抄録
ユネスコは1978 年から世界的な価値をもつ文化財や自然を保護するために世界遺産への登録を開始した。世界遺産登録の目的の一つに,文化的観光を促進することがある。多数の人々が世界遺産を見ることにより,世界遺産の価値とその保護の重要性を認識することは重要である。多くの世界遺産においては観光客が急激に増加しており,管理上の大きな問題となっている。旅行会社によって「世界遺産」をセールスポイントとしたツアーが商品化されているが,人々が世界遺産のもつ価値をじっくりと理解する時間的余裕はない。観光のもつ意義を実現できる適切な方策の構築が重要である。一方,日本では観光振興のための体制整備が急速に進んでいる。また,学問としての観光の研究を確立させ,発展することが目指されている。「世界遺産と観光」という具体的な課題に対して,地理学が果たすべき役割が明らかにされなければならない。観光政策審議会が示した観光の意義に関する文章をキーセンテンスとして,世界遺産との関連でどのように研究が具体化されるかを考察し,さらに地理学がかかわるテーマを試論的に提示した。