2011年3月の東日本大震災にひき続いて発生した東京電力第1発電所事故は,その後にいくつもの大きな問題を残した。その1つが小児甲状腺癌発生の危惧であった。これに対し,福島県は福島県「福島県民健康調査」の中で甲状腺検査を施行し,今日に至っている。本稿ではこれまでの甲状腺検査の病理診断(細胞診・組織診)について概略を示す。直近のデータでは,細胞診で“悪性”ないし“悪性の疑い”と判定された266例中,222例がすでに手術をうけた。手術検体の組織学的検索結果によれば,乳頭癌218例,濾胞癌1例などであった。高線量被曝のチェルノブイリ症例と比べるといくつかの相違点がみられている。この調査について“過剰診断”であると批判する立場がある。その意味はわれわれ病理診断に携わる者が用いる“過剰診断”とは異なっている。“過剰診断”という用語の定義と用い方に統一性がない。この解離への対応につき,疫学者とは異なる立場に立つわれわれの見解を示したい。