日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
Online ISSN : 2758-8777
Print ISSN : 2186-9545
特集2
アルドステロン症および類縁疾患
西本 紘嗣郎向井 邦晃
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2022 年 39 巻 4 号 p. 250-255

詳細
抄録

原発性アルドステロン症は,副腎からの過剰なアルドステロン産生により,水分と塩分が過剰に貯留し高血圧になるだけでなく,アルドステロン過剰自体が心血管系に炎症や線維化を誘発することから,高率に脳卒中や心臓病を発症させる。原発性アルドステロン症は主に,アルドステロン産生腺腫(aldosterone-producing adenoma: APA),特発性アルドステロン症(idiopathic hyperaldosteronism: IHA),および稀な家族性アルドステロン症に分類される。近年我々はアルドステロン合成酵素の免疫染色法を報告し,さまざまなアルドステロン産生病変を視覚化してきた。本稿では,それらの病変を供覧するとともに治療法について概説し,部分切除術の適応に言及する。

はじめに

片側副腎の全摘除術は,機能性副腎腺腫(コルチゾール産生腺腫やアルドステロン産生腺腫[APA]など)や副腎の悪性疾患(副腎皮質癌や褐色細胞腫)の治療法として最も信頼性が高い。一方,両側副腎の全摘除術は,患者に生涯にわたるステロイド補充療法を必要とさせる。固定用量によるステロイド補充療法は,生理的な必要量より多い量のステロイドを投与することによる骨粗しょう症,肥満,クッシング症候群などの原因となるだけでなく,体調不良時や労作時などではその投与量では足りず,患者は致命的な副腎不全状態(addisonian crisis)となる。それゆえに,両側副腎腫瘍,片側副腎のみを有する患者に発生した副腎腫瘍,あるいは家族性副腎腫瘍などに対しては可能なかぎり副腎部分切除術を行うことが望まれる。

原発性アルドステロン症は,副腎からの過剰なアルドステロン産生により,水分と塩分が過剰に貯留し高血圧になるだけでなく,アルドステロン過剰自体が心血管系に炎症や線維化を誘発することから,高率に脳卒中や心臓病を発症させる。原発性アルドステロン症は主に,アルドステロン産生腺腫(aldosterone-producing adenoma:APA),特発性アルドステロン症(idiopathic hyperaldosteronism:IHA),および稀な家族性アルドステロン症に分類される。近年われわれはアルドステロン合成酵素の免疫染色法を報告し,さまざまなアルドステロン産生病変を視覚化してきた(図1234)。本稿では,それらの病変を供覧するとともに治療法について概説し,部分切除術の適応に言及する。

図1.

正常副腎皮質の免疫組織化学染色像

A~C:球状層,束状層,網状層から構成される副腎皮質。D~G:アルドステロン産生細胞クラスター(APCC)を含む斑入り状組織構築を持つ副腎皮質。D:ヘマトキシリン・エオジン染色像(HE)。A,E:アルドステロン合成酵素(CYP11B2,青色)とステロイド11β-水酸化酵素(CYP11B1,茶色)との二重免疫染色像。B,F:3β水酸化ステロイド脱水素酵素(3βHSD,茶色)の免疫組織染色像。C,G:ステロイド17α-水酸化酵素(CYP17,茶色)の免疫組織染色像。この図は文献[]より許可を得て転載された。

図2.

アルドステロン産生腺腫(APA),コルチゾール産生腺腫(CPA),およびそれらの付随正常副腎(non-tumor)の免疫組織化学染色像

A,B:アルドステロン産生腺腫,C,D:APAの付随正常副腎における球状層,束状層,網状層から構成される副腎皮質,E,F:APAの付随正常副腎におけるアルドステロン産生細胞クラスター(APCC)を含む副腎皮質。G:CPAとその付随正常副腎皮質。NT:non-tumor。A,B,D,F,G:アルドステロン合成酵素(CYP11B2,青色)とステロイド11β-水酸化酵素(CYP11B1,茶色)との二重免疫染色像。I:3β水酸化ステロイド脱水素酵素(3βHSD,茶色)の免疫組織染色像。C,E,H:ヘマトキシリン・エオジン染色像(HE)。この図は文献[]より許可を得て転載された。

図3.

小児副腎皮質の免疫組織化学染色像

ZG:球状層,ZF:束状層,ZR:網状層。アルドステロン合成酵素(CYP11B2,青色),ステロイド11β-水酸化酵素(CYP11B1,茶色)。小児副腎にはAPCCが検出されない。この図は文献[]より許可を得て転載された。

図4.

APCCからAPAへの移行を示唆する病変の免疫組織化学染色像

A,C:ヘマトキシリン・エオジン染色,B,D:アルドステロン合成酵素(CYP11B2,青色)とステロイド11β-水酸化酵素(CYP11B1,茶色)との二重免疫染色像,E,F:未染色切片から組織を採取した後。AとB,および,C~Fはそれぞれ連続組織切片。A~Bにおける青矢頭およびC~Fにおける点線はAPCCからAPAへの移行を示唆する病変を示す。EとFから採取した組織からはイオンチャネル・ポンプ遺伝子の体細胞変異が検出され,この病変がAPCCからAPAへの移行病変として矛盾のない結果であった。この図は文献[]より許可を得て転載された。

ステロイド合成酵素の検出による病変の視覚化

アルドステロン産生細胞の病理学の理解には,アルドステロンだけでなくコルチゾールの合成経路の相異点を理解することが重要である。両者はコレステロールから複数の合成酵素(図5, 青字)による化学反応を経て合成される。共通に作用する酵素として,コレステロール側鎖切断酵素(CYP11A1),3β-水酸化ステロイド脱水素酵素(HSD3B2),ステロイド21水酸化酵素(CYP21A2)は,アルドステロン産生細胞(球状層)とコルチゾール産生細胞(束状層)に発現する。アルドステロンとコルチゾールの合成には,それぞれ特異的な酵素であるアルドステロン合成酵素(CYP11B2)とステロイド11β-水酸化酵素(CYP11B1)が最終段階に働く。

図5.

アルドステロンとコルチゾールの合成経路

アルドステロンとコルチゾールは,コレステロールから複数の合成酵素(青字)による化学変化を経て合成される。赤点線は,変化した化学構造部分を示す。

両者の合成に共通して作用する酵素は,コレステロール側鎖切断酵素(CYP11A1),3β-水酸化ステロイド脱水素酵素(HSD3B2),ステロイド21-水酸化酵素(CYP21A2)である。コルチゾール合成には,性ステロイドの合成に必要なステロイド17α-水酸化酵素/17,20-リアーゼ(CYP17A1)も作用する。

アルドステロンとコルチゾール合成の最終段階に,それぞれアルドステロン合成酵素(CYP11B2)とステロイド11β-水酸化酵素(CYP11B1)が特異的に働く。すなわち,CYP11B2とCYP11B1は,アルドステロン産生細胞とコルチゾール産生細胞のマーカーである。

CYP11B2は11-デオキシコルチコステロンの11β位水酸化,18位水酸化,および18位酸化の3つの化学反応を触媒してアルドステロンを合成する。一方,CYP11B1は11-デオキシコルチゾールの11β位水酸化のみを行ってコルチゾールを合成する。CYP11B2とCYP11B1はパラログであり,両者のアミノ酸配列は93%が同一である。

すなわち,CYP11B2とCYP11B1はそれぞれアルドステロン産生細胞とコルチゾール産生細胞に特異的に発現する。2酵素はアミノ酸配列が93%同一であり,これらを区別して免疫組織化学的に検出することは長らく困難と考えられていた。われわれは両者を識別して検出する免疫組織化学染色法にはじめて成功して報告し[],原発性アルドステロン症の多様な病変像を視覚化してきた。

生理的アルドステロン産生とアルドステロン産生病変

アルドステロン産生は,図6aに示すように被膜下の球状層において生理的にレニン・アンギオテンシン系により制御される。ラットの副腎球状層で観察されるように,ヒトの球状層においてもアンギオテンシンⅡにより合成酵素群が発現誘導され,さらに細胞層が肥厚すると推測される[]。われわれは,未成年ではCYP11B2陽性細胞が被膜下全周に検出されるが(図6a),興味深いことに成人の副腎皮質ではCYP11B2陽性である球状層は散在性にしか認められないことが多く,塊状の細胞組織がアルドステロン産生することを新規に見いだして(図6b),これらの細胞集塊をaldosterone-producing cell cluster(APCC)と命名した[]。APCCが形成されることは原発性アルドステロン症に対する副腎部分切除術の適応を考えるうえで重要である。

図6.

ヒトアルドステロン産生細胞・組織の副腎内分布および病態との関連

a:従来から知られる教科書的な球状層を持つ副腎。b:正常成人副腎皮質におけるアルドステロン産生細胞クラスター(APCC)を持つ副腎。c:APCCの増加や増大による原発性アルドステロン症患者の副腎。d:APCCはAPAへの移行病変を有する副腎(仮説)。e:アルドステロン産生腺腫(APA)を有する副腎。

2011年以降,APAにKCNJ5ATP1A1ATP2B3CACNA1Dなどのイオンチャネルやイオンポンプ遺伝子の体細胞変異(APA関連変異)が判明した。これらの変異は,レニン・アンギオテンシン系による制御からはずれて,アルドステロン産生細胞の脱分極や細胞内カルシウム濃度の上昇を介してアルドステロンの自律的産生を引き起こすと推定されている。興味深いことに,APCCにもAPA関連変異を検出した[]。これは,APCCにおけるアルドステロン産生はAPAと同様に自律的であることと矛盾がない。実際,マトリックス支援レーザー脱離イオン化法を応用した組織切片における質量分析イメージングでは,APCCに高濃度のアルドステロンを検出した[]。APCCは加齢とともに増加・増大し(図6c)[],明らかなAPAのない原発性アルドステロン症患者の副腎には,APCCからAPAへの移行を示唆する病変(possible APCC-to-APA transitional lesions:pAATL)も検出されている(図6d)[]。APCCやpAATLは多発性であり,しばしばAPAと併存する(図6e)。このような症例では,APAを副腎部分切除により除去しても原発性アルドステロン症は治癒しない。

APAの病理学的確定診断

CYP11B2とCYP11B1の免疫組織化学染色は,APAの病理学的な確定診断を可能にした[]。APAと鑑別すべき副腎皮質腫瘍としては,コルチゾール産生腺腫(後述)と副腎偶発腫があげられる(図7)。APAはCYP11B2陽性細胞を必ず有し,CYP11B1陽性細胞やCYP11B2とCYP11B1をどちらも発現しない細胞(double negative cells)も有するのが特徴である。すなわち,APAはアルドステロンとコルチゾールを産生する。APAは1cm程度の大きさのものが多く,割面は肉眼的には鮮明な黄色(Canadian yellowと表現される)であることが多い。コルチゾールの正常血中濃度はアルドステロンのそれと比較して数百倍高いことから,1cm程度のAPAが産生するコルチゾールは通常は臨床的には問題になることはない。しかし,2cmを超えるAPAは時としてサブクリニカルクッシング症候群を併発する。なお,APCCはCYP11B2陽性細胞を持つが,CYP11B1陽性細胞は持たない。

図7.

副腎偶発腫(incidentaloma),APA,possible APA-to-APCC transitional lesions(pAATL)の模式図

コルチゾール産生腺腫はCYP11B1陽性細胞とdouble negative cellsを有するが,決してCYP11B2陽性細胞を持たない。クッシング症候群やサブクリニカルクッシング症候群の原因となるコルチゾール産生腺腫は通常大きく(>2cm),その付着正常副腎は血液中のACTHが低値となるために委縮し,かつ,CYP11B1をほとんど発現しない。副腎偶発腫は,コルチゾール産生腺腫と同様,CYP11B1陽性細胞とdouble negative cellsから構成される。しかし,これらの細胞から産生されるコルチゾールはクッシング症候群やサブクリニカルクッシング症候群の診断基準を満たすほどには産生されず,臨床的に「偶発腫」と診断されると考えられる。「偶発腫」は一部の患者において高血圧や耐糖能異常の原因となることが知られるが,それは少ないながらもコルチゾールを産生するためであると考えられる。

ここでAPAに関する部分切除術について考えてみる。APAは比較的小さく,付着正常副腎の委縮を伴わないことが多いため,読者は副腎部分切除術の最も良い適応と考えるかもしれない。しかし,APAの付着副腎にはAPCCやpAATLが併発することも多いため(図6e),安易に副腎部分切除を適応することは勧められない。

超選択的副腎静脈サンプリング(super-selective adrenal venous sampling)

それではAPA症例について副腎部分切除を適応するか否かの判断はどのように行われるべきであろうか。適応は,APA付随正常副腎に微小APA,APCCの多発や増大,あるいはpAATLなどのアルドステロン過剰産生病変がないことを確認することにより判断されると考えてよい。APAの診断,すなわち片側性の原発性アルドステロン症の診断は,副腎静脈サンプリングによる局在診断により行われる。これは左右の副腎中心静脈にカテーテルを挿入し,同部位から血液を採取して,それらのアルドステロン・コルチゾール比([血漿アルドステロン濃度]/[血漿コルチゾール濃度])を測定して,それらの左右比が2.6~4倍以上の場合に「片側性」と診断される[]。しかし,この方法で診断されたAPA患者では,片側副腎摘除術を行っても治癒しないことが一定の頻度で起きる。これは,不適切な副腎静脈サンプリングに起因することもあるが,アルドステロンを過剰産生する病変(APCCやpAATLを含む)が反対側副腎に存在するが,患側の病変が反対側の病変より相対的に多いアルドステロンを産生する場合などが原因となると考えられる。

これらの問題を解決して片側性原発性アルドステロン症を確実に診断するためには,副腎静脈支脈から採血を行う超選択的副腎静脈サンプリング(super-selective adrenal venous sampling,ssAVS)は極めて有効であるだけでなく,副腎部分切除の適応決定も可能である。実際のssAVSの手技については,オープンアクセスのビデオ論文で詳しく説明したのでそれをご覧いただきたい( https://www.jove.com/v/55716/a-novel-method-super-selective-adrenal-venous-sampling)[]。

最後に

本稿では,原発性アルドステロン症とその手術について最新の知見を交えて概説した。ssAVSは牧田幸三氏らが開発した優れた手技である[]。著者らは,両側APAのように部分切除が有効な選択肢である患者にはssAVSを行うべきであると考えている。なお,埼玉医科大学国際医療センターでは,牧田幸三氏を非常勤講師として任用し,ssAVSを施行している。適応となる患者を紹介いただけたら幸いである。

【文 献】
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top