抄録
本研究では,伊能図と現在地図をGIS上で重ね合わせることにより,1821年から2020年までの日本国土の地理的変化を分析した。具体的には,街道,湖沼,河口,島を対象に,それらの位置や形状の変化を可視化するとともに,変化をもたらした要因を考察した。オーバーレイ解析を施した結果,(1)代替道路の敷設によって伊能が実測した街道の24.7%が現在までに消滅し,それらは地方の山間部に多く分布すること,(2)湖沼の周長や面積の変化量は基本的にその規模に比例するが,変化の要因には都市部と農村・山間部で違いがみられること,(3)大都市圏における河口の移動は流路の変更や改修に起因する一方,非都市化地域では主に浸食・堆積作用に起因すること,(4)都市に近い島ほど埋立・干拓による影響が大きく,自然的要因による形状変化は小島に多くみられることが判明した。これら実証分析の成果は,古地図研究においてGISを活用したオーバーレイ解析が威力を発揮することを示唆する。