日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
原著
甲状腺乳頭癌における外側区域リンパ節転移に対する至適郭清範囲の検討
下出 祐造辻 裕之
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2016 年 33 巻 3 号 p. 174-179

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抄録

甲状腺乳頭癌は一般に悪性度は低いが高率にリンパ節転移を認める。頸部中央区域の郭清は推奨されているが,外側区域の郭清は適応やD2aとD2bの選択,予防的郭清の要否などにおいて明確な指針に乏しいのが現状である。われわれは甲状腺乳頭癌における外側区域リンパ節転移の局在部位を頻度別に3群に区分けし評価したところ,転移局在部位別にリンパ節がⅤbやⅦに転移した群はⅤa,Ⅵにとどまる群に比べ転移リンパ節の最大径が大きく個数が多くなり,逆に原発巣のサイズは小さくなる傾向が示された。そこで転移リンパ節最大径/原発巣最大径(N/T比)を算出したところ同じく増大する傾向が示され,ROC曲線よりⅤa,Ⅵにとどまる群のCut Off値は約0.5でそれより低値であれば外側区域リンパ節転移の範囲が有意に狭く,逆にⅦに転移した群は約1.3でそれよりも高値では範囲が広くなる傾向を認めた。以上よりN/T比は外側区域リンパ節転移に対する至適郭清範囲の選択おいて参考となる可能性が示された。

はじめに

甲状腺癌のなかでも多くを占める乳頭癌や濾胞癌などの分化癌は一般に悪性度が低く生命予後は良好であるが稀に他臓器への転移をきたす。一方,頻度は少ないものの低分化癌の一部や未分化癌は予後が非常に悪く単一臓器由来の癌種としては悪性度の差が大きいことが特徴である。2010年に本邦でも甲状腺腫瘍診療ガイドラインが出版されこれらの癌腫や病期,危険度に応じエビデンスに基づいた治療方針が推奨されている[]。

甲状腺乳頭癌は高率にリンパ節転移を認めるためリンパ節郭清術も重要な問題であり,現在頸部中央区域の郭清については推奨されているものの,外側区域の郭清は適応やD2aとD2bの選択,予防的郭清の要否などにおいて明確な指針に乏しいのが現状である。

今回,甲状腺乳頭癌における外側区域リンパ節転移の局在部位を頻度別に3群に区分けし,各群における外側区域転移リンパ節の最大径と転移個数の傾向を示した。さらに転移局在部位別に原発巣の最大径との比較を行い,外側区域郭清術式の選択における有用性について検討を行った。

対象および方法

当科にて2008年から2014年までに初回治療で甲状腺葉峡切除または全摘および患側の外側区域リンパ節転移に対してD2b郭清術を施行した甲状腺乳頭癌29例を対象とした。外側区域リンパ節転移の局在部位を頻度別に3群に分類し,各転移リンパ節の最大径,個数,原発サイズについて検討した。統計学的検討は2群間をMann-Whitney U検定,相関関係をSpearman順位相関係数の検定で行った。なお当科では患側のみ外側区域リンパ節転移を認める症例に対し全例にD2aではなくD2bによる治療的郭清を行っており(図1)予防的郭清は行っていない。転移リンパ節の局在部位の名称は,日本甲状腺外科学会取扱い規約に従い[],転移リンパ節の局在部位は術前の段階で詳細に超音波[]やMRIで評価し,腫大したものだけでなく2,3mm程度のリンパ節までを対象とし病理学的検索を行った。なお今回は両側の外側区域に転移を認めD3郭清を施行した症例は対象から除外した。

図1.

当科におけるD2b郭清(左側)の実際

結 果

1.転移リンパ節の局在の頻度と局在部位パターンについて(図2, 3

29例中,Ⅱ~Ⅳ(頸部中央区域)にリンパ節転移を認めた症例は24例(82.7%),さらに外側区域ではⅤaで27例(93.1%),Ⅵで25例(86.2%)に引き続きⅤbで20例(69.0%),Ⅶで6例(20.7%)の順に転移を認めた。外側区域へのリンパ節転移を認めた群を局在パターンで示すと,最も外側のⅦに転移した群は6例中5例にⅤbに転移を認めた。Ⅴbに転移を認めた群は全例でⅤaとⅥのいずれかに転移を認めた。そのため今回の検討対象群を局在分類して①:Ⅴa,Ⅵのいずれかに転移を認め,ⅤbやⅦに転移を認めない群,②:Ⅴbに転移を認めⅦに転移を認めない群,③:Ⅶまで転移を認めた群の3パターンに分けて検討を行った。

図2.

頸部転移リンパ節の局在の照合と頻度

図3.

外側区域リンパ節転移の局在パターン

2.外側区域転移リンパ節の局在部位パターンにおける年齢と性別について

局在分類の各群における男性比率(男性人数:女性人数)は順に①群は37.5%(3人:5人),②群は33.3%(5人:10人),③群は33.3%(2人:4人)であった。年齢は,①群は19~75歳で中央値52歳,②群は13~76歳で中央値54歳,③群は12~80歳で中央値55歳であり各グループ間に有意差は認めなかった。

3.外側区域転移リンパ節の局在部位パターンにおける転移リンパ節最大径について(図4

局在分類の各群における転移リンパ節最大径は①群は7~40mm,中央値10.5mm,②群は6~33mm,中央値19.0mm,③群は10~50mm,中央値26.0mmであった。各群間はSpearman順位相関係数でr=0.318(p=0.092)で弱い正の相関関係を示した。つまり転移リンパ節がⅤbやⅦに転移した群はⅤa,Ⅵにとどまる症例群に比べ転移リンパ節最大径が大きくなる傾向が示された。

図4.

転移リンパ節の局在パターンとリンパ節最大径,個数および原発巣最大径の関係

4.外側区域転移リンパ節の局在部位パターンにおける転移リンパ節の個数について(図4

局在分類の各群における転移リンパ節個数は①群は1~16個,中央値5.6個,②群は4~20個,中央値10.0個,③群は6~18個,中央値13.0個であった。各群にはSpearman順位相関係数でr=0.436(p=0.018)で正の相関関係を示した。つまり転移リンパ節がⅤbやⅦに転移した群はⅤa,Ⅵにとどまる症例群に比べ転移リンパ節の個数が多くなる傾向が示された。

5.外側区域転移リンパ節の局在部位パターンにおける原発巣最大径について(図4

局在分類の各群における原発巣の最大径は①群は8~70mm,中央値25.0mm,②群は4~62mm,中央値15.0mm,③群は1~23mm,中央値15.0mmであった。各群間にはSpearman順位相関係数でr=-0.293(p=0.122)で弱い負の相関関係を示した。つまり転移リンパ節がⅤbやⅦに転移した群はⅤa,Ⅵにとどまる症例群に比べ原発巣のサイズが小さくなる傾向が示された。

6.外側区域転移リンパ節の局在部位パターンにおける転移リンパ節最大径/原発巣最大径(N/T比)について(図5, 6

リンパ節転移の範囲が①群から③群と広がるに従い,転移リンパ節の最大径は大きく,また原発巣の最大径は小さくなる傾向が示された。そこで前者を後者で除算,つまり転移リンパ節最大径/原発巣最大径(N/T比)を算出した。なお原発巣1mmのオカルト癌に対してはN/T比が著しく大きくなるため上限を10として評価した。その結果①群は0.14~4.75,中央値0.44,②群は0.38~7.50,中央値0.96,③群は0.66~10.00,中央値1.73で,各群間にはSpearman順位相関係数でr=0.453(p=0.014)で正の相関関係を示し,転移リンパ節並びに原発巣単独群の検討に比べ相関係数は上昇した。さらにROC検討を行うと①-②③のN/T比は0.52(感度81.0%,特異度75.0%,p=0.028),③-①②のN/T比は1.36(感度73.9%,特異度66.7%,p=0.101)であった。

図5.

転移リンパ節の局在パターンとリンパ節最大径/原発巣最大径(N/T比)の関係およびN/T比の意義

図6.

転移リンパ節の局在パターンとN/T比のROC曲線およびN/T比から予想される外側区域リンパ節の至適郭清範囲

考 察

甲状腺分化癌の頸部郭清術には解決すべき多くの課題がある。頸部中央区域は転移率が高く,再発時の手術侵襲により反回神経の温存が困難となる。そのため甲状腺摘出と同一術野での手術が可能な頸部中央区域は予防的郭清がガイドラインで推奨されている[]。一側の外側区域頸部郭清は「D2a:Ⅰ~Ⅵ,D2b:Ⅰ~Ⅷ」と分類される。いわゆる内深頸郭清の有用性についてはガイドラインで記載されているもののその郭清範囲はD2aに相当する範囲でありⅦの外深頸領域を含めたD2bの有用性については言及されていない。さらにD2aにおけるⅤbの扱いについても明記されておらず,D2aとD2b両者の明確な適応基準は現在存在しない。さらに外側区域リンパ節転移の対応を難しくしている要因として,顕在化せず生命予後に影響しない潜在的リンパ節転移の問題がある。初回に未郭清の外側区域リンパ節後発転移症例に対しては,剝離に難渋することはないが[],郭清後のリンパ節後発転移は難易度の高い再手術であり合併症頻度が増える可能性がある[]。再発を繰り返すことで分化度が低くなっていく症例がごく一部であるが存在する[]ことも注意が必要がある。そのため外側区域リンパ節転移症例に対して適格にD2aとD2b郭清のいずれを選択するかが重要である[]。実際には外側区域におけるリンパ節郭清術については各施設の判断にゆだねられているのが現状である。非触知かつ画像で腫大が認められない症例に対する予防的郭清は原発巣が大きい症例や明らかにEx2の症例に限って行っている報告[10]もあるが,統一した見解はない[]。そのため甲状腺分化癌の外側区域の頸部郭清術はN(-)で予防郭清は施行せず,N(+)で治療的郭清を標準術式と考えている施設が多いと思われる。われわれも同様であるが,特に当科の方針としてはリンパ節郭清領域辺縁のリンパ節後発転移は再手術が困難になるために初回に根治性の高い郭清を目的に外側区域のN(+)は原則として頭頸部外科領域で行われているModified Neck Dissection(D2bに相当)を施行している。今回の検討では甲状腺乳頭癌の外側区域リンパ節転移症例に対する至適郭清範囲の検討を目的に転移リンパ節の局在部位パターン別に,リンパ節最大径,個数との関係について検討した。その結果,外側リンパ節転移を認める症例のうち①(ⅤaまたはⅥに転移しⅤbやⅦに転移を認めない群),②(Ⅴbに転移しⅦに転移をしない群),③(Ⅶに転移を認めた群)の順で転移リンパ節最大径は大きく,かつ転移個数が多い傾向が示された。逆に原発巣長径は①から③にかけて小さくなる傾向が認められた。そこで転移リンパ節最大径/原発巣最大径(N/T比)を評価した結果,同じく増大する傾向が示され,ROC曲線より外側区域リンパ節転移頻度のCut Off値は①-②③では約0.5でそれより低値であれば外側区域リンパ節転移の範囲が有意に狭くなり,③-①②では約1.3でそれよりも高値では広範囲にリンパ節転移を認める傾向がみられた。

今回提唱したN/T比は術前における原発巣と転移リンパ節の最大径の比較である。本来原発巣が形成されてからリンパ節転移をきたす経過を踏むことが一般的であり,頭頸部扁平上皮癌も同様で原発巣は転移リンパ節よりも大きいことが多い。しかし乳頭癌では転移リンパ節局在が外側に認めるほど原発巣が負および転移リンパ節のサイズは正の傾向があり,そして両者の最大径を比較したN/T比も有意な正の相関を示した。これは広範囲にリンパ節転移をきたす乳頭癌特有の性質の一端を示唆している可能性がある(図5)。従ってこのN/T比が高値であれば広範囲なリンパ節転移の傾向があるためにD2b郭清を,逆に低値であればD2a郭清と,至適郭清範囲の選択において参考になる可能性がある(図6)。

近年American Thyroid Association(ATA)がガイドラインを改訂しVer.5が発表された[11]。このなかで再発頻度を術後病理所見や分子生物学的(BRAFやTERT)所見をもとにリスク分類している。この評価22項目のうち実に7項は転移リンパ節のサイズや数に関するものであり,長径が大きい症例や個数の多い症例で再発が多いことが示されている。当科の検討でも同様の結果であり,おそらくATAの再発リスク分類におけるリンパ節関連群の項目については,頸部リンパ節後発転移が再発形式として多いものと考えられる。山田らも転移リンパ節の長径が大きく,転移リンパ節の総数が多い場合は,頸部再発の可能性を十分に考慮しながら術後経過観察が必要としている[12]が,D2a,bの術式の選択までは言及していない。

これまでD2aとD2b郭清の範囲について詳細な検討がなされていない要因として,各領域の境界がわかりにくくリンパ節局在部位の統一した評価が困難であることや施設ごとの郭清技術概念の相違などが挙がると思われる。そのため術前の段階で転移リンパ節の正確な局在部位の評価に加えて郭清内の再発や合併症を最小限にする頸部郭清手技の均てん化が重要である。国際的にもATAver.5の再発リスク分類を検証しさらに踏み込んだ検討が行われることが予想されるなかで,リンパ節後発転移を回避するためにも至適郭清範囲およびその手技を含め術式に言及していくことは極めて重要であると思われる。

おわりに

本研究は単一施設における後向き研究であり,今回の研究結果だけで指標とするのは不十分である。術前の転移リンパ節局在評価の統一化と郭清手技の均てん化の取り組みを行い,多施設で症例数を増やして前向き研究で検証する必要がある。さらに今回の分類群に対してN/T比だけでなく乳頭癌の病理組織学的相違をはじめ浸潤,転移に関する分子生物学的評価も行うことが必要である。甲状腺癌治療には多数の科が関わっており,質の高い治療に取り組むためにも各領域の技術を導入することが肝要である。

謝 辞

本論文の要旨の一部を第45回日本甲状腺外科学会学術集会(平成24年10月横浜),第47回日本甲状腺外科学会学術集会(平成26年10月福岡)ならびに第48回日本甲状腺外科学会学術集会(平成27年10月東京)で発表しました。第45回学会ではポスター優秀賞を受賞いたしました。本検討において貴重なご意見,ご指導を賜りました多くの先生方に深謝いたします。またご協力をいただきました当教室並びに耳鼻咽喉科学教室各位に謝意を表します。

利益相反の開示

開示すべき利益相反はない。

【文 献】
 

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