Journal of Applied Glycoscience
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糖質関連酵素化学シンポジウム
糸状菌Stereum purpureum由来エンドポリガラクツロナーゼIの原子分解能
-X線結晶構造解析に基づく反応機構-
清水 哲哉中津 亨宮入 一夫奥野 智旦加藤 博章
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2004 年 51 巻 2 号 p. 161-167

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抄録

エンドポリガラクツロナーゼ(EndoPG)は,inverting型の加水分解酵素であり,その触媒機構の詳細は不明であった。本研究では,リンゴ銀葉病菌(Stereum purpureum)の病徴発現蛋白として単離されたEndoPG Iを用いて触媒機構の解明を目的としてX線結晶構造解析を行った。イオンスプレー型質量分析装置を用いたEndoPG Iの糖鎖修飾の分析結果からEndoPG Iの結晶化には,3種のアイソフォーム,EndoPG Ia,Ib,Icのうち糖鎖の最も少ないEndoPG IaをEndoHで糖鎖切断した脱糖鎖型EndoPG Iaを用いた。この脱糖鎖型EndoPG IaをPEG 4000を沈殿剤に用いたハンギングドロップ蒸気拡散法により結晶化した。得られた結晶は,空間群P1に属し,格子定数はa=37.26 Å,b=46.34 Å,c=52.05 Å,α=67.17°,β=72.44°,γ=68.90°であった。この結晶を用いて大型放射光施設SPring-8によりX線回折実験を行った。結晶構造の決定は,多波長異常分散法で行った。SPring-8で収集したデータを用いて初期位相を決定し,最終的に0.96 Å分解能でR値11.4%,Rfree値14.0%という超高分解能のEndoPG Iの構造モデルを得た。得られたEndoPG Iの構造は,10回の完全ターンの平行β-へリックス構造であった。さらに反応生成物であるガラクツロン酸(GalA)を1分子を含むbinary複合体と2分子含むternary複合体の結晶構造を1.00 Åおよび1.15 Å分解能で決定した。binary複合体において1分子のピラノース型(GalpA)の結合がみられた。GalpAの結合位置は,活性残基と推定されているAsp153,Asp173,Asp174の還元末端側にあたることから,GalpAは+1サブサイトに結合していると考えられた。一方,ternary複合体においては,GalpAの他に,フラノース型のGalfAの結合がみられた。GalfAの結合位置は,活性残基の非還元末端側にあたる-1サブサイトと決定された。+1サブサイトでは,三つの塩基性残基,His195,Arg226,Lys228がGalpAのカルボン酸の結合に関与していた。一方,-1サブサイトでは,特異なcis型のペプチド結合がGalfAのカルボン酸の認識に関わっていた。そこで,二つのガラクツロン酸の結合状態を基に,基質の-1,+1結合した2量体部分のモデルを構築し,EndoPG Iの反応機構を検討した。まず,Asp173は切断される基質モデルのグリコシド結合と直接水素結合しうる位置にあった。したがって,Asp173はグリコシド結合にプロトンを供給する一般酸触媒残基と確認された。一方,Asp153とAsp174は,基質のアノマー炭素を求核攻撃すると考えられる水分子と水素結合していた。このことから,Asp153あるいはAsp174が水からプロトンを引き抜き活性化する一般塩基触媒残基と予想された。

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© 2004 by The Japanese Society of Applied Glycoscience
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