日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
特集2
「特集2.甲状腺手術後の音声改善外科」によせて
猪原 秀典
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2016 年 33 巻 4 号 p. 223

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抄録

甲状腺手術後に生じる反回神経麻痺は嗄声や誤嚥,呼吸困難などの原因となり著しいQOLの低下をきたす。こうした症状を低減することは,予後良好な甲状腺疾患においては極めて重要であり,その対応策をわれわれ甲状腺外科医は熟知しておかなくてはならない。呼吸困難の原因となる両側性麻痺については,迅速な対応が求められるため放置されることはない。一方,嗄声や誤嚥の原因となる一側性麻痺については,重篤な誤嚥性肺炎をきたさなければ生命の危機に直結しないため,患者のQOLを大きく損ねるにもかかわらず放置されていることを臨床の現場でしばしば経験する。そこで本特集は,こうした不幸な患者を一人でも減らすために,一側性麻痺に特化しその症状を低減する手術手技を紹介し,甲状腺外科医への啓蒙を図ることを目的として企画した。

先ず大阪大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科の小川 真先生に,反回神経麻痺による嗄声の機序を含め,甲状腺術後合併症としての反回神経麻痺について総論的に概説して頂いた。次いで各論として,種々の音声改善手術をそれぞれエキスパートの先生に解説して頂いた。甲状軟骨形成術Ⅰ型については久留米大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科の梅野博仁先生に,披裂軟骨内転術と外来声帯内注入術については新宿ボイスクリニックの渡嘉敷亮二先生に,声帯内自家脂肪注入術についてはJCHO大阪病院耳鼻咽喉科・大阪ボイスセンターの望月隆一先生に,神経筋弁移植術については熊本大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科の讃岐徹治先生に,そして即時反回神経再建術については隈病院頭頸部外科の笹井久徳先生にお願いした。

甲状腺手術の術中に反回神経を犠牲にした際に行う即時反回神経再建術は,外科をルーツとする甲状腺外科医には既に一定の浸透があると思われる。一方,反回神経を犠牲にした場合のみならず,反回神経を温存しても不幸にして麻痺が生じた場合に二期的に行う音声改善手術である甲状軟骨形成術Ⅰ型,披裂軟骨内転術,声帯内注入術については,耳鼻咽喉科・頭頸部外科をルーツとする甲状腺外科医には馴染深い手技であるが,外科をルーツとする甲状腺外科医には喉頭を直接扱う手技であることから未だ十分に認識されていないと思われる。また,神経筋弁移植術は耳鼻咽喉科・頭頸部外科をルーツとする甲状腺外科医へも広く浸透するのはこれからであるが,今後の発展が大いに期待される手技である。

神経モニタリングを活用するなどして,何よりも反回神経麻痺自体を生じないように努めることが最も重要であることは論を待たない。しかし,反回神経麻痺が生じた際には,徒に放置せず適切な対応を図るよう努めることも甲状腺外科医としての責務である。そのためにも,甲状腺外科医は二期的な音声改善手術に対する理解を深め,その手術を担当する耳鼻咽喉科・頭頸部外科医とのネットワークを構築し,甲状腺術後のQOLの低下を最小に止めることが重要である。本特集がその一助となれば幸いである。

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