東日本大震災後の原発事故による放射線の健康影響を見るために,福島県では大規模な超音波検診が開始された。甲状腺検診を実施するとスクリーニング効果から一度に多くの症例が発見されるが,過剰診断にならないように,検診の基準を設定した。5mm以下の結節は二次検査にならず,二次検査後の精査基準も10ミリ以下の小さいものにはより厳格な基準を設けて,過剰診断を防ぐことを準備した上で検診を行った。その結果発見治療された甲状腺癌は,スクリーニング効果からハイリスクは少なく,かつ非手術的経過観察の対象となる様な被胞型乳頭がんは認められず,微小癌症例でも全例浸潤型でリンパ節転移や甲状腺被膜外浸潤を伴っていた。したがって,一次検査の判定基準,二次検査での精査基準さらに手術適応に関する基準などから,超音波検診による不利益は極めて少ないものと思われた。一方で発見甲状腺癌は過剰診断ではないのであれば,放射線の影響による甲状腺癌の増加ではと危惧されるが,現時点ではその影響を示唆する様な事象は得られていない。
以上より,放射線被曝という特殊状況下で検診を余儀なくされたにも関わらず,厳格な基準を設定しこれを遵守しながら実施することによって,過剰診断という不利益を極力回避できていることがわかった。