日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Print ISSN : 2186-9545
特集1
検診と微小癌:疫学の立場から
祖父江 友孝
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2018 年 35 巻 2 号 p. 104-106

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抄録

USPSTFは,2017年の更新で,超音波および触診による甲状腺がん検診について,不利益が利益を上回る(推奨D)ため,無症状の成人については実施すべきでないと判断した。ただし,これは過剰診断についての実証的証拠に基づいた判断ではない。過剰診断の定量評価については,さらに検討が必要である。

はじめに

がん検診の目的は,がんを早期に発見することにより,治療効果を向上し,当該がんによる死亡を減少することにある。がん検診をがん対策として実施する場合,検査がもたらす利益と不利益を実証的に評価し,利益が不利益を上回ると判断できる場合に限り,がん検診として推奨する,という考え方が定着してきている。ここで,検査がもたらす利益とは,主として当該がん死亡減少を意味するが,不利益は,偽陽性,過剰診断,合併症など複数の異なった要素から構成される。検診ガイドラインでは,利益不利益バランスを科学的証拠に基づいて評価し,推奨グレードを決定する。我が国においては,成人のがんについて,胃,大腸,肺,乳房,子宮頸,前立腺に関しては厚労省研究班(国立がん研究センター)が検診ガイドライン作成してきているが,甲状腺については作成していない。

US Preventive Services Task Force(USPSTF)甲状腺がん検診ガイドラインの推奨更新(2018年5月)

1)USPSTFの仕組み

USPSTFは,アメリカにおいてがん検診ガイドラインを作成する公的機関である。アメリカ連邦政府のDepartment of Health and Human Services(DHHS)に属するAgency for Health Research and Quality(AHRQ)に事務局を置く組織であるが,ガイドラインの推奨を決定する委員会は外部委員から構成されており,多くがプライマリケアにかかわる医師である。治療以外の予防医学に関するガイドラインを作成している。テーマごとにEvidence Practice Centerが作成するEvidence Reportに基づいて,利益不利益バランスの観点から推奨レベル(A・B:利益が不利益を上回る,C:利益と不利益が近接している,D:不利益が利益を上回る,I:証拠不十分)を決定している。

2)更新された推奨の判断理由

2017年5月に,甲状腺がん検診についてのガイドラインが更新された[]。1996年に一度作成されてはいたが,情報が古いため,長らく参照すべきでないとされていた。更新された推奨の内容は,平均的なリスクを有する無症状の成人に対する甲状腺検査の推奨レベルはD,すなわち,不利益が利益を上回るため,実施しないことを勧める,というものであった。その判断理由としては,検診の利益については,あっても小さい(その根拠としては以下。罹患がまれである。治療をせずに観察した甲状腺患者と治療をした患者で,予後が変わらない。検診を導入した集団で死亡率が変わらない。)。検診の不利益については,少なくとも中等度存在する(その根拠としては以下。治療後の有害事象に関する適切な証拠がある。集団ベースの検診において,過剰診断,過剰治療の間接的な証拠がある可能性がある。)。この結果,無症状の成人に対する甲状腺がん検診は,不利益が利益を上回ることを中等度の信頼性をもって判断する,とし,推奨レベルをDとした。

3)Evidence reportの詳細[2,3

推奨判断の根拠となったEvidence reportは,Kaiser Permanente Center for Health ResearchのEvidence-based Practice Centerによって作成された。設定されたKey Questionは,1.有効性(Effectiveness),2.診断精度(Diagnostic Accuracy),3.検診の有害性(Screening Harms),4.治療による利益(Treatment Benefit),5.治療の有害性(Treatment Harms)の5つであり,それぞれのまとめは,表1に示すとおりである。利益については,甲状腺がん死亡減少効果を評価した研究はなかった。不利益については,主として,治療の有害性に関する研究が合計52件あり,手術による副甲状腺機能低下症および反回神経麻痺,放射性ヨウ素治療による2次がん発生と口腔乾燥についての頻度の記述があった。研究の質についてはfair to poorからfair,適用度についてはpoorからfairという判定であった。不利益として,過剰診断に関する研究は採用されず,韓国女性の罹患率年次推移に関する研究は,研究デザインの点から不採用となっている。

表1.

Key Question別に見た証拠のまとめ

4)その後の反応

JNCI(2017年7月号)のニュースでは[],USPSTFの推奨更新が取り扱われている。利用可能な証拠を評価したところ,不利益が利益を上回ると判断されたことが紹介された上で,甲状腺患者団体からは超音波ではなく触診が重要と考える点,専門家からは高リスク者が推奨を誤解する危険性,進行甲状腺がん罹患率が若干増加しているかもしれないという懸念,過剰治療を回避するための方法の開発の重要性,などが指摘されている。

加えて,JNCI(2017年9月号)のニュースでは[],集団検診は大きな市場であり,多くの人は対象となる疾患に罹患しないのに,受診者全員が偽陽性,過剰診断,不必要な治療のリスクにさらされる,と紹介された上で,Affordable Care Actのもとでは,USPSTFが推奨したがん検診は,健康保険がフルカバーしなければならなくなったので,USPSTFの社会的影響力が大きくなりすぎている危険性が指摘されている。

過剰診断の定量評価

甲状腺がん検診の推奨の判断理由に,過剰診断の言及があるものの,Evidence reportには過剰診断に関する論文が採用されていない。この直接的な理由は,甲状腺がんに関しての研究が少ないためと考えられるが,過剰診断に関する論文が多く蓄積されている乳がんや前立腺がんについても,過剰診断の定量評価については,適切な方法論が定まっていないのが現状である[]。過剰診断の定量的評価の際には,検診を実施しない場合の基準罹患率と先行時間(滞在時間)の推定をどのように行うかが鍵となる。こうした方法論的な吟味を進めた上で,過剰診断を定量的に評価し,利益不利益バランス判断の1つの要素として検討するための基礎資料を提示する必要がある。

まとめ

USPSTFは,2017年の更新で,超音波および触診による甲状腺がん検診について,不利益が利益を上回る(推奨D)ため,無症状の成人については実施すべきでないと判断した。ただし,これは過剰診断についての実証的証拠に基づいた判断ではない。過剰診断の定量評価については,さらに検討が必要である。

【文 献】
  • 1.  US Preventive Services Task Force. Screening for Thyroid Cancer US Preventive Services Task Force Recommendation. JAMA 317: 1882-1887, 2017
  • 2.   Lin  JS,  Aiello Bowles  EJ,  Williams  SB, et al.: Screening for Thyroid Cancer Updated Evidence Report and Systematic Review for the US Preventive Services Task Force. JAMA. 317: 1888-1903, 2017
  • 3.   Lin  JS,  Aiello Bowles  EJ,  Williams  SB, et al.: Screening for Thyroid Cancer:A Systematic Evidence Review for the U.S. Preventive Services Task Force. AHRQ Publication No. 15-05221-EF-1 May, 2017
  • 4.   Rochman  S. News:Thyroid Cancerʼs Overdiagnosis Problem. JNCI, Volume 109, Issue 7, 1 July, 2017
  • 5.   Schmidt  C. News:U.S. Preventive Services Task Force Confronts Critics. JNCI, Volume 109, Issue 9, 1 September, 2017
  • 6.   Welch  HG,  Black  WC. Overdiagnosis in cancer. J Natl Cancer Inst. 2010 May 5; 102: 605-613. doi: 10.1093/jnci/djq099. Epub 2010 Apr 22. Review
  • 7.   Ripping  TM,  Ten Haaf  K,  Verbeek  ALM, et al.: Quantifying Overdiagnosis in Cancer Screening:A Systematic Review to Evaluate the Methodology. J Natl Cancer Inst. Oct 1; 109. doi: 10.1093/jnci/djx060, 2017
  • 8.   Baker  SG, Editorial: Challenges in Quantifying Overdiagnosis. JNCI, Volume 109, Issue 10, 1 October, 2017
 
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