日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集1
検診発見での甲状腺癌の取り扱い 手術の適応
鈴木 眞一
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2018 年 35 巻 2 号 p. 70-76

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抄録

東日本大震災後の原発事故による放射線の健康影響を見るために,福島県では大規模な超音波検診が開始された。甲状腺検診を実施するとスクリーニング効果から一度に多くの症例が発見されるが,過剰診断にならないように,検診の基準を設定した。5mm以下の結節は二次検査にならず,二次検査後の精査基準も10ミリ以下の小さいものにはより厳格な基準を設けて,過剰診断を防ぐことを準備した上で検診を行った。その結果発見治療された甲状腺癌は,スクリーニング効果からハイリスクは少なく,かつ非手術的経過観察の対象となる様な被胞型乳頭がんは認められず,微小癌症例でも全例浸潤型でリンパ節転移や甲状腺被膜外浸潤を伴っていた。したがって,一次検査の判定基準,二次検査での精査基準さらに手術適応に関する基準などから,超音波検診による不利益は極めて少ないものと思われた。一方で発見甲状腺癌は過剰診断ではないのであれば,放射線の影響による甲状腺癌の増加ではと危惧されるが,現時点ではその影響を示唆する様な事象は得られていない。

以上より,放射線被曝という特殊状況下で検診を余儀なくされたにも関わらず,厳格な基準を設定しこれを遵守しながら実施することによって,過剰診断という不利益を極力回避できていることがわかった。

1.はじめに

甲状腺癌は他の固形癌に比べ予後が良好であり,生存率向上の目的での検診は行われていない。人間ドックなどで一部実施されているのみである。

一方では甲状腺癌の診断の第1選択は今や超音波検査となっている。本邦では1990年代半ばに,甲状腺超音波検診での過剰診断を経験し[,],成人での微小癌の非手術的経過観察の試みが開始されたり[,],超音波検査での過剰診断を防ぐ取り組みがなされてきた[,]。

2011年3月11日東日本大震災に引き続いて大津波とともに東京電力福島第1原子力発電所発で事故が発生した。原発が4基破損し,大気中に放射性物質の拡散を認め,福島県を中心に周辺地域での放射線による健康被害が危惧された。そこで,国と福島県は福島県の住民に対して長きに亘る健康調査を行うこととなった(福島県県民健康管理調査,のちに福島県県民健康調査に改名)。個人の外部被曝線量を把握する基本調査と4つの詳細調査が計画された。詳細調査の一つとして事故当時,福島県内に居住していた18歳以下全員に超音波による甲状腺検査が実施されることになった[]。福島での検診は本来なら健診と使っているが,ここでは他の項目に合わせ,検診として同様に扱う。

検診発見甲状腺癌の治療を行い,その結果を報告しているが[10],現時点では放射線の影響は考えにくい,と述べる一方,それでは見つかった甲状腺癌は本来見つけないでいたもので過剰診断・治療ではないかと考える人たちも出てきている。そこで本稿では,検診発見の小児若年者甲状腺癌について,その手術適応について述べる。

2.福島での検診の場合にはどうしたか

前述の2011年3月11日の東日本大震災後の原発事故による放射線の健康影響について福島県では県民健康調査を実施し,甲状腺検査も詳細調査の一つとして実施することとなった。検査は,約36万人の事故当時18歳以下の福島県民に対し,超音波による検診を行うこととなった。甲状腺癌は比較的進行が緩徐な癌であり,検診によって発見される甲状腺癌の増加が予想される。筆者は甲状腺検査開始の2011年10月の検診の立ち上げに関わり,しばらく検査の責任者として運営に当たった[11]。その当時,検診開始以前からの筆者の講演スライドでは以下のように説明している。

-なぜ今甲状腺の検査が必要なのか?-

・日本における小児甲状腺腫瘍の疫学調査は今までされていない

・今まで施行していなかった検診を行うと,ゆっくり育つ甲状腺腫瘍が無症状の早い時期に多く発見されることは容易に想像がつく

・今後,放射線被曝による発症の増加があるかないかを確認するためにも現在の甲状腺の状態を把握することが重要となる

検査を施行する前からスクリーニング効果が出ることは想定していた。福島原発事故後の放射線の影響に対する小児甲状腺癌の発生増加の懸念は,多くの専門家だけでなく,非専門家などの一般国民の多くが持っていたことは間違いないと思われていた。従って,小児(若年者)甲状腺癌が増加するのかしないのかを検証することが必要である,と考え実施に踏み切った。

一方では,宮内らは20年前の論文ですでに超音波による甲状腺癌検診による微小癌の発見はむしろ有害であり,いたずらに検出感度や診断率を誇る時期は過ぎ,早急に対応策を検討すべき時期に入っている,と述べている。そこで対策として以下のことを提唱している[]。

1.超音波検査を検診に用いない

2.検診に用いるとしても検出する腫瘤の大きさを制限する。

3.穿刺吸引細胞診を行う適応を制限する

4.癌と診断されても直ちに手術をするのではなく経過を見るなどが考えられる。

すなわち甲状腺の場合,微小癌とくに剖検で発見されるようなラテント癌があり,検診でこれらを発見治療することはむしろ有害であり,結局すべての甲状腺癌を把握することは不可能といえる。したがって完璧な調査を遂行しようとすればここに生きる人のQOLを阻害する。しかし,調査をしない,となると,福島の人たちにとっては2つの大きな問題が生じる。1つは甲状腺癌発症を懸念した人々の診察機会が増え,早期に微小癌も含め発見され,見かけ上の急増が予想される。一方福島の住民の希望を無視し,不安が解消されない中でむしろ検診は有害だと強く教育し,甲状腺検診はしないことを徹底したとしても,いずれ自然発生甲状腺癌は発見される。両者とも,癌が発見された時に,医療先進国のはずの日本において,放射線との因果関係につき全くわからないということになりかねない。

検診の不利益と利益を十分に考えて実施することは当然であるが,福島の状況はすでに被曝をした(線量は少ないがゼロではない)事実はあるので,通常の人間ドックでの検診とは同じ土俵で議論できない。このような状況下で不利益を唱えるとした場合には,有効な対案を提示してから議論をされるべきと考える。

そこで,福島の場合上記1として,触診による一次スクリーニングも考慮されるが,通常診療でどこでも甲状腺超音波が使用されているので避けて通れない。従って今回の場合には,上記2となる。実際,検診での一次検査の基準[]では5mm以下の結節はA2判定として二次検査とならず,2年後の次回検診受診を勧めている。これは一生取らなくていい可能性のあるラテント癌の大半が5mm以下であることによる。また二次検査の基準も上記3.として精査基準を設け,過剰診断にならないように,小さくて,非浸潤性のものはなるべく経過観察にすべく制限している(図1および表12)。さらに,上記4に関してはすでに本邦では微小癌の非手術的経過観察を実施している[,]が,小児若年者には明らかなエビデンスはないものの,手術を考える場合には一応考慮すべき事象である。以上のように,本検診では超音波検診を実施するにあたり,不利益を未然に防ぐものとして2,3の様な基準を遵守して進めることとなった[,,]。

図 1 .

甲状腺充実性病変の精査基準

甲状腺超音波診断ガイドブック 改訂第3版:28-29,2012

表 1 .

悪性を強く疑う場合

表 2 .

悪性を疑う場合

3.福島の健診で発見された甲状腺癌の手術適応は?

もともと予後良好な癌が多く,いたずらに早期発見,早期治療を強調するものではないが,発見された甲状腺癌については現行の医療水準のなかで手術適応に関する基準を設けている。上記のような一次検査[],二次検査での基準[,]があるが,福島の場合にはさらに対象が小児,若年者である,ということからさらに手術適応についても検討した。

大半が上記の乳頭癌の診断基準(図2)を考えると,高リスク症例には全摘+リンパ節郭清(LND),術後RAIを,低リスクには葉切除+気管周囲LND勧めるのは通常成人と変わらないが,中間リスクについては,本邦の甲状腺エキスパートと議論を重ね,低リスクと同様に葉切除+LND(気管周囲は予防的に,外側は術前診断で転移が確定ないし疑われるもののみ)とした。

図 2 .

本邦における甲状腺乳頭癌の治療方針 文献[14]より改変

理由は,小児若年甲状腺癌の特徴として下記の点があげられる。

1)小児若年者はより予後が良好である。

2)大半が乳頭癌である[1112]。

3)小児若年者へのRAIアブレーションは消極的である。

4)全摘での永続的甲状腺ホルモン剤補充の心身への負担を避ける。

5)甲状腺ホルモン剤の服薬コンプライアンスの低下

6)微小癌のAS(active surveillance)も若年者にはエビデンスがない。

が挙げられる。

上記1)については甲状腺乳頭癌や分化癌での最大の予後因子は年齢で,小児若年者甲状腺癌はさらに予後良好といえる。3)に関してはRAIの効果についてもハイリスク症例や転移再発症例へのエビデンスはあるものの,それ以外ではエビデンスが低く,さらに小児の場合二次的被曝も考慮し,本邦での対応は慎重であり,エキスパートのコンセンサスとして今回の福島の場合,放射線被曝の健康影響を心配され健診を受けられている方々に,画一的にRAI治療を勧めるわけにはいかないとの意見で一致している。さらに4)5)は今までも小児若年者での最も苦労する事象である。4)に関しては保護者が,「一生薬を飲まなければならない」ということに大きな心理的負担を抱えていることをたびたび経験している。さらに当事者達は驚くほど健康に自信のある世代なのか,時に長期にわたり甲状腺ホルモン剤を服用しないで問題になることも少なくない。筆者だけでなく,多くの第一線での甲状腺エキスパート達の共通した経験でもあった。また6)に関しては,先の精査基準でASの対象になるような症例は出来る限り発見されないものとなっている。さらにASを実際に行っているItoらの報告[13]では,40歳以下の症例ではより若年になるほど腫瘍増大から脱落する症例が増えるとされている。一方,脱落例でも急激進行例もない。福島の検診でAS症例を多く発見してしまうようなシステムは歓迎されない。冒頭でも述べたが,検査のために甲状腺癌を根こそぎ発見することは不可能に近く,それこそ過剰診断,過剰治療につながりかねないことから,精査基準を設け,現行の診断,治療基準のなかで対応することが最も重要であると考え,本検診を開始している。また一方で,微小癌すべてが過剰診断としてASを推奨されているわけではない。2010年版の甲状腺腫瘍診療ガイドラインでは,CQ20に甲状腺微小乳頭癌(腫瘍径1cm以下)において,直ちに手術を行わず非手術経過観察を行い得るのはどのような場合か?,があり,推奨グレードはC1であるが,術前診断(触診・頸部超音波検査など)により明らかなリンパ節転移や遠隔転移,甲状腺外浸潤を伴う微小乳頭癌は絶対的手術適応であり,経過観察は勧められない。これらの浸潤の徴候のない患者が,充分な説明と同意のもと非手術経過観察を望んだ場合,その対象となり得る。と記載されて,サイズだけで経過観察になるのではなく,上記を疑う微小癌に対しては絶対的手術適応があることも記載されている[14]。

4.福島の検診後発見された甲状腺癌の治療は過剰診断治療にはなっていないのか?

すでに報告している症例を提示する[10]。検診後二次検査で悪性ないし悪性疑いとさた172例中,2016年3月31日までに手術が施行された132例中,当科で手術が施行された126例で,うち125例が術後甲状腺癌と確定した。その125例の甲状腺癌の特徴としては,性差は1:1.8で若干女性に多く,震災時および診断時平均年齢は14.8歳,17.8歳である。手術直前での平均腫瘍径は14mm(5.0~53mm)である。前述のごとく一時検査の基準で5mm以下は2年後の検診まで経過観察としているので手術例とはならない。121例(96.8%)は片側に,4例(3.2%)は両側に病変を認める。

術前後のTNM分類を表3に示す。術前のTNMに関してはT1 80.1%(T1a 35.2%,T1b 45.6%),T2 9.6%,T3(EX1)9.6%,T4なし,N0 77.6%,N1 22.4%(N1a 4%,N1b18.4%),M0 97.6%,M1 2.4%であった。術後のTNMでは T1 59.2%(T1a 34.4%,T1b 24.8%),T2 1.6%,T3(EX1)39.2%,T4 0%,N0 22.4%,N1 77.6%(N1a 60.8%,N1b 15.8%)であった。術前T3(EX1)9.6%に比して術後は39.2%と高率であった。また術前はリンパ節転移は22.4%と低率に比し術後は77.6%と高率であった。外側リンパ節転移(N1b)は術前後で18.4%,16.8%とほぼ同率であったのに比し気管周囲リンパ節転移(N1a)は術前4%,術後60.8%と術後に高率であった。M1症例は3例とも肺転移疑いであった。ハイリスク症例はこの3例のみと極めて少なく,両側例も3例のみであり,全摘は11例(8.8%)のみで大半(91.2%)が片葉切除であった(表4)。

表 3 .

術前術後のTNM所見(当科手術例) 文献[]より改変

表 4 .

手術術式 文献[]より著者作成

チェルノブイリの手術例の68%は全摘ないし亜全摘であり,これらは術後にアイソトープ治療が施行されている[15]。これに比して福島の場合9割以上が片葉切除で術後アイソトープ治療はほとんど実施されておらず(図3),大きく異なっている。

図 3 .

福島とチェルノブイリでの小児若年甲状腺癌手術術式の比較

米国甲状腺学会の甲状腺分化癌のガイドライン2015年版では必ずしも低リスクの甲状腺分化癌には全摘,放射線ヨウ素(RAI)治療を勧めなくなり,我が国の方針に近づいている[16]。これも過剰診断,治療という観点から見直されたものである。また,125例の病理組織像のうちは3例の低分化癌と分類不能のその他の甲状腺癌が1例あり,3例の低分化癌は甲状腺癌取り扱い規約が第7版に改訂後は低分化癌の診断基準が変わり,2例が乳頭癌の充実型亜型に再分類されている。従って123例99%が乳頭癌でありまたその大半が通常型であり,チェルノブイリで多く認められた充実型亜型は2例と極めて少ない。また一方では,被胞型乳頭癌はなくすべて浸潤型乳頭癌であり,10mm以下の微小癌でも同様であった。これは前述した精査基準が10mm以下では強く悪性を疑うような症例すなわち当然浸潤型のみが抽出されていることによる。さらに微小癌症例を検討すると,T1aN0M0症例は術前は44例あり,うち33例はEX1(T3)疑い20例,N1a疑い3例,反回神経浸潤疑いないし近接10例,気管浸潤疑いないし近接7例,バセドウ病合併1例,肺陰影合併1例(重複あり)によって手術適応とした。また11例は成人例でのASのことも十分に説明し,直ちに治療の必要はなく経過観察も勧める旨の説明をしたにもかかわらず,ご本人やご家族の強い希望から適応となっている。上記33例中術後もT1aN0M0であったものはたった3例のみであった。また非手術勧めるも手術を希望された11例中2例のみがT1aN0M0であった。このように,術後病理診断では89%がリンパ節転移や被膜浸潤が認められた[10]。

以上から,福島での手術例に関して,過剰診断を裏付けるような術後病理結果は出ていない,ということがいえる。術前のリンパ節転移診断は細胞診や穿刺液中のTg測定でも可能であるが,甲状腺被膜外浸潤に関しては,上記のような確定診断はつけにくく,外科医が自ら行うエコー検査での診断となるが,症例を重ねるにつれて術前疑いの多くが病理検査で裏付けられ精度が高いことがわかってきた。

5.それでは福島の検診発見甲状腺癌は放射線の影響なのか?

現時点ではそれを積極的に裏付けるエビデンスは得られておらず,以下に挙げた理由から否定的である[10]。

1)福島での線量は,チェルノブイリと比較して圧倒的に低い。

2)甲状腺癌発症は,震災時居住地域における明らかな地域差は認められない。(避難などの移動があり個人線量の把握がさらに必要)

3)甲状腺癌被曝時年齢の分布は,放射線非被曝群における年齢分布に近い。平均年齢15歳で,最も被曝の影響を受けやすいより若年者(事故当時;0~5歳)には認められていない。

4)福島での甲状腺癌は,震災後で発見率の急激な増加もなく,また地域にも差がない。

5)チェルノブイリと異なり,充実型亜型乳頭癌は極めて少ない。

6)遺伝子変異についてもチェルノブイリの放射線誘発甲状腺癌症例とは大きく異なっている[17]。

考 察

検診発見癌については,無症状のうちに発見するために,その手術適応が問題となる。また,超音波検診を大規模に行うにあたり,一次検査の判定基準,二次検査での二つの精査基準によって,甲状腺癌が発見されても大半が経過観察となるようでは,不安ばかりを助長しかねない。検診発見癌の大半が治療の対象となるような制度設計が極めて重要である。

福島での甲状腺検査においては,一次検査では剖検で発見されるラテント癌の除外がなされ,二次検査では,二つの精査基準から,過剰な細胞診の実施を防止し,極めて低リスク甲状腺癌の診断を早期に行うことを避ける仕組みになっている。また,通常の保険診療においても,絶対的手術適応にならないような低リスク微小癌の場合,非手術的経過観察も行いながら,検診による不利益をできるだけ回避することが可能となっている。手術適応に関しては,予後良好な小児若年者が対象であり,自験例でもハイリスク症例は極めて低く,直ちに手術をしなければならないという症例は少なく,充分なインフォームドコンセントの元に,進学就職などのイベントも十分に考慮しながら適切な時期を選択する。さらに,できる限り低侵襲に心懸け,葉切除では3cm,全摘外側頸部郭清例でも創縁保護のラッププロテクターを併用し,4~5cmで実施している。中央区区域のリンパ節転移は78%も認め,また大半が術後RAIを施行しないことから,小切開とはいえリンパ節郭清はしっかり行わなくてはならない。そのために術中は反回神経損傷防止のため全例,術中神経モニタリング装置を使用している。

自験例はそもそも過剰診断や治療にならないよう,様々な基準をクリアした上で手術が行われている。その結果,微小癌は術前で35%を認め,通常の臨床と頻度的には変わりはないが,その適応理由は現行の診断基準で微小癌でも非手術的経過観察を勧めない理由があるものが26%に及び,術前非手術的経過観察を勧めたにもかかわらず就職進学などの都合で早期手術を希望された方が11例(9%)であった。この11例ですら被胞型乳頭癌は1例もなく,術後でもリンパ節転移および被膜外浸潤を認めなかったものは3例のみであり極めて少ないことがわかった。一方術後結果は極めて悪性度が高い,というよりは,外科手術の適応には入るが決して進行例ではなく,適切な治療で良好な予後が予想できるものである。一方,これらを経過観察可能であるかどうかは,直ちに切除する根拠にはならないものの,取らなくてもいい根拠は見当たらなかった。自験例での術後病理結果からも大半が浸潤型であり,10mm以下では精査基準,手術適応によるものなのか,すべて浸潤型であったことは,振り返っても現行の検診発見癌の手術適応は比較的妥当なものと考える。さらに遺伝子診断でも大半にBRAF遺伝子の点突然変異を認め,予後不良例や難治例といわれることもあるが,少なくともこの変異を持って被手術的経過観察を進める根拠にはならない。

以上のように,未曾有の原発事故により開始された,超音波による甲状腺検診において,判定基準,精査基準,診断基準などを適切に運用することで,現行の医療とリンクした適切な手術適応が得られるものと思われる。今後もこのような手術例の経験をフィードバックし,これらの診断基準より良いものとしながら検診を施行すべきと思われる。

【文 献】
 

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