抄録
本稿は,スペイン・バスク州のドゥランゴにおいて毎年12月に開催されるブックフェアを研究対象とし,そこで扱われるエスニック資源や関与するエスニック資本の特徴,それらと地域に刻まれた記憶との関係を記述することで,祝祭がバスク語話者集団と彼らの住む地域を活性化させる過程を明らかにすることを目的とする。1965年に始まったドゥランゴのブックフェアは,現在ではバスク地方最大の文化の祝祭といわれる。来場者はバスク地方在住のバスク語話者にほぼ限定され,彼らは巡礼のように頻繁に来場する。これを主催するゲレディアガ協会は,ブックフェアと来場者を結ぶ社会起業家としての役割を担う。この協会名には,かつてドゥランゴ一帯の政治的自治が執り行われた場所の象徴的地名が冠されている。バスク語話者集団が共有するドゥランゴに刻まれた場所の記憶が,彼らにとってのネイションとしてのバスク地方の地域活性化と連動しているといえる。