抄録
日本ワインの消費量の増加を反映して,日本各地に新たなワイン産地が形成されている。本稿では2000年代後半以降にワイン産地の形成が進んだ長野県高山村を事例に,行政の取組みによるワイン産地の形成プロセスを明らかにした。高山村では1996年よりワイン用ブドウが一戸の農家によって栽培され始めた。その後,2004年に村内のブドウで作られたワインが国内のコンクールで評価されたことを契機に,行政による産業振興策の一環としてワイン用ブドウ栽培が推進されるようになった。その際,行政が主導的な役割を担いつつも,地域内外の多様な主体を巻き込みながら産地形成が進められた。こうした新たなネットワークの形成が,新興産地において重要な役割を果たすことが示された。現在,ワインは高山村を象徴する資源として村内外に認識されるようになりつつあるものの,伝統的ワイン産地と比較すると萌芽的であり,今後の活用が期待される。