2022 年 39 巻 1 号 p. 2-5
東京電力福島原子力発電所事故にともなう福島県民の被ばく線量に関して,甲状腺の131I蓄積量の実測値が少なかったこともあり,線量の推計が長らく定まらなかった。「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)2013年報告書」の甲状腺吸収線量評価値は,不確実性が多く,過大評価になっていた。この10年,国内の研究グループの努力により,線量評価の方法論が整備され,被ばく線量推計の精度が向上した。これらの日本人研究者による研究成果を反映したことにより,2021年2月に公開された「UNSCEAR 2020年報告書」では,UNSCEAR 2013年報告書で公表した福島県民の甲状腺吸収線量を改訂し,プレスリリースにおいて「放射線関連のがん発生率上昇は見られないと予測される」と発表するにいたった。本小論では,過去10年の研究の推移を概説し,甲状腺線量評価の現状を報告する。