2019 年 12 巻 3 号 p. 207-226
本稿は,隣接諸領域において長らく術語となってきた景観を夜との関係から考察することで,景観論に若干の考察を加えることを目的とする。景観の原語とされるラントシャフトは,自然科学分野にて紹介され,方法論的発展の必要と相まって視覚的・静態的・形態的に捉えられた。他方の人文学領域においては,景観・風景の使い分けがなされてきたが,1970年代の景観の有するモダニティに対する批判的検討以降も視覚的題材がその考察の主体であった。夜を光の不在で定義すると,人間が視覚で地表面を捉えることのできない夜の地域の姿が浮かび上がってくる。これは,視覚を頂点とするヒエラルキ−を再考することでもある。同時に夜に可視化される光と闇に,近代以降,人間は都市・自然らしさという意味を見出してもきた。それは,光で演出する行為であり,星空を見る行為でもある。現代はその双方が自然と都市に混在するのである。