2018 年 35 巻 2 号 p. 134-140
腺腫が原因の原発性副甲状腺機能亢進症術後のPTH推移について2006年1月から2017年6月までに当科で手術を施行した72例の症例を後方視的に検討した。術後のPTHが1度でも基準値を上回った症例は16例(22.2%)であった。16例の術後PTHの詳細を検討すると,術後半年以内に一回の高値を示した症例が9例,半年以内で複数回の高値症例は7例であったが,術後高カルシウム血症をきたした症例は7例で,いずれも一過性でカルシウム補充を受けていた期間での一時的な現象であり,カルシウム補充なしで高カルシウム血症が持続した症例は認められなかった。術後PTH低下不良群では術前intact PTHとALPが有意に高く(P<0.0001とp<0.05),さらにPTH測定別では有意にwhole PTH測定例では有意に低下不良例が多かった(p<0.05)。術前ALP高値がPTHの術後低下不良に有意に関係する独立因子であった(p<0.01)。観察中に再発例は認めなかったが術後半年程度はPTHが安定しない症例が存在するので注意が必要である。
原発性副甲状腺機能亢進症を引き起こす原因としては,副甲状腺の腫瘍・腫瘤性変化による自律的ホルモン分泌亢進のためであり,病理学的には腺腫,過形成,癌が上げられる[1]。この中で一般的には腺腫が原因の大部分を占め,ついで過形成が多い。この疾患は,腺腫では副甲状腺の一腺に発生することが多く(単線腫大),同時に複数の腺に腺腫が生じる(複腺腫大)例は極めて稀である。一方で,過形成では4腺すべてに程度の違いこそあれ異常が見られる。したがって術前に,単腺腫大か複数腺腫大かを画像診断で見極めた上で望む必要がある。標準的な術式は各施設での方針は若干異なるが,現状において術前に単腺腫大の原発性副甲状腺機能亢進症を想定している場合の術式としては一側検索副甲状腺摘出術か腫大腺摘出術が一般的と思われる。術後病理検査で腺腫の診断を得ても,なお,血清PTH(parathyroid hormone)の低下が遷延,再上昇を起こし完全治癒を疑う症例に遭遇することも稀ではない。今回,当科で初回治療を施行し,術後病理検査で副甲状腺腺腫と診断された症例の術後PTHおよび血清Caなど生化学検査の変化を検討したので報告する。
2006年1月から2017年6月までに当科で手術を施行した原発性副甲状腺機能亢進症は92例であったが,初回治療例で術前画像検査および術後病理検査で腺腫と診断された72例を後方視的に検討した。術前に単腺腫大と判断した原発性副甲状腺機能亢進症の当科における手術術式は,一側検索副甲状腺摘出術を基本としている。患者の臨床的背景(性別,年齢,腫瘍径,腫瘍重量,併用薬剤,併存症)および生化学的検査(PTH,Ca,P,アルカリフォスファターゼ〔ALP〕)の術前後の推移を術前,術後1週以内,1カ月±1週,3カ月±1カ月,半年±2カ月で検討した。なお,PTHは2006年から2014年まではintact PTH(基準値10~65pg/ml)のみ測定しており,2015年からは主としてwhole PTH(基準値8~38pg/ml)の測定となっている。術後低カルシウム血症に対して当科では,基準値以下で経口薬(活性型ビタミンD3+乳酸カルシウム)を開始し,血清カルシウムが7mg/dl以下の場合にはグルコン酸カルシウムの持続点滴を開始するようにしている。その後は血清カルシウムの値で点滴や内服薬の中止や減量を決定している。統計学的検討はEZR[2](自治医科大学附属さいたま医療センター作)を用いて分散分析,分割表分析を行いp<0.05を有意差ありとした。また本研究の計画は川崎医科大学倫理委員会で承認を得ている(受付番号2432)。
対象患者72例の臨床的背景(表1)において,性別では男性17例(23.6%),女性55例(76.4%)で,年齢の中央値は62歳であった。術前intact PTHの平均は269.2pg/mlでwhole PTHは189pg/mlであった。術前Ca,P,ALPの平均値±標準偏差はそれぞれ11.3±1.1mg/dl,2.5±0.4mg/dl,437.6±623U/lであった。腫瘍の存在部位は右上10例,右下31例,左上9例,左下22例で右下が最も多かった。これらの症例の平均観察期間は22.1カ月であった。
PTH低下不良群のPTH値の推移
術後のPTHであるがいずれの測定方法でも術翌日に速やかに低下していた(図1)。しかし経過中に術後のPTHが1度でも基準値を上回った症例は16例(22.2%)であった。16例の術後PTHの詳細を検討すると,術後半年以内に一回のみの高値を示した症例が9例,半年以内で複数回の高値症例は7例であった(表1)。しかし全例22.1カ月の観察期間中に正常化していた。
PTHの術後推移(全症例)
intact PTH測定例とwhole PTH測定例と分けて示す。PTHの低下はいずれも術翌日に速やかに低下している。それぞれの基準値を網掛けで示す。intact PTH基準値:10-65pg/ml,whole PTH基準値:8-38pg/ml。
すべての対象症例で術後高カルシウム血症をきたした症例は7例認められたが,PTH低下不良,良好群それぞれ1例と6例で,いずれも一過性(最高値は10.9mg/dl)であり継続的高値症例は認められず,全例低カルシウム血症に対するカルシウム補充を受けていた期間での現象であり,カルシウム補充なしで高カルシウム血症が持続した症例は認められなかった(図2)。ALPは術後上昇し緩徐に正常化する傾向があり,術前,1カ月後,3カ月後,半年後の正常例の比率はそれぞれ64.4%(45/71),58.9%(33/56),80.9%(38/47),85.4%(35/41)であった。術後の血清Pは3例が3カ月まで,1例が半年後に一過性の低下を認めた(図3)。
血清Caの術後推移
術翌日には急速にCa高値は是正されている。術後高カルシウム血症をきたした症例は5例認められたが,いずれも一過性であり継続的高値症例は認められなかった。網掛けは基準値8.2-10.2mg/dlを示す。
血清ALP, Pの術後推移
ALP 5000 U/l超の1例は除外している。
ALPは術後上昇し緩徐に正常化する傾向があり,術前,術後1カ月,3カ月,半年の正常率はそれぞれ64.4%(45/71),58.9%(33/56),80.9%(38/47),85.4%(35/41)であった。術後の血清Pは術翌日の正常化は約半数で,1週後から大部分の症例で正常域に復していた。3例が3カ月まで,1例が半年後に一過性の低下を認めた。
Pの基準値を網掛けで示す。ALPの基準値:110-360U/l,Pの基準値:2.5-4.4mg/dl。
術後PTH低下良好群(一度も基準値以上にならなかった症例群)と術後低下不良群(一度でも基準値を超えた症例群)の背景因子を検討したが(表2),術後低下不良群では術前intact PTHとALPが有意に高く(P<0.0001とp=0.023),さらにPTH測定別では有意にwhole PTH測定例では有意に術後低下不良例が多かった(p=0.0423)。骨やカルシウム代謝に影響を与えると考えられる薬剤としてビスホスホネート,receptor activator for nuclear factor-κ B ligand(RANKL)阻害薬,糖質コルチコイドの術前または術後使用,カルシウム製剤術後使用に関しての検討ではPTHの低下不良群と低下良好群では差は認められなかった。併存症は高血圧が最も多く13例で,糖尿病7例,橋本病4例,慢性肝疾患3例,痛風3例と続いていたが,PTHの低下不良とは有意な関係はなかった。術後PTH低下不良に与える因子を検討したが(表3),術前ALPの高値がPTHの術後低下不良に有意に関係する因子であった(95%信頼区間0.0003~0.0019,t値2.87,p<0.01)。
術後PTH低下別患者背景比較
術後PTH低下不良に影響する因子の検討(重回帰分析)
原発副甲状腺機能亢進症は甲状腺疾患に比して稀な疾患であるが,高カルシム血症を引き起こし,生化学型が最も頻度が多くさらに,無症候性の生化学型が増えているが,骨,腎に有害な影響をきたすことも多い[3]。手術を施行する際に,腺腫か過形成の診断には術前画像診断が大変重要である。頸部超音波検査,頸部CTや99mTc-MIBIシンチグラフィなどである。当院では単腺腫大の場合には腫大腺の摘出に加えて同側の正常腺の確認を行う一側検索副甲状腺摘出術を行っている。ただし,この場合でも複数腫大や過形成の完全否定は困難なため,術中または術後血中PTH低下と高カルシウム血症の軽快を指標に手術の成功を確認する。
今回手術時点では成功と考えた一側検索腺腫摘出術後の72例の術後血中PTHとカルシウムの動きを見たが,PTHが1度でも基準値を上回った症例は16例(22.2%)であった。さらに術後高カルシウム血症をきたした症例は5例認められたが,PTH低下不良,良好群それぞれ2例と3例で,いずれも一過性であり継続的高値症例は認められなかったことから,2年弱の観察期間において取り残しや再発はないものと考えている。この現象に関しては,複数の論文が出ており,Duhら[4]は141例の検討で1週目で26%,後期が40%でPTH高値で,高カルシウム血症は13%,20%で再燃は6例と報告しており,Irvinら[5]は77例の検討で37%がPTH高値で再燃は2例,Bergenfelzら[6]は82例の検討において8週後で24%,1年後で13%がPTH高値であったが全例正常カルシウム,Danizotら[7]は97例で術後半年後のPTHを検討しているが30%が高値であったとしている。Wangら[8]は816例で術後数週間後の測定で15%がPTH高値でうち,2%は再燃,Yenら[9]は330例の検討で1週目で2.9%,3カ月で2.7%,半年で3.5%がPTH高値で95.5%はカルシウム正常と報告し,Solorzanoら[10]は505例の検討で観察期間41カ月のうち33.3%にPTH高値が見られ4.8%は再燃であったと報告している。再発に関してはLundgrenら[11]は410例の手術例で検討しているが持続または再発性の高カルシウム血症は3.7%,1.7%であったと報告している。これらのことから[1]術後一時的にPTH高値であっても再燃でない症例の方が圧倒的多数である[2]。再燃でなければPTH高値であっても高カルシウム血症を伴っていない症例がほとんどであることがわかる。
この一過性の正カルシウム血症性PTH高値に関する因子としてはBergenfelzら[6]は高年齢,心血管イベントの多い症例としており,Danizotら[7]は術前のPTH高値,腫瘤径,ALP高値,骨塩量低下が関連する因子としている。Solorzanoら[10]は高年齢,術前PTH高値をあげている。われわれの検討では,両群で差があったものは術前のPTH,ALPが低下不良群で有意に高値であり,重回帰分析では術前ALP高値が術後PTH低下不良に有意に関連する因子であった。
手術成功例で,血清高Ca血症を伴わない一時的なPTH高値の発症機序であるが,Westerdahlら[12]は,術後のカルシウム吸収低下による低値と骨塩量の回復による刺激のための上昇とし,Solorzanoら[10]は術後軽度の腎障害が誘因となっていると報告している。われわれの症例では一過性のPTH上昇した症例はいずれも活性型VD3の補充を要するカルシウム動態であり,しかも有意にALPが高値であったことから,骨代謝の影響を受けたカルシウムの一時的な低下で上昇をきたしたのではないかと考えている。
われわれの検討ではintactとwhole PTHの測定方法で,有意にwhole PTH測定で術後PTH不良症例が多く,差があることが判明した。whole PTHはPTHの1-84アミノ酸を検出する測定系であり,intact PTHはPTHの7-84アミノ酸を検出する[13]。Silverbergら[14]も原発性副甲状腺機能亢進症患者56例で測定感度の比較をしているがintact PTH,whole PTHそれぞれで73%,96%であり,whole PTHは有意に感度が高いと報告している。またwhole PTH/intact PTH比の検討では0.49~1.50と個人差によりこれらの測定系にはばらつきが出ることも知られている[15]。われわれの結果は単変量解析では術前intact PTH値は術後のPTH低下不良に関与していたが,whole PTH値はPTH低下不良に関与していないという結果であった。この結果がwhole PTH/intact PTHの測定系のばらつきによる影響なのか,それとも他の因子が関係しているのかは,同一症例での比較検討ではないため判断できないが,今後の検討課題かもしれない。
原発副甲状腺機能亢進症の術後のサーベイランスであるが,半年間の経過観察で再発や持続性疾患の有無は判定できるという報告[16]もあるが,観察期間平均22.1カ月のわれわれの検討では,半年時点では5例でPTHが高値であり,われわれも最低半年間はPTH,Caの採血を継続すべきではないかと考える。
腺腫による副甲状腺機能亢進症に対して一側検索副甲状腺摘出術術後のPTHの推移を検討した。手術は成功していると考えられたが22.2%に術後の一過性PTH上昇が見られた。一過性のPTH上昇は血清カルシウムの推移にも注意して観察する必要があると考えられた。
利益相反は田中克浩がエーザイ(株)からの講演料が報告すべきものであり,その他の著者に申告すべき利益相反はない。