2022 年 39 巻 4 号 p. 238-240
魅力的な内分泌外科にするために,われわれ耳鼻咽喉科・頭頸部外科医が内分泌外科学会にどのように寄与していくのがよいのか,また耳鼻咽喉科・頭頸部外科医に対してどのように興味を持ってもらうかを考えてみた。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医が得意とする喉頭・気管・縦隔などの拡大手術や,甲状軟骨形成術など音声外科手術など技術面で寄与することができる。また内分泌外科に取り組む体制や教育システムを構築し,診断から手術,フォローアップという一連の流れの中で甲状腺外科に興味を持ってもらったり,ワークライフバランスのよい甲状腺手術において女性医師が活躍しやすい領域にしていくことも大切である。耳鼻咽喉科・頭頸部外科医の中には内視鏡下甲状腺手術の技術を頭頸部癌手術に応用しようと考えている人も多いため,内視鏡下手術をきっかけに,内分泌外科を知ってもらい,学会参加につなげていければよいのではないかとも考えている。
耳鼻咽喉科・頭頸部外科は耳科・鼻科・音声・嚥下・めまい・頭頸部腫瘍など専門領域が多岐にわたり,頭頸部領域に携わる医師はまだまだ少ない。しかし,その重要性は認識されており,頭頸部外科医は徐々に増えてきている。日本耳鼻咽喉科学会は2021年から名称を変更し,日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会となり,耳鼻咽喉科の診療領域の中でも頭頸部外科の役割が大きくなってきていることがわかる。ただその中でも内分泌外科への関心はまだまだ低いのが現状である。内分泌外科をより魅力的な領域にしていくためにどうしていくべきか,思いつくままに取り上げてみた。
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会への新規入会者数は新研修制度発足以前,年間300名前後であったが,新研修制度発足以降,年間200~250名(約3%程度)で推移しており,入会者数が減少したままほぼ横ばいである[1]。
耳鼻咽喉科・頭頸部外科医の医師数は約1万1,000人で,現在はその約1/4が女性医師であり,その割合は年々増えてきている。新規の女性入会者は国家試験女性合格者の比率と同じくらいで全体の約1/3を占めており[1],今後は女性がもっと活躍できる場所を提供していく必要がある。
アメリカでは耳鼻咽喉科・頭頸部外科はスペシャリストとして収入も多く、レジデントの人気は常にトップ5に入り,競争率も高く優秀な人材が入ってくる。しかし,日本では上記のようにあまり人気はなく,下から数えた方か早いのが現状である。
本特集のテーマは『魅力的な内分泌外科にするために』ということであるが,耳鼻咽喉科・頭頸部外科自体があまり人気のない診療科であるため,内分泌外科医を目指す以前にまずは耳鼻咽喉科・頭頸部外科に入局してもらうことが大切で,その上で頭頸部外科医,さらに内分泌外科医を目指してもらう,ということになる。
われわれのような地方の私立大では他大学から入局してくるケースはほとんどないのが現状である。そのため,とにかく学生・研修医に対して継続的な働きかけを行っている。病棟看護師に行うレクチャーを学生や初期研修医に公開して,耳鼻咽喉科・頭頸部外科に興味を持ってもらうきっかけにしてもらったり,定期的な医局説明会を開いたりしている。また関連学会に連れて行って耳鼻咽喉科・頭頸部外科の魅力を知ってもらったり,長期休暇の際に関連病院やがんセンターへの見学をしてもらったりもしている。学生の間から後期研修病院の相談にものり,がんセンターや甲状腺専門病院,手術症例数の多い病院など,魅力ある病院での研修についての話を積極的に行っている。
耳鼻咽喉科・頭頸部外科の中で内分泌外科への関心が低い理由をいくつか考えてみると,一つにはサブスペシャリティとして,既に頭頸部外科学会で定められている頭頸部がん専門医が認定されていることにある。甲状腺癌はその頭頸部がん専門医の診療範囲に含まれているため,その必要性を感じていない人が多いという側面がある。
現在,頭頸部がん専門医は全国に448名いるが[2],耳鼻咽喉科・頭頸部外科医のうち内分泌外科専門医は61名しかいない[3]。われわれ頭頸部外科医の診療領域は口腔・咽喉頭に発生する扁平上皮癌が主で,甲状腺癌よりも症例数が多いため,どうしても扁平上皮癌の治療が中心となってしまい,まずは頭頸部がん専門医を取得するということになってしまう。また,甲状腺外科診療を行っているのは内分泌外科医の少ない関西が中心で,地域格差が存在するという現状もある。
魅力的な内分泌外科にするために,われわれ耳鼻咽喉科・頭頸部外科医がその特徴を活かして,内分泌外科学会にどのように寄与していくのがよいのか,また耳鼻咽喉科・頭頸部外科医に対してどのように興味を持ってもらうかを考えてみた。
●技術面における寄与
頭頸部外科医が得意とする,喉頭,気管,縦隔や副咽頭間隙などの拡大手術や,甲状軟骨形成術や披裂軟骨内転術など音声外科手術などで貢献していけるのではないかと考えている。
●内分泌外科に取り組む体制や教育システムの構築
頭頸部外科領域では,甲状腺手術は頭頸部癌手術の流れの一つと考えていて,甲状腺外科に一から取り組む体制や教育システムがない。超音波検査などの診断から手術,フォローアップという一連の流れの中で甲状腺手術に興味ある教室員を作っていく必要がある。甲状腺外科診療を中心に頭頸部癌治療を行っている当科はそのモデルケースになれるのではないかと考えている。
●女性医師の活躍
前述したように,耳鼻咽喉科・頭頸部外科への入局者の1/3が女性であり(図1),その女性の活躍に期待をしている。頭頸部癌の再建手術は長時間かかり,またグロテスクでもあり,どうしても女性医師に避けられる傾向にあった。一方,甲状腺手術は長時間となる手術は少なく,ワークライフバランスもよい。実際,当科の女性教室員の一人も学生時代からの強い希望で現在隈病院にて研修を行っている。また現在,当大学の6年生が甲状腺専門病院に興味を持っており,入局を考えてくれている。腫瘍の手術を行いたい女性医師にとって興味ある領域ではないかと考えている。
耳鼻咽喉科医師数および日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会新規入会者数(2021年)
(A)耳鼻咽喉科医師数 女性医師の比率は増加傾向である
(B)新規入会者数 女性の国家試験合格者は全体の1/3を占める。耳鼻咽喉科・頭頸部外科においても国家試験合格者と同様,新規入会者は全体の1/3を占めるようになった。
●内視鏡下甲状腺手術
また関心を持ってもらうには内視鏡下甲状腺手術をきっかけにするのがよいと考えている。頭頸部外科医の中は内視鏡下甲状腺手術の技術を頭頸部癌手術に応用しようと考えている人も多いため,内視鏡下手術をきっかけに,内分泌外科を知ってもらい,学会参加につなげていければよいのではないかと考えている。
●Early Exposure
早い段階で甲状腺手術に接してもらうことが大事なのではないかと考えている。例えば,私がまだ専門医も取得していない若手の頃,甲状腺進行癌の拡大切除で有名であった永原國彦先生の指導のもと診療を行っていた。非常に厳しく教育され,まさにタイガーマスクの虎の穴といった感じであった。その時一緒に診療を行っていた医員は3人しかいなかったのであるが,その3人が理事である淡海医療センターの森谷季吉先生,伊藤病院の友田智哲先生,そして私である。偶然なのか若い頃に教育された影響なのか,現在3人とも内分泌外科学会に深く関わって活動している。
とりとめのないことをいろいろ述べたが,魅力ある内分泌外科にしていくためには耳鼻咽喉科・頭頸部外科医を増やしていくだけでなく,早い段階で内分泌外科に関するしっかりした教育を行い,その魅力を伝えていくことが一番の近道であると考える。