞分裂を阻害するのとは大きく作用機序が異なっている[]。タキサン系薬剤には,主にPaclitaxelとDocetaxelの2つが存在している。タキサン系薬剤の特徴は,従来の化学療法薬のように一度により多く投与するのでなく,一回の投与量を減らす代わりに休薬期間を短くし頻回投与が出来る点にある。頻回投与の利点として,副作用を少なくし入院せずに外来で投与が出来るので,甲状腺未分化癌患者にとってもQOL向上に有益であるといえる。

Kawadaらは,Docetaxelの未分化癌に対する奏効率が14%であり[],小野田らは,手術や放射線化学療法後の全身補助療法としてDocetaxelの有用性が示唆されたと報告している[]。未分化癌コンソーシアム(ATTCJ)のretrospective集計結果によれば,タキサン系薬剤では,weekly PTXとweekly Docが比較的多く行われ化学療法施行例で生存期間の長い傾向にあったが,抗癌薬の効果なのか他の因子によるものなのかは判別出来なかった[]。

「甲状腺未分化癌に対するweekly paclitaxelによる化学療法の容認性,安全性に関する前向き研究」(ATTCJ-PTX-P2,UMIN ID 000008574)

2010年にHigashiyamaらは,乳癌のレジメンから転用したWeekly Paclitaxel 80mg/m2の投与法で,対照がhistorical controlではあるが,甲状腺未分化癌に対して完全奏効(CR)1例を含む奏効率33%とstage Ⅳ患者での生存期間の延長を報告した[10]。この方法が,未分化癌に対する唯一生存延長を認めたため,未分化ATTCJではこの結果をもとに全国規模の医師主導多施設共同研究を以下のごとく履行した。

概 要:多施設共同,非ランダム化,オープンラベル,単アーム,第二相試験。

主評価項目:安全性(relative dose intensityと有害事象の発生状況)および有効性(全生存率,治療成功期間,全奏効率,無増悪生存期間)を評価した。

方 法:パクリタキセルを毎週1回,80 mg/m2点滴静注,3週間を1コースとして投与(放射線療法併施の場合30 mg/m2/週に減量),病理組織中央判定とした。

目標症例数:50例(期間中登録継続可)。

試験実施期間:2012年4月~2015年3月(UMIN 000008574)。

結 果

① 14施設71例登録,56例安全性評価可能,42例有効性評価可能であった。

② 1~23(中央値2)コース,2~69回の治療が行われ,1コース完遂率92.9%,3コース目までのDose Intensityは92,85,74%であった。

③ 全Gradeの有害事象は98.2%,Grade3以上は28.6%に発現した。詳細として,好中球減少(10.7%),白血球減少(8.9%),呼吸困難(7.1%),貧血(5.4%),肝機能障害,発熱,粘膜炎,末梢神経障害,皮疹,A-V block(1.8%)であった。

④ 全生存期間(OS:overall survival):中央値201(9~844)日,治療成功期間:50(9~727)日,無増悪生存期間:48.5(13~488)日であった。

⑤ 全奏効率23.1%(CR 0%,PR 23%,SD 56%,PD 21%)であった。

観察期間終了時点の生存状況は,生存11名(無病6名,担癌5名),死亡44名(原病死43名,他病死1名),不明1名であった。

全登録患者71名中病理組織中央管理にて56名が残り,安全性・認容性の解析は56例で,抗腫瘍効果は標的病変を有する42例で解析行われた。除外された15例の内訳は,4例が乳頭癌,1例が扁平上皮癌,4例がその他,5例が判定不能であった(表1)。1998年から2011年まで未分化癌コンソーシアムに登録された1,037例の6カ月,12カ月生存率は,38.9%,18.9%であったが,本研究では53.6%,26.8%と有意に増加していた。抗腫瘍効果判定では,CR 0例(0%),PR 9例(23.1%),SD 22例(56.4%),PD 8例(20.5%)で31例(79.5%)に臨床的利益がもたらされていた(表2)。Stage別生存曲線では,Stage ⅣAの患者は,Stage ⅣBの患者と比較して予後に有意な差はなかったが,Stage ⅣCの患者は,Stage ⅣA,Bの患者と比較して有意に予後不良であった。全奏効率23.1%であり,抗腫瘍効果は約80%に認められた。術前化学療法が行われ手術による切除が可能であった症例に長期生存例が存在した。よって,本研究により,weekly paclitaxelの高い安全性と客観的効果を確認し甲状腺未分化癌に対する標準的化学療法に位置づけ出来たと考えられた[1112]。

表1.

登録71症例の臨床病理学的所見(実施報告書より引用)

表2.

抗腫瘍効果判定(実施報告書より引用)

考 察

「甲状腺未分化癌に対するweekly paclitaxelによる化学療法の容認性,安全性に関する前向き研究」により,weekly paclitaxel治療の高い安全性と客観的効果を確認し未分化癌に対する標準的化学療法としての位置づけが確立されたが,CR例は1例も存在せずまだまだ不十分な部分も存在している。2015年5月より分子標的薬とじてレンバチニブが使用出来るようになり,劇的な効果が報告される一方で,抗腫瘍効果に伴う急激な腫瘍縮小による出血死なども散見される。また,「甲状腺未分化癌に対するレンバチニブの有効性および安全性に関する第2相試験」(HOPE試験)が2016年1月より開始され,未分化癌の新しい治療法が模索されている。化学療法薬と分子標的薬の比較については別稿にゆだねるが,いずれの治療も未完成でやっと未分化癌を攻略する突破口にたどり着いた所である。しかし,ATTCJ-PTX-P2の評価されるべき部分は,日本で初めて施行された未分化癌に対する全国規模の医師主導多施設共同研究であり標準化治療の糸口を見出した点である。全奏効率23.1%で,効果がある症例とない症例が明らかなのが弱点であるといえる。しかし,術前化学療法が行われ手術による切除が可能であった症例に長期生存例が存在していることから,Stage ⅣBでdown stagingが期待され手術が出来る可能性がある症例にはまず試みてよい治療であろう。

おわりに

甲状腺未分化癌のコントロールには,集学的治療が重要である。多施設連携によるHOPE試験などの臨床試験や基礎的臨床的研究を継続することが未分化癌攻略には極めて重要である。

【文 献】
 

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