抄録
本研究は,非大都市圏に位置するX県の児童養護施設の退所者が,施設外でどのように生活を営んでいるのかを明らかにすることを目的としている。とくに退所後の生活で,どのような苦労や困難があるのか,それらをどのように解決しようとしているのかを分析し,困難の固定化や生きづらさを生じさせてきた要因が社会のどのスケールで生じてきたのかに注目して整理し,他者との様々なスケールでの結びつきが退所者の生活に果たす役割を考察した。
その結果,困難や苦労,生きづらさとしてお金を無計画に使ってしまった失敗や施設生活と社会人生活の差による消費の反動,他者との比較によって生じる孤独感,家族とのつながりがネガティブに作用することが挙げられた。行政や民間団体が実施する奨学金制度の利用や友人,職場の人,施設職員,家族といった様々な広がりを有する社会との結びつきは,退所者の困難や苦労,生きづらさを軽減させる部分とそれらを固定化させ,新たな困難を生じさせていた。