日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
腎性副甲状腺機能亢進症の術前局在診断の実際
一森 敏弘岡田 学平光 高久冨永 芳博
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2017 年 34 巻 3 号 p. 187-190

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抄録

腎性副甲状腺機能亢進症の副甲状腺の局在診断のためには,第3咽頭囊から下副甲状腺が,第4咽頭囊からは上副甲状腺が発生し,下腺は移動距離が上腺より大きいため,存在する部位も広範となるということを理解しておく必要がある。術前画像診断の検査としては,US,CT,MRI,MIBIがある。現在われわれは,頸部PTxでは,US,MIBI SPECT/CTを,前腕移植腺再発手術では,US,MRIを採用しているが,さらに検討は必要である。4腺確認できたとしても満足することなく,常に過剰腺はないかと疑ってPTxに臨むことは重要である。また,小さな副甲状腺を画像で検出することが困難な現時点では,胸腺舌部を可及的に切除し,頸部残存腺による再発をできるだけ少なくする努力が肝要であると考えている。

はじめに

腎性副甲状腺機能亢進症(renal hyperparathyroidism,RHPT)に対する副甲状腺摘出術(Parathyroidectomy,PTx)は,原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism,PHPT)におけるPTxより難しい手術になっている。理由として,MEN1やMEN2Aといった遺伝性のPHPTを除けば,通常のPHPTに対してはFocused PTxが施行されるが,RHPTでは4腺以上あるすべての副甲状腺を摘出しなければならないことが挙げられる。

副甲状腺の存在部位を知るためには,副甲状腺の発生を理解する必要がある。副甲状腺は胎生5から12週の間に第3,第4咽頭囊より発生する。第3咽頭囊から下副甲状腺が,第4咽頭囊からは上副甲状腺が発生する。下腺は胸腺とともに下降するため,胸腺内に存在することも多い。また,胸腺と離れる位置によっては下降不全(undescended)となることもある。このように下腺は移動距離が上腺より大きいため,存在する部位も広範となる。

RHPTにおいて,すべての腺が腫大していれば術前の画像診断で簡単に4腺が同定されることが多いが,小さな過剰腺がある場合や,腫大していないもしくは腫大が軽度の副甲状腺が存在する場合は同定することが難しい。

どの画像診断を組み合わせるのが,効率よく,被爆などの侵襲も少なく,局在診断に適しているかについて考察をしたい。

局在診断のための術前画像検査

現在わが国で行われている各画像診断の特徴について述べる。

US(ultrasonography)

非侵襲的で簡便に施行できるため,術前に施行しないという選択は考えられない。以前と比較し,解像度が高くなり,カラードップラーも併用することで,甲状腺腫瘍などの鑑別も可能となった。甲状腺内の腫瘍の描出はCTより明らかに詳細な情報が得られる。甲状腺内に副甲状腺が存在する可能性を術前に知っておくことは,術中副甲状腺が見つけられないときに,甲状腺部分切除を追加する判断材料となる。しかし,副甲状腺と区別が困難な甲状腺周囲のリンパ節を有する症例なども存在する。また,他の画像と比較して客観性に劣り,検査する側の要因によっても検出率は上下するという欠点もある。なお,執刀医が術前に行うUSは,甲状腺の形態や副甲状腺の位置関係を把握するには有用で,小切開手術における術前マーキングには欠かせない検査である。

CT(computed tomography)

CTは,USでは死角となる気管や食道の周囲・背側および縦隔内の副甲状腺を描出が可能である。特に胸腺内の腫大した副甲状腺は,“夜空に月”のように同定が容易であることも多い。また,CTは,非反回下喉頭神経を予測するための腕頭動脈の有無の確認がUSより確実にできる。CTは単純のみか造影も追加するかというクリニカルクエスチョンもある。得られる情報は多いほど良いので,造影CTを追加した方が検出される副甲状腺は増える可能性はあると思われるが,造影剤アレルギーが出現するとやっかいであり,何より被爆量が増えるので,われわれの施設では現時点では行っていない。しかし,悪性が疑われるような甲状腺腫瘍の合併などがあれば,造影CTは,腎機能を配慮する必要のない症例における術前検査などでは是非追加しておきたい検査である。

MRI(Magnetic resonance imaging)

副甲状腺は原則的にT1 low intensity,T2 high intensityを示し,T1WIでは甲状腺や筋肉と同程度の信号として,T2WIでは脂肪組織と同等か,やや高信号として描出される[]。整形外科などのMRI検査で偶発的に腫大した副甲状腺や甲状腺腫瘤が発見されることはしばしば経験される。しかし,頸部副甲状腺の局在診断としては,MRIが他の検査に勝る点は少ない。現在,われわれの施設では,移植腺の再発診断にのみ使用している。

MIBI(99mTc-methoxy isobutyl isonitrile scintigraphy)

正常な副甲状腺は描出されない。ミトコンドリアの少ない主細胞主体の過形成では検出率は低い[]とされ,小さな副甲状腺は検出することはできない。PHPTにおける腫大した腺腫を検出するには優れた方法である。RHPTにおいては下降不全の腺や縦隔内の腺といった異所性の大きな副甲状腺には有用である。最近はMIBIを用いたSPECT(single photon emission CT)あるいはSPECT/CT検査が用いられるようになってきている。

以上の局在診断のための画像診断について記載したが,実際の現場では,MIBI以外は,併存疾患など周囲の情報も得ながら局在診断の画像診断を行うこととなる。

名古屋第二赤十字病院におけるPTx

われわれのRHPTに対する術式は,副甲状腺全摘出後前腕筋肉内自家移植術である[]。自家移植しなければ移植腺の再発はないのでよいのではないかという意見もあるが,骨リモデリングを考慮し,自家移植を行うこととしている。画像検査の特徴を理解した上で,検査による侵襲(被爆)や医療経済を考えると,すべての検査をする必要はない。当院での副甲状腺の局在診断は,現在のところ,USに加えて,MIBIを用いたSPECTとCTを融合させたMIBI SPECT/CTを行っている。さらに,甲状腺癌や副甲状腺癌など疑われる所見があれば,可能なら造影CTも施行するようにしている。

いずれの検査においても,小さな腺やあたかも甲状腺のように甲状腺と密に接していたり,大部分が埋没して存在するような副甲状腺(色調も一見甲状腺と区別がつかないこともあり,われわれはカメレオンパラと呼んでいる)は手術をしないとわからないし,術中同定に難渋することもある。このこともPTxを奥深い手術にしている。

また,シナカルセトが登場したことにより,副甲状腺周囲の癒着で手術が難しくなったといわれるが,以前から大きな腺は反回神経や甲状腺と癒着して手術が難しいこともあったので,それほど剝離が難しくなった印象はない。しかしながら,シナカルセトがビタミンD療法にさらに追加されることにより,PTxが先送りされ,結節性過形成の大きな腺はより大きくなり,一方びまん性過形成や正常腺に近い小さい腺はより小さくなることが手術を難しくしていると考えている。

当院における昨年(2016年1月~12月)の各画像の検出腺数と実際摘出された腺数を表1に示した。症例は,RHPT,三次性副甲状腺機能亢進症,MENにおける初回手術で,かつUS,CT,MIBIすべての検査を当院で施行した症例のみを抽出した。画像診断の検出腺数はPTxが多い当院においても少ない。当院でのUSは検査技師により施行されている。表1に示した検出腺数は放射線科医による画像の読影結果である。通常すべての副甲状腺を術前に同定することは難しい。RHPTにおいては両側頸部の検索を受けるため,術前の局在診断における画像診断は不要という意見もある[]。しかし,術前の状態を把握しておくことは重要であるし,手術部位に甲状腺腫瘍などの併存する疾患はないか,副甲状腺癌を疑う所見はないかなどを確認しておく必要もあり,局在診断に限らず画像診断は必須である。

表1.

術前画像診断検出副甲状腺数と摘出副甲状腺数(2016年1月~12月)

PTxが多い名古屋第二赤十字病院でも,術前の読影で指摘される副甲状腺は少ない。症例2,6,31は三次性副甲状腺機能亢進症(THPT),症例10はMEN1である。

図1に,術前iPTH 3,805pg/mL,cCa 9.9mg/dL,Pi5.5mg/dL,ALP 4,520U/L,オステオカルシン 3,200ng/mLと進行したRHPTに対して2017年PTxを施行した症例の摘出標本を示す。術前画像診断では,USで4腺,CTで3腺,MIBI SPECTで2腺が指摘されていたが,実際に摘出されたのは8腺であった。本例では,左右上腺,左下腺以外は胸腺舌部内に存在していた。このように小さな過剰腺を術前に指摘するのは困難であり,胸腺舌部に過剰腺が存在することが多いため,われわれはPTx時に胸腺舌部を可及的に切除しておくことを推奨している。

図1.

副甲状腺摘出標本

右下の3腺と左下の2腺は胸腺舌部内に存在していた。

おわりに

画像診断で4腺確認できたとしても満足することなく,常に過剰腺はないかと疑ってPTxに臨むことが重要である。現在われわれは,頸部PTxでは,US,MIBI SPECT/CTを,前腕移植腺再発手術では,US,MRIを採用しているが,さらに検討は必要である。

また,小さな副甲状腺を画像で検出することが困難な現時点では,胸腺舌部を可及的に切除し,頸部残存腺による再発手術を要するPTxをできるだけ少なくする努力をすることが肝要であると考えている。

【文 献】
  • 1.   鈴木 眞一:副甲状腺CT・MRI検査.内分泌外赤の要点と盲点第2版 幕内雅敏監修 小原孝男編集,文光堂,東京,2007,p221-223.
  • 2.   日下部 きよ子, 大島 統男, 高見  博他:過機能性副甲状腺結節の検出における99mTc-MIBIシンチグラフィの臨床的有用性―第Ⅲ相多施設臨床試験報告―.核医 35:887-899,1998
  • 3.   Tominaga  Y: Treatment for SHPT. Surgery for Hyperparathyroidism - Focusing on Secondary Hyperparathyroidism -, Tokyo Igakusha, Tokyo, 2017, p37-50.
  • 4.   Åkerström  G,  Stålberg  P: Surgecal Management of Multiglandular Parathyroid Disease. Surgery of the Thyroid and Parathyroid Glands second edition Randolph GW, ELSEVIER Saunders, USA, 2013, p620-638.
 

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