2019 年 36 巻 2 号 p. 96-100
乳癌の約70%はエストロゲン受容体(ER)陽性であり,内分泌療法の適応となる。ER陽性の転移再発乳癌の治療には,一般に副作用の少ない内分泌療法が優先的に使用されるが,多くは治療中に耐性を生じる。近年,耐性機序の一つとして,エストロゲン受容体(ER)をコードするESR1遺伝子の変異が報告され,長期のアロマターゼ阻害剤(AI)治療後に高頻度で生じることがわかった。これらの変異はエストロゲン非依存的なER活性をもたらすことにより,種々の内分泌療法にも抵抗性を示し,全生存期間にも影響を与える。変異の検索には,血中循環腫瘍DNAが利用可能であり,ESR1を対象としたリキッドバイオプシーが治療効果予測や予後予測に有用と考えられる。以下,乳癌におけるESR1変異の臨床的意義や特徴について概説する。