抄録
本稿では現代日本における沿岸漁家経営の存立基盤実態を解明することを目的に,漁家の労働力配分と地域条件について検討した。事例地域は能登半島東部に位置する七尾南湾沿岸部の2地区2集落であった。各地区はそれぞれ,賃金労働との兼業が卓越している地域,観光業が卓越している地域として識別された。そして,聞き取り調査から得られた漁家の事例をもとに,年周・日周の二つの時間スケールから世帯内での労働力配分を分析した。結果として,同一海域に属するミクロな地域間においても生業活動の歴史的展開や漁場利用制度をはじめとした地域条件に対応しながら,異なる労働力配分のもとでローカルな沿岸漁家経営が存立していることが明らかとなった。今後の研究では,多様な地域条件下における世帯の労働力配分の事例・分析を積み重ねていくことで,兼業漁業の多様性を明らかにしていくことが可能となると考えられる。