抄録
本研究は,都心部における人口回復および都心居住の進展をめぐる諸課題について,地理学における研究成果と統計データ等を基に明らかにし,それらを高校地理B「居住・都市問題」の単元において扱うための授業を開発した。授業展開例は以下の通りである。まず,導入部においては,東京,ニューヨーク,バンクーバーの都心部の景観写真を提示し,近年都心部でのマンション開発が増加し都心居住の傾向が著しくなってきたことを示す。次に,展開部1)では,各都市の特性を反映して都心居住が進行している要因が異なることを説明する。具体的には,東京都心部においては,マンション供給と公営住宅の建替えが人口増加を引き起こしたことを考察させる。そして,不良住宅地区などの都市居住問題が古くから顕在化していたニューヨークでは,都市生活を好む裕福層にむけた高級住宅が供給されるようになり,ジェントリフィケーションが進んでいることを示す。さらに,バンクーバーでは,裕福なアジア系移民による住宅購入が顕著で,EXPO'86 やオリンピックなどを契機として高級な住宅の供給が加速した。最後に,都心居住の背景にある都市居住問題を多角的に議論するとともに,現代世界の課題として都心居住を理解させてまとめとする。