2018 年 14 巻 2 号 p. 18-33
本稿では、明治期に翻訳から生じたとされる「N(Nは名詞の意)の多く」という類の直訳に注目し、数量の多いことを表す英語の表現「~ of N」がどのような日本語と対応しているのかについて、当該期の日英対訳会話書約150点を対象に横断的な調査を行った。その結果、日本人の手になる会話書にも英米人の手になる会話書にも副詞等を伴う意訳が多くみられることがわかった。また、日本人の会話書の中には英米人の会話書ではみられない「Nの多く」類の直訳が一定数みられた。これは後に一般化する同種の表現の早い例とみることができた。当該期において日本人の外国語理解の方法には訓読という背景があり、書きことばを無視できなかったことに対し、英米人は当時の話しことばの習得に重点をおいていたということが、今回の調査結果に反映していることを論じた。