日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集1
反回神経・迷走神経合併切除例の神経再建術と音声改善手術
古田 康今井 聡打田 武史松村 道哉
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2020 年 37 巻 2 号 p. 82-88

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抄録

甲状腺進行癌にて一側反回神経を合併切除する例においては,各種神経再建術や甲状軟骨形成術Ⅰ型(TP Ⅰ)などの音声改善手術の追加や併施を行い,発声機能の温存・改善を図ってきた。腫瘍切除時は,下咽頭収縮筋切断・輪状甲状関節離断・甲状軟骨下角鉗除を症例に応じ施行し,顕微鏡下に反回神経末梢側を同定してから切断している。神経再建方法は,端端縫合可能例は少なく,頸神経を用いた間置移植,頸神経ワナ縫合を基本としている。進行癌例においては迷走神経合併切除例もみられ,残存した迷走神経や舌下神経を用いた再建も行ってきた。神経再建のみ施行した15例中4例において術後MPTが5秒以下と不良であり,2例においてTP Ⅰを追加した。追加手術を躊躇する高齢者がみられたことから,70歳以上を主な対象に神経再建術とTP Ⅰの併施を15例で行った。本法においては術後早期から発声機能が保持または改善し,音声改善手術をさらに追加した例を認めなかった。

緒 言

甲状腺癌において声帯麻痺による嗄声や誤嚥症状は患者のQOL低下をきたす。術前から声帯麻痺を認める症例においては,大部分の例で腫瘍切除とともに反回神経を合併切除することとなり,そのままでは嗄声の改善は見込めない。即時神経再建術を施行し嗄声の改善を図る,または二期的に音声改善手術の施行を検討することになる。また,術前に声帯麻痺を認めない例において,術中に反回神経周囲浸潤を認めた場合,神経温存を図るかまたは神経を切除し即時再建術を行うことにより発声機能の低下を抑えることが重要となる。

反回神経合併切除時に即時神経再建を行うことは,ガイドラインでも推奨されている[,]。非再建例では声帯筋の萎縮により発声機能が悪化するが,神経再建例では声帯運動は回復しないものの,声帯筋の萎縮を抑えることにより,良好な発声機能が得られる[]。また初回手術時に神経再建を施行できなかった場合,術後の発声機能と患者の要望により,声帯内注入術,甲状軟骨形成術Ⅰ型(thyroplasty type Ⅰ, TP Ⅰ),披裂軟骨内転術などの音声改善手術を追加することも推奨される[]。

本稿においては,反回神経・迷走神経合併切除例の神経再建術と音声改善手術について,当科における術式の工夫について紹介する。

症 例

当科の基本方針として,術前に声帯麻痺を認めないが,術中所見で反回神経周囲に浸潤を認めた場合は,顕微鏡下操作にて神経束の温存を図っている。神経束の温存が困難と判断し,神経合併切除となった場合,即時神経再建を行うことを基本としている。術前から声帯麻痺を認める例においては,神経温存が困難な例が大部分であり,即時神経再建を行っている。

2007年6月から2019年9月までに手術を施行した甲状腺癌220例において,術前から声帯麻痺を認めた例は28例28側(13%)であった。2例は乳頭癌に合併した腺腫様甲状腺腫成分の増大による反回神経麻痺例であり,神経を温存できた。未分化癌の1例においては神経再建を行わなかった。残りの25例で即時神経再建を施行した。術前に声帯麻痺を認めなかった192例中21例において顕微鏡下の剝離温存を行ったが,5例(2.6%)では神経合併切除再建を要した。すなわち,この期間中30例において即時神経再建術を施行した。

術式と工夫

①反回神経切除断端の同定:中枢側と末梢側の反回神経を同定してから切断する。中枢側の同定は容易である。末梢側において,反回神経の喉頭への入口部で同定が困難な場合は,輪状咽頭筋切断,輪状甲状関節離断,甲状軟骨下角鉗除などの操作を加え,反回神経を同定する。顕微鏡下に操作を行うことが多い。

まず,輪状咽頭筋さらに一部甲状咽頭筋を切断することで,輪状軟骨の表層で反回神経を探す[]。この操作で神経が十分に露出できない場合は,次のステップとして輪状甲状関節離断,甲状軟骨下角鉗除を行い,さらに末梢側で神経を同定する。顕微鏡下に正常神経と考えられる部分で切断する(図1)。

図1.

反回神経末梢側が同定困難な場合のアプローチ。ステップ① 輪状咽頭筋さらに一部甲状咽頭筋を切断(両矢印)することで,輪状軟骨の表層で反回神経を同定する(黒矢印)。ステップ② 輪状甲状関節離断,甲状軟骨下角鉗除を行うとさらに末梢側で反回神経を同定できる(白抜き矢印)。QRコードにて手術動画を供覧する。

②神経縫合:神経縫合は顕微鏡下にナイロン9-0または10-0糸を用い,3~4糸程度神経上膜縫合を行っている。縫合部に緊張がかからないように注意する。反回神経を端端縫合した例では良好な発声機能が得られる[]が,可能な例は少なく,30例中2例のみであった。頸神経を用いた間置移植9例,頸神経ワナ縫合14例,迷走神経と反回神経の端端縫合4例,舌下神経と反回神経間での再建1例であった。頸神経間置移植,頸神経ワナ縫合の選択はcase by caseで決めているが,神経欠損距離が短い例は間置移植,長い例は頸神経ワナを使うことが多かった。また,縦隔側での神経縫合が困難な場合は頸神経ワナを使用し,末梢側のみの神経縫合で済ませる。

③迷走神経合併切除例における神経再建:甲状腺癌による声帯麻痺は,反回神経浸潤の他に,迷走神経浸潤による例も少なからず認められる。迷走神経合併切除例においても,神経再建術を行ってきた。迷走神経中枢側断端と反回神経末梢側の端端縫合を行ったのが4例であり,うち2例では後述するTP Ⅰを併施した。迷走神経と反回神経は神経束の太さが異なるが,神経上膜縫合により太さの差を調整した。1例では迷走神経中枢側断端との縫合が困難であり,部分切断した舌下神経と反回神経末梢端間に頸神経を間置移植し,さらにTP Ⅰを併施した(図2)。

図2.

迷走神経合併切除再建例。症例1:62歳男性,乳頭癌。左迷走神経(グレー矢印)と反回神経(白抜矢印)を端端縫合(黒矢印)した。術前MPT9秒が術後18秒に改善した。症例2:75歳男性,未分化癌。部分切断した左舌下神経(グレー矢印)と反回神経(白抜矢印)の間に頸神経(星印)を間置移植(黒矢印が末梢側縫合部)し,さらにTP Ⅰを追加した。術前MPT2秒が術後20秒に改善した。QRコードにて喉頭内視鏡動画を供覧する。

④音声改善手術の追加:甲状腺手術のみならず,心臓大血管手術,食道癌手術や肺癌手術後にも一側性声帯麻痺が生じ,音声改善手術を追加する例がある。一側性声帯麻痺に対する音声改善手術としては,声帯内注入術,喉頭枠組み手術であるTP Ⅰ,披裂軟骨内転術などがある。局所麻酔または静脈麻酔下に,発声状態を術中に確認しながら行う。当科では声門間隙の広さや左右声帯のレベル差によりTP Ⅰまたは披裂軟骨内転術を選択している。すなわち,声門間隙が広く,左右声帯のレベル差を認める例では披裂軟骨内転術を行うが,TP Ⅰに比べ手術難度が高く,気道合併症のリスクもやや高い。甲状腺癌手術において,反回神経縫合術のみを施行した例において,嗄声が残存した3例にTP Ⅰを追加した。1例は術後1年で最長発声持続時間(maximum phonation time,MPT)が10秒に改善した例であったが,さらに良い音声を要望したためTP Ⅰを追加した。2例はMPT5秒以下の高度気息性嗄声が残存し,術後8カ月目と3年目にTP Ⅰを追加した。初回手術で甲状軟骨や輪状軟骨周囲の操作が加わり瘢痕化していることが予想され,よりリスクの低いTP Ⅰを選択した。いずれもMPT10秒以上に改善したが,披裂軟骨内転術を選択する施設もあると考える。

⑤神経縫合とTP Ⅰの併施:術後にMPT5秒以下の高度気息性嗄声が残存し,音声改善手術の追加を勧めたが,手術を躊躇する高齢者がみられたことから,70歳以上を対象に神経縫合術とTP Ⅰの併施を行ってきた。腫瘍の摘出と神経縫合を終了後,麻痺側の甲状軟骨において声帯上縁レベル,正中から5~10mmの部位に約5mmの小窓を開ける。ゴアテックスを幅5mmのテープ状にして約6~10cm傍声帯間隙に挿入し,麻痺側声帯を正中側に移動する(図3)。挿入するゴアテックスの長さは術前の声帯所見に応じて決めている。すなわち,声帯筋の萎縮により声帯間隙が広い場合は長く,声帯間隙が狭い場合は短くする。手術所要時間は10~15分である。TP Ⅰ併施時の術後管理で注意している点は気道合併症であり,抜管直後に喉頭内視鏡にて対側声帯麻痺や喉頭浮腫がないことを確認している。また,術後喉頭浮腫への対応のため,ICUで1泊管理している。本手術を施行した15例中1例において対側の一過性反回神経麻痺のため,術後3日目に気管切開術を要した。その他,出血や感染,ゴアテックスの喉頭内脱出などの術後合併症を認めなかった。

図3.

左頸神経ワナと反回神経縫合+TP Ⅰ併施例。A:甲状軟骨開窓部(白抜矢印)とゴアテックステープを示す。気管(グレー矢印),輪状軟骨(星印)。B:ゴアテックステープ挿入後(白抜矢印)。頸神経ワナと反回神経縫合部(グレー矢印)。C,D:術前後のCT。ゴアテックスにより左声帯が正中側に移動している。QRコードにて手術動画を供覧する。

術後の発声機能

発声機能評価法として,発声機能検査器を用いて,平均呼気流率などを調べる方法もあるが,外科医,耳鼻咽喉科医が一般診療で検査可能なMPTを用いて評価した。

神経縫合のみ施行した例:神経縫合のみを行った15例の術前後のMPTを図4に示した。10例(67%)においてMPTは術前より改善または悪化しても10秒以上に保持された。1例では術前後でMPT8秒のまま不変であった。4例(29%)においてはMPT5秒以下の高度気息性嗄声が残存した。うち2例で術後8カ月目と3年目でTP Ⅰを追加した。術前後におけるMPTの経時的変化を6カ月以上追跡することができた8例のデータを図5Aに示した。術後3カ月目でMPT10秒以上の症例は2例(25%)のみで,3例においては術後半年~1年半で10秒以上に改善していた。

図4.

術前後のMPT。神経縫合のみ施行した15例とTP Ⅰ併施15例。黒矢印は術前に反回神経麻痺を認めなかった例(術前MPT測定せず)。

図5.

術前後におけるMPTの推移。A:神経縫合のみ施行した8例。2例でTP Ⅰを追加した。B:TP Ⅰを併施した12例。矢印は術前に反回神経麻痺を認めなかった例。

迷走神経と反回神経の端端縫合のみを施行した2例においてもMPTは術後10秒以上に改善が認められた。

神経縫合とTP Ⅰ併施例:15例全例でMPTは術前より改善または悪化しても10秒以上に保持された。MPT5秒以下の高度気息性嗄声が残存した例は認めなかった(図4)。音声改善手術をさらに追加した例は現在までのところ認めない。12例において術前後におけるMPTの経時的変化を6カ月以上追跡できた(図5B)。TP Ⅰ併施例では9例(75%)において術後3カ月で10秒以上に改善しており,神経縫合のみ施行例と比べ,術後早期から発声機能が改善する傾向が認められた。

考 察

反回神経合併切除時に即時神経再建を行った群と非再建群との比較では,有意にMPTが延長することが報告されている[]。また,年齢・性別・術前の声帯麻痺の有無・術者に関わらず有意に良好な成績を示したことが報告されている[]。施設の方針により,即時再建を行わず,術後嗄声の状況により音声改善術を追加する場合もあるが,甲状腺外科を専門とする施設においては,何らかの術式で即時再建を行い,患者のQOL向上を目指すべきである。

神経再建方法としては端端縫合,間置移植,頸神経ワナ縫合,迷走神経反回神経縫合などがある。術式による差はないとの報告もあり[],腫瘍切除後の状況により適切な再建方法を考える。反回神経の喉頭への入口部において,末梢側断端を同定しないまま腫瘍を切除すると,切除後に神経断端の確保が困難となる。手術手技のポイントは,腫瘍切除の際に適宜輪状咽頭筋切断,輪状甲状関節離断,甲状軟骨下角鉗除を加え,反回神経末梢側断端を同定した上で切断することである。当科では顕微鏡下に操作を行うことが多いが,拡大鏡下でも可能である。

甲状腺癌による声帯麻痺は反回神経浸潤の他に,迷走神経浸潤による例も少なからず認められる。迷走神経を合併切除する例では頸神経ワナを温存できないことが多い。迷走神経中枢側断端と反回神経を端端縫合する方法が報告されており,発声機能の回復に時間を要するが良好な結果が得られている[]。われわれも4例(うち2例はTP Ⅰ併施)施行し,いずれもMPT10秒以上の良好な結果が得られた。迷走神経中枢側断端が頭蓋底部近傍となり,迷走神経と反回神経間での縫合が困難な例においては,舌下神経と反回神経間での間置移植を行った。舌下神経を部分切断しても舌運動に支障をきたさないことから,顔面神経再建術において標準的に用いられている方法である[10]。迷走神経浸潤を認める進行癌においては予後不良な例が多い。5症例中2例は未分化癌と乳頭癌未分化転化でそれぞれ術後5カ月,1年2カ月で死亡した。一方,2例は局所再発,肺転移を認めているが,分子標的治療薬などにより,それぞれ術後5年,9年担癌生存している。近年,再発転移例の予後が改善しており,QOLの向上を目指すためには神経再建術や音声改善手術を積極的に行うことが重要と考えられる。

即時神経再建術によっても,発声機能が満足に回復しない場合は,音声改善手術を要する。局所麻酔または静脈麻酔下での手術であるが,高齢者にとっては大きな負担となる。また,対象患者の多くは,術後アイソトープ治療を要する例である。そこで,複数回の手術を回避するため,高齢者を主体に即時神経再建とともにTP Ⅰの併施を行ってきた。本術式は術後の喉頭浮腫に対する十分な観察を要するが,大きな合併症をきたさず,また発声機能も術後早期から回復し,さらに音声改善手術を追加した例は認めなかった。現在は,術後可及的早期から音声のQOL維持が望ましいと考えられる若年者にも適応を広げている。本術式の限界は,患者自身が満足する音声を手術中に調整できないことである。通常TP Ⅰは,局所麻酔または静脈麻酔下に術中の音声の改善を確認し,さらに声帯の状態を内視鏡でモニターすることで良好な結果が得られる。全身麻酔下の甲状腺手術時は,術前所見に応じて挿入するゴアテックステープの長さを設定している。MPT評価では改善が認められるものの,今後はVoice-related QOL評価などを用いた検討も要すると考えられる。 

まとめ

反回神経・迷走神経合併切除例の神経再建術と音声改善手術について,当科における術式の工夫について述べた。

①中枢側と末梢側反回神経を同定してから切断する。末梢側では顕微鏡または拡大鏡を用いると同定しやすい。

②反回神経喉頭入口部で同定困難な場合は,適宜輪状咽頭筋切断,輪状甲状関節離断,甲状軟骨下角鉗除を加える。

④迷走神経合併切除例においても神経再建を試みる。

⑤即時神経再建術にTP Ⅰを併施すると術後早期から発声機能が改善または保持される。

【文 献】
 

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