本論文は南北アメリカ地誌を文化地理学の視点と方法で検討する試論であり,新大陸と呼ばれてきた広大な地域を考察するための枠組みを提示することを目的とする。アメリカ合衆国における地理学の研究動向および南北アメリカを対象とした文化地理学研究の成果を概観し,4つの研究のアプローチ,すなわち人間と環境,起源と伝播,地域と景観,時間と変化が重要であることを指摘した。このような認識に基づいて,コロンブス以降の南北アメリカを概観するために,北西ヨーロッパ系小農経済文化地域,プランテーション経済文化地域,イベリア系牧畜経済文化地域の設定を試みた。そして,アメリカ合衆国の発展は北西ヨーロッパ系小農経済文化地域が国土の全域に拡大するプロセスであることを指摘するとともに,具体例としてグレートプレーンズ,南カリフォルニア,カリフォルニア・セントラルバレーにおける地域変化の概要を示した。さらに,3つの経済文化地域の設定は南北アメリカにおける日系社会の比較研究に有効であることを論じた。