2016 年 9 巻 1 号 p. 1-20
近年,北米では業務改善自治地区(BID)が普及している。本稿では,トロントのエスニックネイバーフッドを中心にBIDの動向を議論し,北米都市を分析するための空間的枠組みとして,BIDの意義を明らかにする。BIDは特定の地区内の土地所有者が自主的に課税することにより資金を確保し,域内の経済的活性化のために活動する地域自治制度である。1970年にトロントで誕生後,1980年代までにカナダで1990年代以降アメリカで導入が進展した。1980年代,トロントではエスニック集団の名称を冠するBIDの設立が相次いだ。こうしたエスニックBIDの出現は,1971年の二言語多文化主義政策への転換によるエスニックマイノリティへのまなざしの変化を反映する。エスニックBIDでは,地元経営者・土地所有者から成るBID役員会におけるリーダーシップと役員構成が,エスニックブランディングの発展を規定する。BIDはローカルアクターに着目し,北米の都市空間を精細に読み解くための鍵概念である。