日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌
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特集2
褐色細胞腫
氏家 剛植村 元秀河嶋 厚成宮川 康辻畑 正雄野々村 祝夫
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2022 年 39 巻 4 号 p. 256-260

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抄録

褐色細胞腫は副腎髄質のカテコールアミン産生クロム親和性細胞から発生する腫瘍であり,過剰に放出されるカテコラミンによって多彩な症状を呈する。両側褐色細胞腫は同時性もしくは異時性に確認され,全体の約10%を占めるといわれている。遺伝子異常を背景に有する症例がほとんどで,他疾患を併発している場合もあるので注意が必要である。

転移を認めない場合は,摘除術が標準治療となる。両側褐色細胞腫の場合,両側副腎をすべて切除するのか,副腎皮質温存を図るのかに関しては,大規模なRCTがないため,コンセンサスは得られていない。全摘を行えば生涯を通したステロイド補充が必要となり,副腎クリーゼのリスクを背負うこととなる。部分切除を行えば,ステロイド補充の回避を目指せる一方で再発リスクが上昇する。今後,症例を蓄積し,両側褐色細胞腫に対する高いエビデンスに基づいた治療戦略の確立を期待したい。

はじめに

褐色細胞腫は,副腎髄質のカテコールアミン産生クロム親和性細胞から発生する腫瘍である。傍神経節から発生した腫瘍はパラガングリオーマ(PGL)と区別され,両者を総称して,褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)と呼ぶ。2017年WHO腫瘍分類では,すべての褐色細胞腫・パラガングリオーマは転移の可能性のある悪性腫瘍と定義づけられ,適切な治療と経過観察が求められている[]。

20世紀には,褐色細胞腫は遺伝性,両側性,副腎外,悪性の可能性がそれぞれ10%といわれ,10%病と呼ばれていた。しかし,2014年の米国内分泌学会ガイドラインにおいても遺伝性の頻度が33.8%と明記され,この10%ルールは実状にそぐわないことは国際的にも認められたものである[]。本邦においても,370人のPPGL患者を対象として生殖細胞系列バリアントの保有率の調査が行われ,32.4%にバリアントが検出された。また,遺伝性を強く疑われない症例の24.8%にも生殖細胞系列に遺伝子変異が認められ,遺伝性の頻度は10%をはるかに上回ると考えられる[]。

両側発生の褐色細胞腫は同時性もしくは異時性に確認され,遺伝子異常が背景にある症例がほとんどである。2019年に19か国45施設が参加した両側褐色細胞腫625症例を検討した大規模な共同研究によれば,96%に胚細胞変異が確認されたと報告している[]。つまり,両側褐色細胞腫に遭遇した場合,家族性に褐色細胞腫を発症する疾患について,理解を深めておく必要がある。

転移のない褐色細胞腫の標準的な治療法は外科的切除である。両側褐色細胞腫の場合,両側副腎をすべて切除するのか,副腎皮質温存を目的とした副腎部分切除を行うのかに関しては,コンセンサスは得られていない。褐色細胞腫自体が希少疾患であり,大規模なRCTがないため,両側褐色細胞腫に対する治療方針は確立されたものがない。腹腔鏡下手術支援ロボットの普及やシーリングデバイスの進化など,手術環境は各段に進歩している。まだまだ臨床データも少ない部分も多いが,本稿が両側褐色細胞腫の理解の一助になれば幸いである。

両側褐色細胞腫の疫学

褐色細胞腫の発生率に関しては,海外においては10万人あたり,0.46~0.8人/年との報告がある[,]。本邦では詳細不明であるが,高血圧患者10万人に対して1~2人程度の有病率とされている[]。このうち,両側性に発症する割合は,褐色細胞腫全体の10%前後といわれている[10]。小児患者においては頻度が多くなり,24~38%に両側発症を認めるとの報告がある[1113]。これは同時性でだけではなく,異時性も含まれており,小児で褐色細胞腫が片側のみに見つかった場合でも,異時性に発症する可能性は念頭においておくべきである。

近年,褐色細胞腫の遺伝子解析は急速に進み,20以上の関連遺伝子が同定されている。このうち代表的なものとしては,血管新生や細胞増殖に関与するVHLやSDHx,HIF2α,細胞内のシグナル伝達に関与するRET,NF1,MAX,TMEM127が挙げられる。本邦における370人のPPGL患者を対象とした生殖細胞系列バリアントの保有率の調査では,32.4%にバリアントが検出された[]。バリアント保有率に関して,片側の副腎褐色細胞腫では9.2%(119例中),両側の副腎褐色細胞腫では69.0%(29例中),頭頸部のPGLでは51.9%(77例中),胸腹部のPGLでは33.0%(115例中),多発のPGLでは57.1%(21例中)と報告している。つまり,両側褐色細胞腫では生殖細胞系列のバリアント保有率が最も高いということになる。その内訳はVHLが50%と最も多く,RET,MAX,TMEM127,SDHBの順であった。

海外での多数例の報告では[14],両側褐色細胞腫526例中505例(96%)に胚細胞変異が見つかったとしている。同定された遺伝子は,RETが54%,VHLが35%,その他が7%であった。このような変異遺伝子が原因となる各症候群に関しては理解を深めておく必要がある。主な症候群について,表1にまとめた。それぞれの疾患が同時に診断される場合も多く,治療方針の決定や各病態の管理において,他科との綿密な連携が重要であると考えられる。

表1.

両側褐色細胞腫を有する可能性のある各症候群

両側褐色細胞腫の検査

同時性に褐色細胞腫が確認された場合でも,片側性に準じた検査を行う。24時間塩酸畜尿検査にてカテコラミン過剰分泌の有無を確認した後に,あるいは血中メタネフリン・ノルメタネフリン濃度の測定後に,腫瘍の局在,広がり,転移の有無に関する画像診断を行う。CTの空間分解能は高いが疾患特異性は低い。123I-MIBGシンチグラフィーは疾患特異性が高いが,転移巣診断の感度は低い。両側性症例に関しては,悪性の可能性もあるため,転移巣検索に有用とされる18F-FDG-PET検査施行を検討してもいいかもしれない。

両側褐色細胞腫の治療

転移を認めない褐色細胞腫の標準的治療は外科的切除である。先ほども述べたように,両側褐色細胞腫と診断された症例では,各症候群が背景にあり,同時に各病態を発症している場合もある。MEN2の褐色細胞腫に関しては,通常甲状腺髄様癌が先行し,30~40歳で約半数が発症する[14]。甲状腺髄様癌の先行が48.2%,同時発症(診断)が38.9%,褐色細胞腫が最初に診断される例は12.9%との報告がある。同時に診断された場合,甲状腺手術に先立って褐色細胞腫を摘出すべきである。これは,褐色細胞腫を発症したMEN2患者では褐色細胞腫による死亡が死因の64.1%を占めるとの報告もあり,褐色細胞腫のコントロールが予後規定因子となるからである[14]。

われわれも,MEN2Bと診断された12歳の小児患者で,同時期に,両側褐色細胞腫,頸部リンパ節転移を伴う甲状腺髄様癌,大腸憩室穿孔による後腹膜膿瘍の3病態が同時に発症・診断された症例を経験した[15]。小児外科,麻酔科と協議し,まずは褐色細胞腫の手術を行い,後日甲状腺手術を行い,すべての病態を安全にコントロールすることができた。

術式に関して,両側褐色細胞腫の場合,両側副腎をすべて切除するのか,副腎皮質温存を図るのかに関しては,コンセンサスは得られていない。2014年のEndocrine Society management guidelineには[],副腎皮質温存手術に関しては,エビデンスレベルが低いと記載されている。両側褐色細胞腫に限らず,副腎皮質温存を主目的とした副腎部分切除術に関しては,褐色細胞腫自体が希少疾患であるため,大規模前向き無作為化臨床研究は困難であり,術式の有効性,安全性を支持するような高いレベルのエビデンスは存在しない。

こういった状況に対して,2019年に19か国45施設が参加する大規模な共同研究の結果が報告された[]。本研究は,両側副腎褐色細胞腫に対し,副腎全摘除術を受けた301例と副腎温存手術を受けた324例を合わせた625例を解析した報告であり,2022年現在では,最も大規模な調査といえる。

849回の副腎手術のうちで,324例が副腎温存を試みられた。副腎温存手術324例中248例(76.5%)で副腎不全を回避できたと報告している。観察期間の中央値は8年(3~25年)というなかで,ステロイド補充が必要となった症例は全症例625例中377例(60%)であった。ステロイド補充が必要となった症例のうち,67例(18%)は少なくとも1回は副腎クリーゼを起こし,50例(13%)は医原性クッシングを起こしていた。観察期間中にステロイド補充患者47人(12%)が死亡しているが,2人(0.5%)は副腎クリーゼで死亡している。永続的なステロイド補充が必要な症例は常にクリーゼを惹起するリスクが伴っていることを医療者ならびに患者側も理解しなければならない。

副腎部分切除術については,手技が確立しているとはいい難い。有用性に関する論文は,副腎部分切除術に関しては1983年から,腹腔鏡下副腎部分切除術に関しては1997年頃から,ロボット支援腹腔鏡下副腎部分切除術に関しては2006年頃から散見される[16]。どの術式を選択するべきかに関しての検討はないが,2020年の褐色細胞腫に対する副腎部分切除について検討した報告では[17],124例中開腹が29例(23.4%),腹腔鏡手術が47例(37.9%),ロボット支援下が48例(38.7%)となっており,日本では普及していないロボット支援下での副腎部分切除術が普及していることがうかがえる。副腎切除に適した腫瘍の大きさに関しては,3cmを超えない方がよいとする報告があるものの[1819],高いエビデンスに基づくものではない。124例の検討では,腫瘍サイズの中央値は2cm(IQR 1.5-2.7)であり,実臨床においても3cmを超えない副腎腫瘍が部分切除に適していると判断していることが示唆される。また,副腎中心静脈は可能であれば残すべきであり,残せた場合は1/3の副腎組織を温存することが目標となる[]。腫瘍評価ならびに副腎中心静脈の同定のためにも,術中超音波は行うように準備しておくべきである。ただし,副腎中心静脈の温存もすべての症例で可能ではなく,これに関しても先述した124例の報告によれば[17],中心静脈を温存できた症例は38.6%にとどまっている。本検討では永続的なステロイド補充が必要となった症例は9.3%であり,必ずしも中心静脈の温存が必要とは限らないようである。マージンに関しては,3~5mmが理想とされるが[2021],これも大規模なデータによる保証はない。

副腎部分切除術の術後治療成績に関しては,625例の多施設観察研究においては[],術後再発率は全摘群が6.7%(301例中2例)に対し,部分切除術群では13%(248例中33例)と部分切除術群で高くなる傾向が示されている。ただし,OSに関しては両群間で有意差は認めなかったと報告している。また,褐色細胞腫124例の前向き研究では[17],部分切除症例の局所再発が17例(15.8%),転移を1例(0.9%)に認めたと報告している。再発までの期間は中央値71カ月,また転移症例は術後14年と長期のfollow upが必要であることが示唆される。

両側褐色細胞腫に転移巣が発見された場合,手術による根治は見込めない。治療目標はPFSを延長すること,カテコラミン過剰の症状を制御することとなる。詳細は本稿では割愛させていただくが,シクロホスファミド・ビンクリスチン・ダカルバシンによる抗癌化学療法(CVD)や,2022年1月に本邦においても保険収載された131I-MIBG療法,カテコラミン制御を目的としたメチロシン投与が治療薬として候補となる。

両側褐色細胞腫の術後フォローアップ

同時性に発見された褐色細胞腫症例においても,片側性と同じように経過観察が必要である。潜在的に悪性腫瘍の可能性があることから,米国内分泌学会は全例に生涯を通した経過観察を推奨している。また,欧州内分泌学会においても,全例で少なくとも術後10年間の経過観察を,特に再発高リスク患者(手術時年齢20歳未満,症候性/遺伝性疾患,腫瘍径15cm以上,PGLなど)は生涯を通した経過観察を推奨している[22]。本邦のガイドラインでは[],全例で少なくとも10年間,高リスク群では生涯にわたる経過観察を推奨している。具体的な経過観察方法は,主に血圧測定,および生化学的検査(随時尿中総メタネフリン分画測定,適宜,血中カテコールアミン濃度,24時間尿中カテコールアミン,メタネフリン分画,VMA測定)で行い,異常を認めた場合は画像検査を行うように指示している。

近年,変異遺伝子に基づく経過観察方法も提唱されている[23]。両側症例においては,変異遺伝子が検出されることが多いので,参照いただければ幸いである(表2)。

表2.

遺伝子変異に基づいた褐色細胞腫の術後経過観察方法(文献[23]より改変)

おわりに

褐色細胞腫は潜在的に悪性腫瘍の可能性があるため,転移を認めない症例に対しては確実な腫瘍摘除が求められる。全摘を行えば生涯を通したステロイド補充が必要となり,クリーゼのリスクを背負うこととなる。部分切除を行えば,ステロイド補充の回避を目指せる一方で再発リスクが上昇する。希少疾患であるという不利な面もあるが,症例を蓄積し,手術デバイスの発達と平行し,褐色細胞腫の標準治療である切除術を中心とした治療戦略の確立が望まれるところである。

【文 献】
 

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